"「お前は下がれ」白衣を脱いで5年、俺が社長令嬢を救った" 第13話
俺を支えた5
「病院での研修に、専したいとっています」
休憩で伝えると、さんは程表を広げた。退職までの引き継ぎを相談し始めてからも、俺は膝ののをなかなかけなかった。
「いろいろ助けてもらったのに、がりないに辞めることになって、すみません」
「おがここへ来たも、はりなかったよ」
さんは程表から顔をげた。
「5働いてくれた。その分は、ちゃんと助かってる。まだりないからいろとは言わんだろう」
俺は笑いかけて、途でを閉じた。ありがとうと言いたかったのに、謝る言葉ばかりが先にていた。
「ここへ来た頃、俺、ろくに話もしませんでしたね」
「検品で引っかかった物だけは、必ず持ってきたな。最初は箱ごと持ってきて、どれかわからなかった」
そのことをいし、今度は笑えた。さんは、まず気になる1個をせと言った。何が違うかわからないなら、そこから緒に見ると教えてくれた。
俺は部品の角を指で確かめ、測り直し、番号を追うことを覚えた。異常を見つけたが、確認を頼んでもいい所だった。
「ここで働いていなければ、もう度、誰かに助けを頼めなかったかもしれません」
俺が言うと、さんはし困ったように笑った。
「そこまできな話はしてないぞ。の段取りを緒に考えてただけだ」
広告
「それが、助かりました」
俺はようやくをげた。さんは、引き継ぐ相を決めようと言って、程表へペンを置いた。
残りの勤務では、検品の順をき直した。異常を見つけたに止める所と、確認を頼む相、返事がないの連絡先を、作業台のそばで読める形にまとめた。
同僚と実際にをかすと、俺にしかわからないき方が何か所も見つかった。説をし、順番を変えた。最は俺が黙って見ていても、確認と引き継ぎまでめられた。
「藤さんが病院にいても、これなら話しなくて済みますね」
「困ったら、班に頼んでください。俺よりずっと詳しいので」
隣で聞いていたさんが、そこで仕事を増やすなと言った。同僚たちが笑い、俺もいつもの席で弁当をいた。
最の勤務、が終業にく挨拶のを作ってくれた。俺は、ここで教わったことを話し、世話になった礼を伝えた。元科医としてではなく、このラインで働いてきた藤として挨拶できたことが、うれしかった。
ロッカーを空けると、底からくなった鉛がてきた。検品の数を記すために使っていたものだった。捨てずに、研修用の箱へ入れた。
しい活が始まってからも、製造の仕事とのつながりは残った。沢グループの全評価の会議には、研修に支障のない範囲で参加した。
広告
ある、試作部品の耐久試験で、予定の基準を満たさない結果がた。担当者は納期への響を気にして、結論を次の会議まで待てないかと言った。
美咲さんは、試験結果を机に置いた。
「再試験は必です。でも、今回の結果は今共しましょう。予定が遅れる理由も、相に説します」
担当者が修正案を説すると、彼女は費用と程を確認した。叱って終わらせず、必なを次の打ちわせに加えた。
俺は、そのやり取りを聞いていた。兄の件だけを特別に扱うのではなく、自分の会社で都な結果がたにも、美咲さんは同じように確かめようとしていた。
会議が終わると、彼女は俺の資料を見て、き込みが増えましたねと言った。
「研修でも、毎増えています。覚えたつもりのことほど、確認し直すところがあって」
「今度、その話も聞かせてください」
「次の会議のにですか」
美咲さんはファイルを閉じ、俺を見た。
「会議ではなくて。よかったら、2で夕にきませんか」
俺は返事をするに、持っていた資料を鞄へしまった。
「はい。俺からも、誘いたいとっていました」
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
同じ部署の社員が月30万〜50万円もらう中、私の月給だけは18万円だった
44歳の水野は、同じ開発部の正社員が月30万〜50万円を受け取る中、4年間ずっと月給18万円の契約社員として働いてきた。肩書は「技術補助員」だが、最大顧客のシステム保守や障害対応、大型更新まで実務の中心を任されている。それでも契約満了の日、人事から差し出された更新書類には、また同じ18万円の数字が並んでいた。「代わりはいくらでもいる。ほかに行く当てがないなら署名したほうがいい」。水野はペンを取らず、待遇差の説明を求める書面だけを提出する。そして午後4時、会社が用意した18万円の契約書ではなく、鞄に隠していた“もう1通の書類”を机の上へ置く――。職場逆転2.6万字5 5042 -
完結第12話
靴磨きの少年と会長の時計
有楽町の高架下で靴を磨く18歳の佐藤蓮には、他人には聞こえない微かな機械音を聞き分ける力があった。ある日、常連客である東都ホールディングス会長・田中健三の腕時計から、機械式時計には存在しない電子音を聞き取る。留め具から現れたのは、米粒ほどの盗聴器だった。会長に請われて本社へ入った蓮は、次々と情報漏洩を防ぐが、やがて産業スパイに仕立て上げられる。300万円の入金、深夜の入館記録、捏造写真。会社だけでなく帰る場所まで奪われた少年は、古い靴箱に残した証拠を抱え、会長を追い落とそうとする陰謀に立ち向かう。職場逆転|人生逆転1.7万字5 643 -
完結第11話
院長が頭を下げた看護師の妻
VIP患者が急変した救急処置室で、院長が深く頭を下げた。相手は、医師の俺ではなく看護師の妻・奈々だった。見合い結婚から3年。同僚が妻の外見を笑っても、俺はかばわずに通り過ぎた。だが、声が飛び交う現場で必要な情報を集め、救命の連携を支えたのは彼女だった。俺が知ろうとしなかった、看護師としての21年。「院長の知り合いだから」と片づけようとする同僚を前に、俺は初めて妻の仕事を自分の言葉で語る。その後、院長は奈々を旧姓で呼び、15年前の搬送記録を取り出した。なぜ、あの院長が妻に頭を下げたのか。答えにつながる患者の名前が、古い紙の上に残っていた。職場逆転1.5万字5 0 -
完結第10話
月8万円の町工場社長
俺は34歳の町工場社長。 肩書だけなら立派だが、役員報酬は月8万円。工場を守るために作った800万円の借金まで抱えていた。 そんな俺に、大手機械メーカー・白石精機の社長令嬢との見合い話が舞い込んだ。断られるつもりで貯金もないと正直に話したのに、琴子さんは微笑んだ。 「三浦さん。あなた、合格です」 ところが数日後、白石精機の幹部が工場へ現れた。琴子さんとの関係を断てば、年間数千万円の仕事を回すという。 工場には、治療を続ける妻を持つ職人も、子どもの学費を抱える社員もいる。断れば皆の生活に影響する条件だった。 さらに白石精機から、他社がすべて断った緊急部品の依頼が届く。材料は15本、必要数は12個。しかし6本を加工した時点で、合格品は一つもなかった。 残り9本では、どう計算しても足りない。 追い詰められた俺が開いたのは、亡き父の黒いノートだった。その中には22年前、まったく同じ部品を削った記録が残されていた――。職場逆転|人生逆転1.6万字5 772 -
完結第19話
1800円の御膳が1万8000円になった日――覆面社長が見つけたホテルの嘘
全国18店舗を経営するホテル会社の社長・高瀬直人は、相次ぐ不審な苦情を確かめるため、一般客を装って地方店を訪れた。注文した1800円の炊き込みご飯御膳に提示された会計は、10倍の1万8000円。さらに72歳の女性も、3000円の料理代として3万円を脅し取られてしまう。直人が録音と2枚の領収書を確保すると、削除された503件の苦情、36件の架空請求、そして支配人が差し出した500万円の封筒が浮かび上がる。服装で客を選び、ホテルを金を奪う罠へ変えたのは誰なのか。職場逆転2.5万字5 3390 -
完結第13話
「異物が入ってる!」老舗そば屋を潰した“32秒の嘘”
東京・深川で「柚香庵」を30年間守ってきた72歳の高瀬澄子。ある日、5人組の客から「そばに異物が入っている」と怒鳴られるが、正体は自家製の柚子薬味に残った種だった。ところが、男たちの目的は食事ではない。1億2000万円相当の土地を1800万円で奪うため、1分41秒の映像を32秒に切り、店主が異物混入を笑ってごまかしたように拡散したのだ。店の評価はわずか2時間で4.7から2.1へ。さらに保健所へ金属片の写真が届き、午前2時17分、閉店後の裏口に人影が現れる。30年分の信用を奪われかけた澄子は、孫とともに記録を残し始めた。職場逆転|金銭問題1.8万字5 620 -
完結第6話
会長、腕時計に盗聴器があります!
有楽町の高架下で靴を磨く18歳の佐藤蓮には、他人には聞こえない微かな機械音を聞き分ける力があった。ある日、常連客である東都ホールディングス会長・田中健三の腕時計から、機械式時計には存在しない電子音を聞き取る。留め具から現れたのは、米粒ほどの盗聴器だった。会長に請われて本社へ入った蓮は、次々と情報漏洩を防ぐが、やがて産業スパイに仕立て上げられる。300万円の入金、深夜の入館記録、捏造写真。会社だけでなく帰る場所まで奪われた少年は、古い靴箱に残した証拠を抱え、会長を追い落とそうとする陰謀に立ち向かう。職場逆転9.0千字5 218 -
完結第5話
「中卒は留守番してろ」と空港に置き去りにされた私
中卒ながら独学で資格を取り、旅行会社に中途入社した22歳の天野澪。現場経験を生かして難航していた企画を救っても、学歴を嘲る竹内部長に成果を奪われ続けていた。やがて澪は、予約困難な老舗旅館・天祥館の視察枠を獲得する。ところが出発前夜、竹内は部下を脅し、澪の航空券だけを密かに取り消した。羽田空港に1人残された澪へ届いたのは、「中卒は留守番してろ」というLINE。事情を知らず天祥館へ着いた同僚たちを待っていたのは、チェックインを認めない女将だった。なぜ女将は、不在の新人を待つのか。そして澪が保存した操作履歴と録音は、竹内の嘘をどこまで暴くのか。職場逆転8.1千字5 1944