"昨日まで正しかった教科書" 第8話
「終戦直、全部燃やそうとったんです」
は顔をげた。
「どうしてですか」
「恥ずかしかったからです」
岸は笑わなかった。
「こんなことを子どもたちに言っていた自分を、なかったことにしたかった」
は黙って聞いた。
「舎裏でマッチまで擦りました。でも燃やせなかった」
「なぜです」
「燃やしたら、私だけが楽になる気がしたからです」
その言葉を聞いて。
は健のをいした。
昔。
自分も。
教材を焼いた。
それを健が見た。
今。
教科は墨で黒くした。
見えなくなった。
けれど。
見えなくすることと。
なかったことにすることは違う。
岸はノートを閉じた。
「々はこれから、また別のことを教えるでしょう」
「はい」
「その、それが絶対に正しいと言い切っていいんでしょうか」
以の岸なら。
そんな質問をしただろうか。
はし考えた。
「言い切らなくても、授業はできるといます」
「難しいことを言いますね」
「最、坂井に鍛えられました」
はし笑った。
その。
は授業ので。
墨塗りされた箇所について。
子どもたちへ考えさせるを作った。
何がいてあったかを暗記させるのではない。
「なぜ以はこれを教え、今は使わないことになったとう?」
子どもたちはいついたまま答えた。
「戦争に勝つとってたから」
「がそう決めたから」
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「先もそう習ったから」
「みんな同じこと言ってたから」
はつも否定しなかった。
最まで黙っていた誠へ聞いた。
「坂井は?」
誠は黒いページを見た。
「消したら、正しくなるわけじゃないとう」
「どういうだ」
「に違ったことを言ったなら、何で違ったか覚えないと、また違うことを信じるかもしれない」
教が静かになった。
は黒板へ文字いた。
《なぜ》
「この言葉は、たぶんこれからも必になります」
子どもたちは黒板を見た。
誠も見た。
その。
誠は初めて。
自分も教師になりたいとった。
のような先になりたいからではない。
が。
自分の違いを認め。
変わった姿を。
見たからだった。
は。
度違えたら。
それで終わりではない。
そうえた。
戦の暮らしがしずつ落ち着いても、健が帰ることはなかった。数、族は帰還の能性が極めていことを受け入れざるを得なくなったが、静子は最まで「くなった」と断言することを嫌った。仏壇には写真を置いたものの、命だけは決めなかった。
誠は学を卒業したも勉を続けた。
計に余裕はなかった。
学を諦めかけた期もあった。
静子は言った。
「健があれだけ勉しろって言ってたんだから、できるところまでやりなさい」
も力を貸した。
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参考を譲った。
作文を見た。
試験には何度も質問に答えた。
ただし。
以のように。
何でも答えを教えることはしなかった。
「先、昔より悪になりましたね」
青になった誠が言った。
「昔は答えを教えすぎて失敗した」
「分からないだけじゃないですか」
「それもある」
そんな冗談を言える関係になっていた。
そして誠は。
教師になった。
初めて教壇へった。
自分より10歳ほどしかの違わない徒たちをに。
が震えた。
何を言っても。
見透かされる気がした。
その瞬。
昔のが。
なぜ「教師は正しくなければならない」とったのか。
しだけ分かった。
授業の途。
の徒から。
予していなかった質問をされた。
誠は答えをらなかった。
瞬。
適当な説を作ろうとした。
教師になって初。
「分かりません」
なんて言ったら。
頼りないとわれる。
でも。
昭20の教が。
へ浮かんだ。
黒い墨。
震える。
質問へ答えられなかった。
翌。
教壇で。
「先にも分かりません」
と言った姿。
誠は徒を見た。
「先にも分からない」
徒が目を丸くした。
「次までに調べてくるから、君も調べてみないか」
「先なのに?」
「先でも」
教から笑いが起きた。
授業はそのまま続いた。
何も壊れなかった。
教師の威厳も。
教の秩序も。
失われなかった。
職員へ戻ってから。
誠はで笑った。
そのの。
を訪ねた。
すでに髪の半分以がくなった恩師へ。
その話をした。
は嬉しそうに笑った。
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