"13歳の娘だけ、保険証にいなかった" 第2話
「美津子さん、お母さんかお父さんと緒に来た方がいいかな」
「どうしてですか」
「し確認しないといけないことがあるから」
「私の名がないだけですよね」
男は答えなかった。
美津子は昨から胸に引っかかっていた疑問を、初めて声にした。
「私、藤井美津子ですよね」
職員の顔から、困ったような笑みさえ消えた。
その沈黙を見た瞬、美津子は学へ遅れることなどどうでもよくなった。
役の待には、古いの子が列並んでいた。壁には予防接種の程や農業共済の案内が貼られ、窓の奥では算盤を弾く音が絶えず聞こえている。いつもなら何ともわない役の景が、その朝だけは自分を取り囲むらない所のようにじられた。
配の職員は、美津子のへ腰をろした。
「詳しい戸籍のことは、本が子どもだからといって、ここで全部説できる話じゃないんだ。まずのと来てもらいたい」
「でも、私のことですよね」
「そうだけどね」
「じゃあ教えてください。私は藤井の子じゃないんですか」
男はく黙った。
隣につ若い職員が何か言おうとしたが、配の男が目で止めた。
「つだけ言えるのは、美津子さんは今のところ、修さんと子さんの戸籍には入っていないということです」
美津子には最初、言葉のが分からなかった。
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「入ってない?」
「うん」
「でも緒にんでます」
「それは分かってるよ」
「学の類にも、父は藤井修、母は藤井子っていてあります」
「活のではそうなんだろう。でも戸籍は、別になっている」
美津子のには、その先の説がほとんど入らなかった。
学へ向かうつもりで役をたものの、気づけば反対方向へ歩いていた。川沿いのまで来て、ようやくを止める。のは解けで増え、く泡ちながら流れていた。
私は誰の子なんだろう。
それだけがのを回り続けた。
父の子ではないのか。母の子でもないのか。それともどちらか方だけは本当なのか。戦争で親をくした子を引き取ったのか、それとも父が昔、別の女とのに作った子なのか。
13歳の美津子がっている「族ではない子」の事など、その程度だった。
けれどい返せば、分からないことはいくつかあった。
美津子だけ、まれた頃の写真がない。浩や信夫には赤ん坊の頃の話を母が何度もするのに、美津子については「さいからおとなしい子だった」としか言わない。学へ入学したも、父ではなく母がで役や学をき来していた。
それまで疑問にわなかったことが、急に全部を持ち始めた。
昼になっても、美津子は学へかなかった。
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原を歩き、神社の段へ座り、また町へ戻った。空腹になったが、へ帰れば何かを聞かなければならないとうとが向かなかった。
夕方、さすがに暗くなるには戻らなければとい、のまで来た。
玄関に子がっていた。
学から欠席の連絡が入ったらしい。
「美津子! どこってたの!」
いつもなら、その声を聞いただけで「ごめんなさい」と言っただろう。
そのは靴も脱がずに答えた。
「役にった」
子の顔から血の気が引いた。
奥にいた修もちがった。
「美津子」
「私、誰の子?」
誰も答えなかった。
「どうして私だけ、このの戸籍に入ってないの?」
子がをきかけた。
「それは……」
「お父ちゃんの子じゃないの?」
修がすぐに言った。
「違う。そういうことじゃない」
「じゃあ、お母ちゃんの子じゃないの?」
「美津子、まずがれ」
「嫌!」
初めて父へ声をした。
「13も緒にいたのに、どうして私だけ何もらないの!」
奥の部で浩と信夫が黙って聞いていた。修はへ「でし遊んでこい」と言い、浩が配そうに姉を振り返るのを見ながら障子を閉めた。
子は卓袱台のへ座った。
何度もを組み直した。
「美津子」
「うん」
「あなたを産んだのは、私じゃない」
分かっていたような気がするのに、その言葉を実際に聞くと胸が痛んだ。
「じゃあ誰?」
「私のお姉ちゃん」
美津子は瞬きをした。
「お母ちゃんのお姉ちゃん?」
「っていうの」
初めて聞く名だった。
子はゆっくり話し始めた。
姉のは戦もない頃、同じ県内の別の町で暮らしていた。
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