"昨日まで正しかった教科書" 第7話
健の名の横。
赤鉛で、
《授業の反抗発言につき放課指導》
といてあった。
「これですか」
「たぶん」
「反抗って何したんですか」
は苦笑した。
「質問しただけだ」
「それだけ?」
「先が、質問されるのが嫌だった」
誠は帳面を見た。
「じゃあ先が悪いじゃないですか」
「そうだな」
あまりに素直に認めるので、誠の方が驚いた。
は帳面を閉じた。
「健が帰ってきたら、謝らないといけないのは先の方だ」
その。
はその言葉を何度もい返した。
なぜなら。
が来るに。
坂井へ。
通の通が届いたからだった。
昭21の先。
がの端へまだく残っていた頃。
役から坂井へ通の封筒が届いた。
静子は畑へる支度をしていたが、差を見た瞬、玄関でかなくなった。
夫も誠も何も言わなかった。
静子はゆっくり封を切った。
は枚。
内容はかった。
健は方で部隊とともに消息を絶っており、現点で所を確認できない。
を確認したという通ではない。
だから。
希望を持とうとえば。
まだ持てた。
けれど。
終戦から半以が過ぎていた。
復員できる者は。
しずつ帰っている。
それでも健は帰らない。
《消息》
文字だけで。
族が避け続けてきた現実を。
分すぎるほど突きつけられた。
静子は通を仏壇のへ置いた。
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泣かなかった。
「まだ分からないってことだからね」
夫へ。
誠へ。
そして自分へ。
何度も言った。
誠も泣かなかった。
そのまま学へった。
教へ座った。
授業が始まった。
けれど。
何もに入らなかった。
昼休み。
誠は教科を抱え、のところへった。
教師はの顔を見ただけで何かを察した。
「らせが来たか」
誠は頷いた。
「消息って」
それ以。
言葉がなかった。
放課。
は坂井へった。
静子は仏壇のへ座り、健から届いた最の葉と通を並べていた。
は線をげた。
しばらくして。
「お母さん」
と呼んだ。
「健君に、謝らなければならないことがあります」
静子は顔をげた。
は、昔の質問と自分の態度を話した。
分からないことを聞いた健を。
反抗だと決めつけたこと。
征。
健が誠へ「先の言うことを聞け」と言った。
どこか誇らしくっていたこと。
「私は教師だから、正しいとっていました。子どもが疑問を持つより、私の言ったことを覚える方が事だとっていたんです」
静子は責めなかった。
代わりに。
部の隅に置かれた教科を見た。
「先」
「はい」
「誠は、あれからよく質問するようになりました」
「そうですね」
「面倒でしょう」
はし笑った。
「かなり」
静子も笑った。
ほんの瞬だった。
誠が奥から教科を持ってきた。
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例のページをく。
本文は黒い。
余に。
《誠、ここテストにるぞ》
という健の字。
静子は初めて、その文字をまじまじ見た。
「こんなもの残してたのかい」
「うん」
「塗らなかったの?」
「先が、そこは教科じゃないって」
静子は指先で文字をなぞった。
その瞬。
何かが切れたように。
泣きした。
声を抑えられないほど。
何度も。
健の名を呼んだ。
「こんな字、残してたのかい」
「もっとかせればよかったね」
「もっとをかせればよかった」
誠もそこで初めて泣いた。
は何も言わず。
のそばに座っていた。
健が最に何を考えていたか。
きているのか。
どこにいるのか。
誰にも分からない。
けれど。
余の鉛だけは。
確かにそこにあった。
そのから。
誠は。
「分からない」という言葉を。
以ほど怖いものだとわなくなった。
昭21の学期が始まる頃。
学にはしい教育方針に関する通が次々届いていた。
教師たちはしい言葉を覚え。
以の表現を使わないよう注された。
黒い墨の教科も。
しずつしいものへ置き換えられていった。
ある放課。
岸がを呼び止めた。
「し見てもらいたいものがあります」
の棚から。
古いノートを取りした。
戦争の訓話をき留めた帳面だった。
朝礼で話したこと。
教師へ指示したこと。
子どもたちへ覚えさせた言葉。
赤鉛で細かく記録されている。
岸はページをめくりながら言った。
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