"昨日まで正しかった教科書" 第5話
昨まで読んだ文章。
今黒く塗る文章。
征に兄が見た、焼かれる教材。
全部がつながっているようにえた。
「先」
誠は尋ねた。
「昨まで教えてたこと、全部違いだったんですか」
はすぐに答えなかった。
「全部だったとはわない。今でも切だとうこともある。でも、先が自分で考えずに教えたことは確かにあった」
「じゃあ、分からないことを正しいって言ってたんですか」
「……そうだ」
は初めて、自分から認めた。
「先だから正しい答えを言わなきゃいけないとっていた。でも、本当は分からないまま教えていたこともあった」
静子は黙って聞いていた。
誠の目に涙が浮かんだ。
「兄ちゃんも、それ信じてったんですよ」
「分かっている」
「先が教えたんですよ」
「分かっている」
の声も震えた。
「だから、先は今度こそ、分からないことを分かったふりはしない」
翌の教。
は子どもたちのにった。
「今は、先から話があります」
ざわめきが止まった。
「昨まで正しいと教えたものが、なぜ今から塗られるのか。坂井君に聞かれました」
誠は顔をげた。
「先は全部を説できません」
教にさなどよめきが起きた。
「先自、まだ分からないことがあります。ただつ分かるのは、先が分からないことまで“先だから正しい”と言って教えたことがあったということです」
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ろの席からが聞いた。
「じゃあ、何を信じればいいんですか」
はし考えた。
「先の言葉だけを信じなくていい。教科だけでもなく、のだけでもない。いろいろ聞いて、自分で考えてください」
「でも先、子どもには分かりません」
「先にも分からないことがある」
その言葉に、子どもたちはまた静かになった。
は墨とを見た。
「指定されたところは塗ります。ただし、塗ったからといって、昨までそこに何がいてあったかを最初からなかったことにする必はないといます」
誠はゆっくりを取った。
目を黒くした。
目も塗った。
が震えた。
やがて、余に残る鉛きので止まった。
《誠、ここテストにるぞ》
健の字だった。
「先」
がづいた。
「これも塗らなきゃ駄目ですか」
は兄の字を見た。
「そこは教科じゃない」
「残していい?」
「残しなさい」
誠は兄の文字を避けて、本文だけを黒くした。
ページの央は真っ黒になった。
けれど。
端には。
兄のだけが残った。
しい教科はすぐには届かなかった。そのものがしていたため、学では墨を塗った古い本を使い続けるしかなく、授業でページをけば黒い帯が嫌でも目に入った。最初は誰もが気そうに眺めていたが、がまる頃には、その黒い跡すら教の景の部になっていった。
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ただし、の授業はしずつ変わっていた。
以なら、徒から質問されれば必ず何か答えようとした。らないと言えば教師としての威厳を失う気がしたからだ。
今は違った。
「先、それはどうしてですか」
「先も分からない。次までに調べてくる」
最初のうち、子どもたちはその答えを聞くたびに笑った。
「先なのにらないの?」
「らないことくらいある」
「じゃあ僕と緒ですね」
「およりはしくってるつもりだ」
そんなやり取りが増えた。
議なことに、教師としての威厳が落ちるどころか、子どもたちは以よりよく質問するようになった。
方で、のたち全員がそれを好に受け止めたわけではなかった。
あるの放課。
の父親が学へ鳴り込んできた。
「先にも分からんことがあるなんて子どもに言うな!」
息子がでそう話したらしい。
「そんな教師の言うことを、これからどう信じればいいんだ!」
岸はでをげた。
父親が帰ったあと、へ言った。
「難しい代になりましたね」
「私が余計なことを言ったでしょうか」
「いや。私も分かりません」
岸は苦笑した。
「ただ、今度は“自分で考えろ”という言葉まで、しい正解として押しつけない方がいい」
ははっとした。
戦争。
決められた言葉を正しいと教えた。
終戦。
今度は別の考え方を「これが正しい」
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