"墓前の少女は「娘は生きてる」と言った" 第9話
玄関先で私の腕を掴んだ件についても、別に続きがんだ。
さらに先は、婚姻の経済な問題や咲が受けた為についても、残された記録をもとに理していくと説した。失われた7そのものをに換えることはできない。それでも、これから娘と孫がきるために取り戻せるものは、取り戻すべきだと先は言った。
私はその言葉を何度も読み返した。
「返してもらえるものではない」という気持ちは消えなかった。
咲が母親と暮らせなかった7。
ひまりが普通に学へ通えなかった。
私がんだ娘へ話しかけ続けた。
どれも戻ってはこない。
けれど過を取り戻せないことと、これからを諦めることは別なのだ。
をにして、咲とひまりは私のへ移ってきた。
あそこは修司が番よくっているだからと、最初は咲が嫌がった。しかし私は、「もう逃げ隠れは分したでしょう」と言った。玄関と勝の鍵を替え、警察にも相談を続けながら、でしい活を始めることにした。
引っ越してきたの夕方、私は茶箪笥の奥から若の湯呑みをした。の縁がし欠けており、咲がの修学旅で買ってきて、嫁ぐまで使っていたものだった。7、度も茶を注がず、毎拭いては伏せてきた器である。
「これ、まだあったの?」
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咲が驚いた。
「物を捨てるのがなのよ」
私は湯呑みにいお茶を注いだ。
咲は両でそれを包み、い眺めてから、ようやくんだ。
その姿を見て、私は初めてった。
この湯呑みは、もう遺品ではない。
ある晩、私たちは菓子缶にしまわれていた7通のを、古い順から読んだ。最初のには、ひまりを産んだのことがかれていた。通目には初めて寝返りをしたこと、通目には「ゆき」と呼ぶと振り返るようになり、本当の名を教えられない自分が苦しいと綴られていた。
通目の最には、こういてあった。
《お母さんの茶箪笥に、若の湯呑みがまだあるといいなといます。あれを見ると、帰る所が本当にあった気がするから》
私は黙って、ちゃぶ台のに置かれた湯呑みを指さした。
咲も何も言わなかった。
しばらくして、娘はさな声で呟いた。
「ずっと、自分は償わなきゃいけないとってた」
「何を?」
「逃げたこと。お母さんを置いていったこと。ひまりに普通の暮らしをさせられなかったこと」
私は答えずに聞いていた。
「あの夜、お母さんが玄関にってくれたでしょう」
咲は続けた。
「その、初めてったの。私、逃げたんじゃなくて、この子を守ったんだって」
それから咲は、と鉛を持ってきた。で絵を描いていたひまりを呼び、につの名をいた。
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つ目は、この町で7呼ばれてきた「ゆき」、そのには「矢島ひまり」とかれていた。
続きので咲は旧姓の矢島へ戻り、ひまりも母親と同じ姓で暮らしていくことになっていた。
「ゆきはね、あなたを守るために借りていた名なの」
咲は娘の目を見ながら話した。
「こっちが、お母さんがあなたにつけた名。ひまり」
女はつの名を何度も見比べた。
「これ、私?」
の文字を指さした。
「そう。あなたよ」
ひまりは鉛を握り直し、見よう見まねで自分の名をいた。「ひ」の丸みがし歪み、「ま」と「り」はれすぎていた。それでも私は、あれほど派な文字を見たことがなかった。
「ひまり」
私は初めて孫を本当の名で呼んだ。
女が顔をげた。
目ののさなほくろが、笑うとしだけいた。
4の朝はよくれていた。真しい赤いランドセルを背負ったひまりは、玄関の鏡ので何度も横を向き、ろを向き、自分の姿を確かめていた。遅れて迎える学だったが、本はそんなことより、名札に「矢島ひまり」といてあることが嬉しくて仕方がないようだった。
「おばあちゃん」
「はい?」
「ご飯、ちゃんとべてる?」
私は瞬、返事ができなかった。
7、娘が最に連絡を絶ったあと、私は何度も仏壇へ向かって同じことを聞いた。辺の借で娘と再会したにも、最初にからたのは「ご飯はちゃんとべているの?」
だった。族に対して私が言える事な言葉は、どうやら昔からそれほどくないらしい。
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