"「お前は下がれ」白衣を脱いで5年、俺が社長令嬢を救った" 第14話
と作業着
最初の夕は、駅からし歩いたさなでべた。
美咲さんはメニューを見ながら、研修が休みのは何をしているのかと聞いた。俺は掃除と洗濯を済ませると、結局ノートをいてしまうと答えた。
「それなら、次はへましょう。気のいいに、しくまで」
「美咲さんは、休みのに仕事をしないんですか」
「してしまいます。だから、誰かと約束した方がいいのかもしれません」
顔を見わせて笑った。事が終わる頃には、次の休みに会う話が決まっていた。俺たちは兄の事件や仕事の話だけでなく、好きなべ物や、昔通った所をしずつ話すようになった。
何度か会った帰り、俺から、これからも緒に過ごしたいと伝えた。美咲さんはを止め、私もですと答えた。その初めて、並んで歩く彼女のを取った。
で彼女が倒れてから、1が過ぎた。
俺は39歳になり、美咲さんは29歳になった。今は仕事以で会う、彼女は俺を誠さんと呼ぶ。俺も、仕事のに、次の休みは2で何をしようかと考えるようになっていた。
再研修と技能の評価を受け、病院での診療へ段階に戻った。来と術チームの仕事を担い、任される範囲を指導医と確認しながら広げている。患者に説する、昔の失敗をいしてがたくなるはまだあった。
広告
それでも、同僚に相談し、確認してから患者のへ座れるようになった。
連携する診療所では、診療を決めて健康相談にも関わり始めた。医療器の全評価では、で覚えた記録のたどり方が役にった。試作品の問題を伝えるには、見つけたの名と、そのに何を確かめたかを残した。
旧病院とメーカーからの補償についても、弁護士を通じた話しいがまとまった。訂正と必な報告はわれ、遺族へ渡す資料が揃った。俺は訂正文を古い報告と緒に保管した。もう、片方だけをいて自分を責めることはなかった。
ある、診療所の勤務を終える頃、さんが顔をした。くへ来たついでだと言いながら、の仲から預かった菓子を渡してくれた。
「藤、飯はちゃんとってるか」
「べています。堂でべていたより、は規則ですけど」
「じゃあ、それは休憩にえ。1で全部うなよ」
俺が礼を言うと、さんはの名札を見た。
「似ってるな」
い言葉だった。俺は胸元に触れ、はいと答えた。さんは帰り際まで、いつもと同じ呼び方をしてくれた。
その週末、美咲さんと昼を取った、公園を歩いた。彼女は族で古い写真を理した話をしてから、兄の名をにした。
「兄、術を決めたに言っていたんです。
広告
藤先は、わからないと聞いても、面倒な顔をしないって」
俺は歩く速さを落とした。説を終えた、妹には自分から話すと笑った健太さんの顔が浮かんだ。
「わかるまで聞けたから、受けると決めた。俺にも、そう言ってくれました」
美咲さんはうなずいた。
「今、誠さんのに座るにも、そのがあるんですね」
俺はすぐには答えず、隣を歩く彼女のを握り直した。救えなかったのことを覚えたまま、これから診るへ向きってもいい。ようやく、そうえた。
翌朝、勤に、に残していた作業着を畳んだ。袖はし擦れていた。箱へ押し込まず、取りせる棚へ置いた。くなった鉛は、今持っていく箱に入っている。
携帯に美咲さんから、いってらっしゃいと届いた。俺は今夜話すると返し、鞄を持った。
病院に着き、の袖を通した。ポケットのメモ帳を確かめてから、診察へ向かった。
「藤先、次の患者さんです」
呼ばれて顔をげると、入に、そうに類を握るがっていた。
「どうぞ、お掛けください。気になっていることから、聞かせてください」
俺は患者の顔が見えるように子を向け、そのが話し始めるのを待った。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
同じ部署の社員が月30万〜50万円もらう中、私の月給だけは18万円だった
44歳の水野は、同じ開発部の正社員が月30万〜50万円を受け取る中、4年間ずっと月給18万円の契約社員として働いてきた。肩書は「技術補助員」だが、最大顧客のシステム保守や障害対応、大型更新まで実務の中心を任されている。それでも契約満了の日、人事から差し出された更新書類には、また同じ18万円の数字が並んでいた。「代わりはいくらでもいる。ほかに行く当てがないなら署名したほうがいい」。水野はペンを取らず、待遇差の説明を求める書面だけを提出する。そして午後4時、会社が用意した18万円の契約書ではなく、鞄に隠していた“もう1通の書類”を机の上へ置く――。職場逆転2.6万字5 5042 -
完結第12話
靴磨きの少年と会長の時計
有楽町の高架下で靴を磨く18歳の佐藤蓮には、他人には聞こえない微かな機械音を聞き分ける力があった。ある日、常連客である東都ホールディングス会長・田中健三の腕時計から、機械式時計には存在しない電子音を聞き取る。留め具から現れたのは、米粒ほどの盗聴器だった。会長に請われて本社へ入った蓮は、次々と情報漏洩を防ぐが、やがて産業スパイに仕立て上げられる。300万円の入金、深夜の入館記録、捏造写真。会社だけでなく帰る場所まで奪われた少年は、古い靴箱に残した証拠を抱え、会長を追い落とそうとする陰謀に立ち向かう。職場逆転|人生逆転1.7万字5 643 -
完結第11話
院長が頭を下げた看護師の妻
VIP患者が急変した救急処置室で、院長が深く頭を下げた。相手は、医師の俺ではなく看護師の妻・奈々だった。見合い結婚から3年。同僚が妻の外見を笑っても、俺はかばわずに通り過ぎた。だが、声が飛び交う現場で必要な情報を集め、救命の連携を支えたのは彼女だった。俺が知ろうとしなかった、看護師としての21年。「院長の知り合いだから」と片づけようとする同僚を前に、俺は初めて妻の仕事を自分の言葉で語る。その後、院長は奈々を旧姓で呼び、15年前の搬送記録を取り出した。なぜ、あの院長が妻に頭を下げたのか。答えにつながる患者の名前が、古い紙の上に残っていた。職場逆転1.5万字5 0 -
完結第10話
月8万円の町工場社長
俺は34歳の町工場社長。 肩書だけなら立派だが、役員報酬は月8万円。工場を守るために作った800万円の借金まで抱えていた。 そんな俺に、大手機械メーカー・白石精機の社長令嬢との見合い話が舞い込んだ。断られるつもりで貯金もないと正直に話したのに、琴子さんは微笑んだ。 「三浦さん。あなた、合格です」 ところが数日後、白石精機の幹部が工場へ現れた。琴子さんとの関係を断てば、年間数千万円の仕事を回すという。 工場には、治療を続ける妻を持つ職人も、子どもの学費を抱える社員もいる。断れば皆の生活に影響する条件だった。 さらに白石精機から、他社がすべて断った緊急部品の依頼が届く。材料は15本、必要数は12個。しかし6本を加工した時点で、合格品は一つもなかった。 残り9本では、どう計算しても足りない。 追い詰められた俺が開いたのは、亡き父の黒いノートだった。その中には22年前、まったく同じ部品を削った記録が残されていた――。職場逆転|人生逆転1.6万字5 772 -
完結第19話
1800円の御膳が1万8000円になった日――覆面社長が見つけたホテルの嘘
全国18店舗を経営するホテル会社の社長・高瀬直人は、相次ぐ不審な苦情を確かめるため、一般客を装って地方店を訪れた。注文した1800円の炊き込みご飯御膳に提示された会計は、10倍の1万8000円。さらに72歳の女性も、3000円の料理代として3万円を脅し取られてしまう。直人が録音と2枚の領収書を確保すると、削除された503件の苦情、36件の架空請求、そして支配人が差し出した500万円の封筒が浮かび上がる。服装で客を選び、ホテルを金を奪う罠へ変えたのは誰なのか。職場逆転2.5万字5 3390 -
完結第13話
「異物が入ってる!」老舗そば屋を潰した“32秒の嘘”
東京・深川で「柚香庵」を30年間守ってきた72歳の高瀬澄子。ある日、5人組の客から「そばに異物が入っている」と怒鳴られるが、正体は自家製の柚子薬味に残った種だった。ところが、男たちの目的は食事ではない。1億2000万円相当の土地を1800万円で奪うため、1分41秒の映像を32秒に切り、店主が異物混入を笑ってごまかしたように拡散したのだ。店の評価はわずか2時間で4.7から2.1へ。さらに保健所へ金属片の写真が届き、午前2時17分、閉店後の裏口に人影が現れる。30年分の信用を奪われかけた澄子は、孫とともに記録を残し始めた。職場逆転|金銭問題1.8万字5 620 -
完結第6話
会長、腕時計に盗聴器があります!
有楽町の高架下で靴を磨く18歳の佐藤蓮には、他人には聞こえない微かな機械音を聞き分ける力があった。ある日、常連客である東都ホールディングス会長・田中健三の腕時計から、機械式時計には存在しない電子音を聞き取る。留め具から現れたのは、米粒ほどの盗聴器だった。会長に請われて本社へ入った蓮は、次々と情報漏洩を防ぐが、やがて産業スパイに仕立て上げられる。300万円の入金、深夜の入館記録、捏造写真。会社だけでなく帰る場所まで奪われた少年は、古い靴箱に残した証拠を抱え、会長を追い落とそうとする陰謀に立ち向かう。職場逆転9.0千字5 218 -
完結第5話
「中卒は留守番してろ」と空港に置き去りにされた私
中卒ながら独学で資格を取り、旅行会社に中途入社した22歳の天野澪。現場経験を生かして難航していた企画を救っても、学歴を嘲る竹内部長に成果を奪われ続けていた。やがて澪は、予約困難な老舗旅館・天祥館の視察枠を獲得する。ところが出発前夜、竹内は部下を脅し、澪の航空券だけを密かに取り消した。羽田空港に1人残された澪へ届いたのは、「中卒は留守番してろ」というLINE。事情を知らず天祥館へ着いた同僚たちを待っていたのは、チェックインを認めない女将だった。なぜ女将は、不在の新人を待つのか。そして澪が保存した操作履歴と録音は、竹内の嘘をどこまで暴くのか。職場逆転8.1千字5 1944