"墓前の少女は「娘は生きてる」と言った" 第6話
「本当なら、この子もだった」
私は庭でを並べて遊んでいるゆきを見た。自分がの子どもと何が違うのか、きっと何度も考えたことがあるのだろう。それでも母親が困った顔をするのが分かっているから、幼いなりにく尋ねないようにしてきたのかもしれない。
「この子は、本当の名をらないの」
咲は俯いた。
妊娠、修司が別の名を決めていたが、咲は逃げたあとで「ひまり」と名づけていた。のへ顔を向けるのように、怖い所ではなくるい方を選べるになってほしいという願いを込めた名だった。それでも戸籍へ届けることはできず、7度も娘本に本名だと教えられないまま「ゆき」と呼んできた。
私は腹がった。
修司にではなく、7というそのものにだった。娘から族を奪い、孫から学を奪い、とうとう自分の名まで奪っていた。そのに対して、私は初めて「もう分だ」とった。
「咲」
私は娘を見た。
「逃げるのは、もう終わりにしない?」
咲はすぐには答えなかった。台所の蛇から滴ずつ落ちるの音だけが、狭いに響いていた。やがて娘は両を握り、何かを決めるように顔をげた。
「私、自分で申してる」
「うん」
「きているって、自分から言う」
私は頷いた。
「ひまりにも、本当の名を返したい」
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7、娘は逃げることで子どもを守った。
今度は、へることで守ろうとしていた。
数、私は咲と緒に女性相談の窓を訪ねた。担当の相談員は、咲が途で言葉に詰まるたびに急かさず待ち、「慣れてしまうと、異常なことを異常だとじにくくなるんです」と静かに言った。その言を聞いた、娘の肩が目に見えてがった。
咲は7、自分がかったから逃げたのだとい続けていたらしい。夫婦の問題を解決せず、母親にも相談せず、子どもを連れて姿を消した自分には、何か罰を受ける理由があるのだとい込んでいた。相談員はそれをつずつ否定し、まず全を確保したうえで、法律の専へつなぐ必があると説した。
紹介された佐々弁護士の事務所で、私たちは咲の戸籍資料を見せてもらった。そこには咲がしたものとして扱われるまでの記録があり、申の欄には根岸修司の名が記されていた。分かっていた事実なのに、活字になった名を見ると、私は腹の底が静かにえていくのをじた。
「失踪に関する裁判所の判断を取り消し、していることを戸籍も回復する続きが必です」
佐々先は説した。
「それと同に、お子さんのこともめます」
机のには、咲が7守ってきた資料が並んでいた。
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結婚につけた記、活費を記録したノート、診療の控え、体の傷を撮った写真、修司に言われた言葉をき残したメモである。古いばかりだったが、先は枚ずつ確認し、「残しておいて正解でした」と言った。
次に必なのは、今も危険が続いていることを示す材料だった。昔の為だけでなく、現の接触や監が分かれば、づかないよう求める続きをめやすくなるという。私はその説を聞きながら、今の命に修司がまた私のへ来る予定だったことをいした。
帰宅、私はで警察署へった。娘には言わず、事を説して、借周辺の見回りを増やしてもらえないか頼んだ。すぐに何かが起きたわけではない以、できることには限りがあると言われたが、相談記録を残してもらい、最寄りの交番とも報を共してもらえることになった。
咲に黙っていたのは、言えば「あののせいでお母さんまで」と自分を責めることが分かっていたからだった。
その晩、私はもうつの事実に気づいた。
咲がを届ければ、墓から娘の名を消すが来る。
7、骨のない墓に向かって話しかけてきた。寒くないか、ご飯はべているか、向こうで父さんに会えたかと、返事のない娘へ毎同じことを話した。その名を自分ので墓から消すことになるとは、にもわなかった。
しいはずなのに、涙がた。
こんなに嬉しい涙を流したのは、7で初めてだった。
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