"20年の仕送りを止めたら、義母の嘘が暴けた" 第2話
すると、その空気に完全に気を良くしたのか、あるいは酒が回って気がきくなっていたのか、キミ子は湯呑みのお茶をすすりながら、信じがたい言葉を吐き捨てたのだ。
「そうなのよ。うちの嫁は毎きっちり振り込んでくれるから助かってはいるの。……まあ、した額じゃないけどね」
座敷のざわめきが、ふっとさくなった。千鶴のが止まる。
キミ子は周囲を見回し、まるで世話の冗談でも言うかのように、あざ笑うような調で言い放った。
「たった万よこして、偉そうに恩着せがましくされても困るのよねえ」
ピキリ、と千鶴のので、何かが音をてて断絶した。
座敷のが、瞬にして完全な静寂に包まれた。
正の表が目に見えて直し、親族の何かが「おいおい……」という顔をして気まずそうに線を泳がせる。
しかし、キミ子は自らの失言に気づく様子もなく、むしろ座敷の注目を集めたことに満したように、饒舌に言葉をねた。
「息子夫婦がしっかり仕送りしてくれてるって、所には言ってててやってるけどさ。こっちとしてはね、なんならやめてもいいのよ? 私だって別に困ってないんだから。くなったお父さんの遺族だけでも、ならそこそこ贅沢にやっていけるのよ」
誰も何も言えなかった。あまりの傲さと無神経さに、親族たちすら凍りついていた。
広告
千鶴は、膝ので揃えていた両を静かに解いた。
そして、持っていた塗り箸を箸置きへとカチリと音をてて置き、座敷の央に座る義母を真っ直ぐに見据えた。
「――では、来から止めますね」
千鶴の声は、鳴り声でも、震え声でもなかった。
自分自でも驚くほど静かで、平坦で、澄み切った声だった。
キミ子の顔から、貼り付けたような笑顔が瞬で剥がれ落ちた。
「……え?」
「なんなら止めてもいい、こっちは困らないと、今ご自分でおっしゃいましたよね。お義母さんのお言葉通り、来から仕送りは完全に終させていただきます」
座敷にいた数の親族全員の線が、斉に千鶴とキミ子のを往復した。
キミ子はを魚のようにパクパクと閉させたが、喉が引き攣ったように言葉がてこない。
その異様な空気に耐えかねた久美が、引きつった笑みを浮かべながら慌てて割って入った。
「ち、ちょっと待ってよ千鶴さん! お母さんも冗談で言ったんじゃない! ねえ、お母さん!?」
キミ子は娘の言葉にすがるように首を縦に振ったが、その瞳の奥には、従順だった嫁から公の面で刃を突きつけられたことに対する、隠しようのない狼狽と恐怖のが浮かんでいた。
千鶴はそれ以、言も発しなかった。
湯呑みを静かに膳のに戻すと、度だけ親族同に向かって浅く礼し、音もなくちがって座敷をてった。
広告
背で、正が何かを言おうとしてをけかけた気配がしたが、千鶴は度も振り返らなかった。
、たりとも途切れさせることなく送り続けた千百万円という歳のみが、今、完全に瓦解した瞬だった。
法を終え、親族たちが蜘蛛の子を散らすようにっていった、千鶴と正は実の片付けを械にこなした。
玄関先で見送りにたキミ子は、「またいつでも来てねえ」と、まるで先ほどの修羅など最初からしなかったかのように笑いを浮かべてを振っていた。その変わりのさと浅さに、千鶴はりを通り越して底れぬ空虚を覚えた。
帰りの内は、苦しい沈黙が支配していた。
助席の窓ガラスにをもたせかけ、流れる夜の並みを眺める千鶴のに、運転席の正のいため息が届いた。
「……さっきのお袋の言いは、いくらなんでも酷すぎたな。言っていいことと悪いことがある」
正がハンドルを握りしめながら、ポツリと言った。
千鶴は窓のを見つめたまま、く答えた。
「正さん。私、座敷で言ったこと、本気だから」
「……え?」
「『来から止めますね』って言ったことよ。お義母さんは親戚みんなので、はっきりと『なんなら止めてもいい、困らない』っておっしゃったわ。私はお義母さんの言葉を、そのまま受け止めただけよ」
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
3年ぶりの帰省、弟嫁がゴミ箱を漁っていた理由
32歳の玲奈は、3年ぶりに実家へ帰り、弟の妻・南が別人のように痩せていることに驚く。夕食の席でも南の前には料理がなく、家族は誰も気に留めない。その深夜、台所で物音を聞いた玲奈は、ゴミ箱を漁る南の姿を目撃する。「食べられるものを探していました」――その言葉をきっかけに、母と弟が南に強いていた異常な暮らしが明らかになっていく。さらに、南が隠し持っていた手帳には、翌朝に迫る恐ろしい約束が記されていた。玲奈は弟嫁を守るため、信じていた家族と向き合う決意をする。因果応報|人生逆転|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|修羅場2.4万字5 435 -
完結第11話
新婚初夜の裏切り
結婚式を終えた夜、美香はホテルの浴室から、夫の健太が自分のバッグを探る姿を目撃する。持ち去られたのは、父から贈られた1億円の預金口座のキャッシュカードだった。翌朝、健太は「弟の用事がある」と言ってホテルを出ていく。以前から義母と義弟は、8800万円の新居を欲しがっていた。まさか、私のお金で家を買うつもりなの? 夫を問い詰めず、黙って様子を見る美香。やがて不動産会社から、思いもよらない電話がかかってくる。結婚初日に露わになる夫の本性と、美香が密かに用意していた対抗策とは。兄弟姉妹|夫婦|ATM扱い|金銭問題1.8万字5 2626 -
完結第18話
夜勤明けに鍵を替えられた私
看護師長として働く千歳は、後輩に昇進で追い抜かれ、仕事を休みがちになった夫・徹を支えようとしていた。ところが徹は次第に横柄になり、家事を押しつけ、「妻なら夫に従え」と言い始める。そんなある朝、夜勤を終えて帰宅した千歳は、玄関の鍵が替えられていることに気づく。「ダメ嫁への躾だ。謝れば入れてやる」と笑う夫に、千歳は「あっそ。さようなら」とだけ告げて立ち去った。妻が本気で戻らないと知った徹は、どんな行動に出るのか。自分の人生を取り戻そうとする女性の再出発を描く物語。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題2.6万字5 582 -
完結第10話
もやしと消えた仕送り
フリーランスのデザイナーとして働く里見は、一人暮らしの母・春江に毎月10万円を仕送りしているつもりだった。ところが、久しぶりに訪ねた実家で目にしたのは、冷やご飯ともやしだけの寂しい食卓。母は仕送りなど一度も受け取っていないと言う。家計を任せていたのは、優しく頼りになる夫の久し。疑念を抱いた里見が夫のスマホを確かめると、そこには信じがたい送金記録と、妻をあざ笑うメッセージが残されていた。さらに、夫が隠していた給与明細にも不可解な数字が……。信じていた家族の裏切りを知った里見の反撃が始まる。裏切られた|嫁姑|親子関係|金銭問題1.5万字5 269 -
完結第20話
夫の昇進を伝えた瞬間、父が命じた全財産の移転
夫・達也の専務昇進を喜んだ美桜。ところが父に報告すると、返ってきたのは祝福ではなく、「財産をすべて母さんの名義に移しなさい」という不可解な指示だった。昇進を境に夫は横柄になり、義母まで豪邸と通帳を自分たちのもののように扱い始める。さらに、高額な宝石の領収書や会社の不審な資金移動が見つかり、美桜は夫の裏の顔を知っていく。嫁姑|夫婦|金銭問題2.5万字5 1105 -
完結第20話
「子なし」と笑われた私に、姪が吹雪の夜に土下座した
43歳の望は、子どもがいないことを理由に、義兄夫婦から嫌味を言われ続けていた。そんな望を慕ってくれるのは、8歳の姪・メイ。しかし正月の夜、猛吹雪の中、幼い妹を背負ったメイが望の家を訪ねてくる。「三千円だけ貸してください。大きくなったら返します」そう言って床に頭を下げる少女。事情を聞いた望と夫の剛は、義兄夫婦が隠してきた恐ろしい実態を知る。因果応報|人生逆転|嫁姑|第二の人生|絶縁1.9万字5 586