"父の料亭を継いだ翌日、板長が全員連れて独立" 第7話
元建設の元会から、その話を直接聞いた。
「『俺のへ来てくれ』って言われたよ」
「どう答えられたんですか」
会は笑った。
「料理はうまい。そこは認める。ただ、うちがのを使ってきたのは料理皿のためだけじゃないって言った」
接待で相を連れてったの玄関の迎え方。
座敷のしつらえ。
回の酒の好みを覚えている仲居。
の配。
法事なら寺からの移。
会社宴会ならの席者数。
そういうもの全部を含めて「の」なのだと会は言った。
私はそこでようやく父の癖をいした。
《を守っとるのは、の料理じゃない》
子どもの頃から何度も聞いた。
けれど父は、その先を言わなかった。
今なら分かる。
の料理ではない。
の女将でもない。
座敷をえる。
皿を洗う。
魚を届ける。
酒を預けてくれる。
何も席を予約してくれる客。
全部がだった。
11半ばになると、黒田さんのは予定していたににわなくなった。
のフーズがりたことでの融資も止まり、内装代の支払いがまない。魚と酒は現払いを求められ、本が定していた仕入条件が崩れた。
ところがのを辞めた12は、10分の与を最に収入がない。
黒田さんは「もうし待て」と繰り返していたという。
私はそれを聞いても、ざまあみろとはえなかった。
広告
柚君の顔が浮かんだからだ。
彼は26歳。
追い回しで、黒田さんから「残ればこの町では働けなくなる」と言われれば、逆らえなかったのかもしれない。
その夜。
私の携帯話へ、登録していない番号から着信があった。
度切れた。
すぐまた鳴った。
留守番話には、黒田さんの声が入っていた。
「度話をしたい」
私は折り返さなかった。
翌朝。
着信履歴は11件になっていた。
翌は34件。
その次のは62件。
3で着信履歴は107件になった。
最初の留守番話は、「し話をしたい」「誤解がある」という内容だった。それが徐々に、「浦さんへ言言ってくれ」「元会へ俺のを使うよう頼んでほしい」に変わり、最には「のの系列ということにしてくれれば話は戻る」とまで言うようになった。
私は度も話になかった。
ただしだけで無したわけではない。
社会保険労務士と税理士へ確認し、13分の職続き、源泉徴収票、与、社会保険の資格喪失まで、会社として必な処理は全て期限内に終えた。
退職規程はなかったが、父の代からく勤めたへは餞別を包んでいたため、今回も同じ基準で支した。私個として腹がっていても、会社としてやるべきことまで投げせば、黒田さんと同じ所へ落ちる。
そのうえで、黒田さんには面を通送った。
広告
《今、のの号、取引先、顧客に関する個なご依頼には応じません。雇用関係の続きで必な事項があるは、面にてご連絡ください》
郵送したの夕方、私は番号を着信拒否にした。
しずさんが隣で見ていた。
「よろしいんですか」
「会社の用事は全部済ませました。ここから先は、私の携帯ですから」
永久に無しようと決めた。
方、しいの計画かられたたちが、今度はのへ連絡してくるようになった。
最初は柚君だった。
座敷へがるなり、畳へ額がつくほどをげた。
「あの朝、何も言わずにてすみませんでした」
「顔をげてください」
「黒田さんに、残ったらこの辺では働けなくなると言われました。僕、まだ3しかやってなくて、それを言われたら……」
私は彼を責めなかった。
ただつ聞いた。
「料理を続けたいですか」
柚君は顔をげた。
目が赤かった。
「続けたいです」
「なら、戻るなら追い回しからです。と同じ条件で戻すつもりもありません。沢渡さんのでから覚え直してください」
「お願いします」
次に来たのは24歳の君と仲居の真奈さんだった。
3とも若く、黒田さんについていけばしいで役ががると聞かされていたらしい。
方で、52歳の元焼き方・沼田さんも戻りたいと言ってきた。
「俺も黒田さんに騙された側なんですよ」
彼はそう言った。
私はすぐに断った。
「あの朝、黒田さんが『女将が何とかするだろう』とおっしゃった、ろで笑いましたよね」
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
3年ぶりの帰省、弟嫁がゴミ箱を漁っていた理由
32歳の玲奈は、3年ぶりに実家へ帰り、弟の妻・南が別人のように痩せていることに驚く。夕食の席でも南の前には料理がなく、家族は誰も気に留めない。その深夜、台所で物音を聞いた玲奈は、ゴミ箱を漁る南の姿を目撃する。「食べられるものを探していました」――その言葉をきっかけに、母と弟が南に強いていた異常な暮らしが明らかになっていく。さらに、南が隠し持っていた手帳には、翌朝に迫る恐ろしい約束が記されていた。玲奈は弟嫁を守るため、信じていた家族と向き合う決意をする。因果応報|人生逆転|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|修羅場2.4万字5 15 -
完結第11話
新婚初夜の裏切り
結婚式を終えた夜、美香はホテルの浴室から、夫の健太が自分のバッグを探る姿を目撃する。持ち去られたのは、父から贈られた1億円の預金口座のキャッシュカードだった。翌朝、健太は「弟の用事がある」と言ってホテルを出ていく。以前から義母と義弟は、8800万円の新居を欲しがっていた。まさか、私のお金で家を買うつもりなの? 夫を問い詰めず、黙って様子を見る美香。やがて不動産会社から、思いもよらない電話がかかってくる。結婚初日に露わになる夫の本性と、美香が密かに用意していた対抗策とは。兄弟姉妹|夫婦|ATM扱い|金銭問題1.8万字5 21 -
完結第18話
夜勤明けに鍵を替えられた私
看護師長として働く千歳は、後輩に昇進で追い抜かれ、仕事を休みがちになった夫・徹を支えようとしていた。ところが徹は次第に横柄になり、家事を押しつけ、「妻なら夫に従え」と言い始める。そんなある朝、夜勤を終えて帰宅した千歳は、玄関の鍵が替えられていることに気づく。「ダメ嫁への躾だ。謝れば入れてやる」と笑う夫に、千歳は「あっそ。さようなら」とだけ告げて立ち去った。妻が本気で戻らないと知った徹は、どんな行動に出るのか。自分の人生を取り戻そうとする女性の再出発を描く物語。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題2.6万字5 48 -
完結第10話
もやしと消えた仕送り
フリーランスのデザイナーとして働く里見は、一人暮らしの母・春江に毎月10万円を仕送りしているつもりだった。ところが、久しぶりに訪ねた実家で目にしたのは、冷やご飯ともやしだけの寂しい食卓。母は仕送りなど一度も受け取っていないと言う。家計を任せていたのは、優しく頼りになる夫の久し。疑念を抱いた里見が夫のスマホを確かめると、そこには信じがたい送金記録と、妻をあざ笑うメッセージが残されていた。さらに、夫が隠していた給与明細にも不可解な数字が……。信じていた家族の裏切りを知った里見の反撃が始まる。裏切られた|嫁姑|親子関係|金銭問題1.5万字5 38 -
完結第10話
「中卒女に現場は無理」職人10人が辞めた結果
中学卒業後、十五歳で職人の世界に飛び込んだ堀江千夏。三十二歳で工務店の現場責任者に抜擢されるが、古参の職人頭・岩木は「中卒の女に現場が回せるか」と嘲笑う。やがて岩木を含む十人が一斉に退職。大型介護施設の改修工事は納期目前なのに、残された職人はわずか三人だった。しかし千夏には、十七年間積み重ねてきた技術と、二十冊を超える黒い手帳があった。仲間とともに現場の立て直しに挑む千夏。その一方で、手帳に記された資材の数字が、会社に隠された不審な事実を浮かび上がらせていく。職場逆転|因果応報|人生逆転|修羅場1.3万字5 39 -
完結第20話
夫の昇進を伝えた瞬間、父が命じた全財産の移転
夫・達也の専務昇進を喜んだ美桜。ところが父に報告すると、返ってきたのは祝福ではなく、「財産をすべて母さんの名義に移しなさい」という不可解な指示だった。昇進を境に夫は横柄になり、義母まで豪邸と通帳を自分たちのもののように扱い始める。さらに、高額な宝石の領収書や会社の不審な資金移動が見つかり、美桜は夫の裏の顔を知っていく。嫁姑|夫婦|金銭問題2.5万字5 48 -
完結第10話
こぼされた定食の代償
社員食堂で働く43歳の松尾順子は、料理を通して社員たちを支えることに誇りを持っていた。ところが、営業部の神崎と宮下は、食堂のスタッフを見下し、暴言を繰り返していた。ついには大勢の前で定食を床にぶちまけ、順子たちを笑いものにする始末。さらに職場では不審な情報漏洩も発覚する。そんなある日、専務が食堂を訪れると、二人の態度は一変。順子を知らない二人は、そこで思いもよらない事実を知ることになる。職場逆転|人生逆転|修羅場1.5万字5 467