"毎月20万円送っていたのに、82歳の母は皿を洗っていた" 第17話
湯気の向こうの席
「もしもし、母さん?」
健がると、母の声がしくから聞こえた。受話の位置を直したらしく、すぐにはっきりした声になる。
「今、夕飯をべに来られる?」
「けるよ。何かあった?」
「鯖がよかったから、噌煮にしようとって。勝もく帰るっていうから、あんたもどうかとってね」
健は机のの予定表を見た。夕方の報告は、担当役員に確認を任せられる内容だった。母に着く刻を伝え、仕事の引き継ぎを済ませてから会社をた。
途で菓子を買おうとして、のでを止めた。母に必なものを尋ねると、返事は「豆腐を1丁」だった。健はくのスーパーへ寄り、綿か絹ごしかをもう1度聞いた。
に着くと、玄関にかりがついていた。漏りを直した井は乾いており、廊にはつまずきやすかった延コードもない。台所から、噌と姜の匂いが流れてきた。
「母さん、豆腐を買ってきたよ」
「ありがとう。を洗ったら、袋からしてくれる?」
母は鍋のをめた。あのに堂で着ていた掛けではなく、で使っている柄のものをつけている。健はを洗い、頼まれた豆腐をまな板へ置いた。
勝が茶をいれ、卓へ湯呑みを運んできた。健が箸の所を尋ねるに、弟は引きしを顎で示した。今は、どこに何が入っているか、健もだいたい分かるようになっていた。
広告
卓には茶碗が3つ並んでいた。母は鯖を皿へ移し、煮汁をしかけた。堂で母と向きったには、目のの料理をわうどころではなかった。同じ鯖の匂いを、今夜は座って吸い込めた。
「そこ、あんたの席。鍋を置くから、湯呑みをし寄せて」
母に言われ、健は卓の端の子を引いた。勝が母の座る所を空け、3でをわせた。
鯖は箸を入れると、が柔らかくほどけた。健がに運ぶと、姜のりのに、甘い噌のが残った。
「うまい」
それ以言おうとして、健は次の言葉をやめた。母は彼の皿を見て、骨があるから気をつけるように言った。勝はもう、ご飯のおかわりをしていた。
事の途、母が携帯話を持ってきた。さっき通話を終えたつもりで、別の画面をいてしまったらしい。
「この赤いところで切ればいいんだね」
健はうなずき、母が自分で操作するのを待った。母は画面を閉じ、携帯話を卓のの届くところへ置いた。
「勝に頼まなくても、かけられたでしょう」
「うん。ちゃんと聞こえたよ」
勝が茶をみながら、次は自分も呼んでくれと言った。母は、あんたは毎帰ってくるじゃないかと笑った。健も笑い、めるに残りの鯖をべた。
、健が皿を流しへ運ぶと、母が布巾を渡した。
「拭くほう、覚えてる?」
「裏まで、だろう」
「そう。よくできました」
母は子に戻り、勝の仕事の話を聞いた。健は洗い終えた皿を拭いて棚へしまい、最の1枚を置いてから振り返った。母と弟は、まだ卓で茶をんでいた。
帰り支度をすると、母が玄関まで来た。
「次は、用事がなくてもおいで。修理も買い物も、毎回なくていいから」
健は靴を履くを止めた。母は、彼の返事を待っていた。
「来週の曜なら、夕方に来られる」
「じゃあ、ご飯を炊いておくよ」
「今度は僕が炊く。の量、もう覚えたから」
母は笑って、戸をし広くけた。のたい空気が入ってきて、健は母を廊のへ促した。
「また曜に」
「うん。待ってるよ」
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
新婚初夜の裏切り
結婚式を終えた夜、美香はホテルの浴室から、夫の健太が自分のバッグを探る姿を目撃する。持ち去られたのは、父から贈られた1億円の預金口座のキャッシュカードだった。翌朝、健太は「弟の用事がある」と言ってホテルを出ていく。以前から義母と義弟は、8800万円の新居を欲しがっていた。まさか、私のお金で家を買うつもりなの? 夫を問い詰めず、黙って様子を見る美香。やがて不動産会社から、思いもよらない電話がかかってくる。結婚初日に露わになる夫の本性と、美香が密かに用意していた対抗策とは。兄弟姉妹|夫婦|ATM扱い|金銭問題1.8万字5 41 -
完結第16話
二人きりのはずだった旅行
結婚以来、義母のわがままと、それを当然のように受け入れる夫・俊也に振り回されてきた由香。二人きりの結婚記念日旅行まで義母に台無しにされた翌年、夫は「今度こそ二人だけで行こう」と約束する。ところが出発当日、玄関には大きな旅行鞄を抱えた義母の姿が。「家族なんだからいいだろ」と開き直る夫に、由香は思い切った行動に出る。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題3.0万字5 777 -
完結第18話
夜勤明けに鍵を替えられた私
看護師長として働く千歳は、後輩に昇進で追い抜かれ、仕事を休みがちになった夫・徹を支えようとしていた。ところが徹は次第に横柄になり、家事を押しつけ、「妻なら夫に従え」と言い始める。そんなある朝、夜勤を終えて帰宅した千歳は、玄関の鍵が替えられていることに気づく。「ダメ嫁への躾だ。謝れば入れてやる」と笑う夫に、千歳は「あっそ。さようなら」とだけ告げて立ち去った。妻が本気で戻らないと知った徹は、どんな行動に出るのか。自分の人生を取り戻そうとする女性の再出発を描く物語。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題2.6万字5 104 -
完結第10話
もやしと消えた仕送り
フリーランスのデザイナーとして働く里見は、一人暮らしの母・春江に毎月10万円を仕送りしているつもりだった。ところが、久しぶりに訪ねた実家で目にしたのは、冷やご飯ともやしだけの寂しい食卓。母は仕送りなど一度も受け取っていないと言う。家計を任せていたのは、優しく頼りになる夫の久し。疑念を抱いた里見が夫のスマホを確かめると、そこには信じがたい送金記録と、妻をあざ笑うメッセージが残されていた。さらに、夫が隠していた給与明細にも不可解な数字が……。信じていた家族の裏切りを知った里見の反撃が始まる。裏切られた|嫁姑|親子関係|金銭問題1.5万字5 74 -
完結第20話
夫の昇進を伝えた瞬間、父が命じた全財産の移転
夫・達也の専務昇進を喜んだ美桜。ところが父に報告すると、返ってきたのは祝福ではなく、「財産をすべて母さんの名義に移しなさい」という不可解な指示だった。昇進を境に夫は横柄になり、義母まで豪邸と通帳を自分たちのもののように扱い始める。さらに、高額な宝石の領収書や会社の不審な資金移動が見つかり、美桜は夫の裏の顔を知っていく。嫁姑|夫婦|金銭問題2.5万字5 109 -
完結第10話
母の農地を狙う夫と離婚――元義母が見た光景
母が女手一つで守ってきた農地を、会社の借金の担保に使いたい。夫・明の身勝手な申し出を拒んだ奈津美は、義母からも実家を見下され、ついに離婚を決意する。故郷へ戻った彼女は、農作業のためにビニールハウスの隣に仮住まいを設けるが、噂はいつしか「家もなく、ハウスで寝泊まりしている」と広まってしまう。元嫁の転落を喜ぶ義母は、その惨めな姿を見ようとわざわざ訪ねてくる。しかしその頃、奈津美は農家仲間と新たな挑戦を始めていた。再会の日、元夫と義母が目にした光景とは――。因果応報|人生逆転|夫婦|相続|親子関係|金銭問題1.3万字5 414 -
完結第20話
60日間見舞いゼロの夫、退院した妻に600万円を要求
突然の心臓病で緊急手術を受け、生死の境をさまよった美桜。六十日間の入院中、夫も義母も義妹も一度として見舞いに来なかった。届くのは、義母への月六百万円の送金を催促する連絡ばかり。家族だと信じて尽くしてきた美桜は、ついに夫との決別を決意する。しかし剛田家の人々は、美桜の本当の素性も、自分たちの会社や豪邸が誰によって支えられているのかも知らなかった。兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|金銭問題2.4万字5 2075 -
完結第13話
貧乏なふりで結婚挨拶へ――彼女の父に正体を見抜かれた
三十四歳の神谷優馬は、恋人・水希の両親へ結婚の挨拶に行く日、わざと古いスーツと傷んだ靴を選んだ。実は大企業グループ会長の息子だが、その素性を二年間隠していたのだ。相手の家族が金や家柄で人を判断しないか、確かめるつもりだった。ところが、訪ねた水希の実家は、自分の家をはるかに上回る巨大企業グループの会長宅。しかも初対面のはずの父親は、優馬を見るなり意味深に笑った。人生逆転|真実|第二の人生|金銭問題3.3万字5 352