"「帰ってこなくていい」と笑った家族――20年目の離婚届" 第10話
17の卓
817の午9、国の台所には、まだ洗っていない鍋と器が積まれていた。
私が残した8つの保容器は、夜ですべて空になっている。浩司は蔵庫の扉を何度もけ、何も増えていないことに苛ちながら、「昼は適当でいい」と里奈に言った。
だが、そのに来る親戚は8だった。浩司の母、伯母夫婦、それに従兄の族5。これまで私は煮物やぷら、酢の物をから用し、10分の器と座布団を並べてきた。浩司は客ので「毎同じようなものだよ」と笑うだけで、買い物袋を1度も持ったことがなかった。
の夜、浩司からは《17の支度だけして帰ればいい》《親戚に婚のことを言うな》とメッセージが届いていた。私は返信せず、すべて画像として保した。妻ではなくなっても、親戚をもてなす仕事だけは続けさせるつもりらしい。
「パパ、何をすの?」
「お、女なんだからしくらい作れるだろ」
里奈は流しに置かれた鍋を見たあと、父親へ向き直った。
「私をママの代わりにしないで」
浩司は舌打ちして、直のスーパーへをらせた。総菜売りで寿司と唐揚げを買い込んだものの、盆けの品数はなく、10分には到底りなかった。乾麺を見つけ、そうめんを1.2キロ買って帰った。
11半、最初のが到着した。
「真由美さんは?」
玄関へ入った義母が当然のように尋ねた。
広告
浩司が「実だ」と答えると、伯母の美津子は産の箱を抱えたまま首をかしげた。
「今のことは伝えてあるんでしょうね」
「帰ってくるよう何度も言った。あいつが勝に婚届をして、を張ってるんだ」
玄関にいた全員のきが止まった。
浩司の母は声をひそめることもなく、「盆に婚届なんて、嫁として非常識ね」と言った。すると里奈が廊の奥からてきた。
「ママは13の朝に確認したよ。パパも私も、ずっと帰ってこなくていいって言った」
「里奈、余計なことを言うな」
「余計じゃない。私も言ったから、私も悪い。でも、ママだけが悪いみたいにするのは違う」
義母は眉をひそめ、「子どもが父親へそんなをきくものじゃない」と叱った。里奈は顔をこわばらせたが、俯かなかった。
「おばあちゃんは毎ママから話をもらってたよね。パパは何回かけたの?」
今度は義母が黙った。私から話がないはすぐ浩司へ満を言ったのに、自分から息子へ連絡を求めたことはなかった。
美津子は黙って靴を脱ぎ、居へ入った。座布団は5枚しかておらず、残りは押し入れの奥に入ったままだった。浩司は所さえらず、里奈が子を運んで何とか数分をそろえた。
昼過ぎ、浩司が鍋で1度にゆでたそうめんは、で締めるのが遅れて塊になった。
広告
汁は6分しかなく、寿司も12貫ずつでなくなった。
の効いた居には、箸が器へ当たる音だけが響いた。例なら私は台所と卓を往復し、減った皿へ料理をし、たい麦茶を注いでいた。誰も頼まなくても料理が増えていたため、親戚のくは準備に丸かかることさえ識していなかった。
「真由美さん、毎これをで用していたの?」
従兄の妻が驚くと、浩司は「好きでやってたんだ」と答えた。
美津子が箸を置いた。
「好きでやっているに、帰ってこなくていいなんて言わないでしょう」
浩司は返事をせず、伸びたそうめんをすすった。豪華な料理がないことより、今まで誰が卓をえていたかを全員にられたことのほうが、よほど堪えたようだった。
親戚が帰ったあと、里奈は器を洗い、居へ掃除をかけた。夜8を過ぎても浩司はソファからかない。
流しのに3ち続けた里奈の指先は、を吸ってくふやけていた。ごみ袋はつになったが、収集が分からない。私が蔵庫の横に貼っていた予定表を見つけ、ようやく曜だとった。
器棚のには、浩司が婚届を探したに放りした20冊の計簿が残っていた。
里奈は番古い冊を拾い、何気なくページをいた。
そこには、母親が族へ入れ続けた額と、自分でも忘れていた娘の成が、同じ文字で記録されていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
結婚初夜、義母を助けた私を殴った夫の誤算
結婚初夜、夫の実家で義父が義母の首を絞める現場を目撃した公認会計士の直美。助けようとした彼女を、信じていた夫・翔太は平手打ちし、「見て見ぬふりを覚えろ」と命じた。直美は義母を病院へ運ぶが、夫一家は弁護士と金の力を使い、彼女の口を封じようと動き始める。そんな中、義母が密かに託していた記憶装置が見つかった。嫁姑|絶縁|親子関係|介護4.8万字5 331 -
完結第25話
母との同居後、妻が倒れた――医師が私だけ呼んだ理由
父を亡くした春樹は、一人暮らしの母・節子を心配し、妻の夏美と三人で暮らし始める。家事も母の通院もこなす妻を見て、同居はうまくいっていると思っていた。ところがある朝、夏美が突然倒れ、救急搬送される。医師に一人だけ呼ばれた春樹は、妻の体に起きていた異変を知らされる。変更された婦人科の予約、開かれなかった白い封筒、妻に任せきりだった家の用事。自分は家族を守っているつもりだったのに、何を見落としていたのか。人生逆転|嫁姑|夫婦|親子関係3.1万字5 313 -
完結第15話
認知症の父を選んだ私を捨てた夫、5年後の再会
「俺と、あのボケた親父。どっちを選ぶんだ?」 認知症と診断された父を支えようとした都子は、夫の一郎から離婚を突きつけられる。長年の夢だった洋食店の継承も難しくなり、介護と生活に追われる日々。それでも地域の支援を頼り、父の料理を生かした新しい仕事に挑戦する。 五年後、介護事業者の交流会で元夫と偶然再会。若く美しい社長の妻と子どもがいると自慢する一郎だったが、都子は彼が指さした女性をよく知っていた。嫁姑|夫婦|親不孝3.1万字5 480 -
完結第20話
60日間見舞いゼロの夫、退院した妻に600万円を要求
突然の心臓病で緊急手術を受け、生死の境をさまよった美桜。六十日間の入院中、夫も義母も義妹も一度として見舞いに来なかった。届くのは、義母への月六百万円の送金を催促する連絡ばかり。家族だと信じて尽くしてきた美桜は、ついに夫との決別を決意する。しかし剛田家の人々は、美桜の本当の素性も、自分たちの会社や豪邸が誰によって支えられているのかも知らなかった。兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|金銭問題2.4万字5 564 -
完結第15話
50万円で嫁がされた私、6年後に見た父の姿
昭和63年、教師になることを夢見ていた19歳の藤崎千春は、父が受け取った50万円の結納金と引き換えに、東北の山村へ嫁がされる。進学を諦め、過酷な農作業に追われる毎日。ところが、段ボールの底に隠していた受験参考書を義母に見つけられた日、千春の運命は思いがけない方向へ動き始める。夫と義父母の支えで夢を取り戻した千春は、6年後、教師となって実家へ帰る。しかし庭先で目にしたのは、かつて自分の進学を許さなかった父の、信じられない姿だった。第二の人生|親子関係|金銭問題2.4万字5 449 -
完結第20話
父の死後、姉に追い出された私が嫁いだ農家の秘密
五年間、父の介護を一人で担ってきた三十三歳の美咲。ところが父の死後、二人の姉は遺産の独占を企て、美咲に実家から出ていくよう迫った。失意の中、美咲は交際相手の米農家・宮田大輔との結婚を決意する。しかし嫁ぎ先には七千二百万円もの借金があり、姉たちからも貧乏農家の嫁だと嘲笑される。それでも夫と田んぼを守ろうと決めた美咲に、大輔は「明日、俺の仕事場を見てほしい」と告げる。翌朝、連れていかれた巨大な倉庫で、美咲は思いもよらない光景を目にする――。夫婦|相続|絶縁|親子関係2.6万字5 540 -
完結第17話
忘れたコートが教えてくれたこと
結婚式まであと3週間。高橋ゆいは婚約者・博人の実家に忘れたコートを取りに戻り、衝撃的な会話を耳にする。食卓に広げられていたのは、祖母から相続した自分のマンションを、博人の実家が営む会社の追加担保にする計画書だった。しかも本人への説明は「婚姻後1週間」の予定。14人の従業員を守るためだと訴える婚約者の母と、すべてを知りながら黙っていた博人。人生逆転|裡切られた|夫婦|真相|修羅場2.0万字5 434 -
完結第22話
「祖母が危篤」と10万円を求めた夫の大嘘
双子を出産してわずか3週間。看護師の雪乃は、夫の幸一から「祖母が危篤だから10万円ほしい」と頼まれる。ところが本人に電話すると、83歳の松江は畑仕事の真っ最中。「またあの子は私を死にかけにしたのかい」と呆れた声を上げた。夫の嘘をきっかけに、雪乃は生活費の口座から多額の貯金が消えていることに気づく。祖父母と孫|夫婦|第二の人生2.8万字5 663 -
完結第20話
死んだ母を名乗る女
母を亡くして二年。三十歳の浅沼美咲は、空き家となった実家を片付けている最中、郵便配達員から思いがけない言葉を告げられる。「先月もお母様にお会いしましたよ」。亡くなったはずの母を名乗り、郵便物を受け取っている女がいるというのだ。家の中に残された生活の痕跡、天井裏から聞こえる不審な物音、そして母宛てに繰り返し届く現金書留。兄とともに調べ始めた美咲は、疎遠だった叔母の影と、母の遺産をめぐる不穏な思惑に気づく。死者の名を使ってまで隠そうとした秘密とは。真相|親子関係2.3万字5 1246