"入学式の日、愛人を選んだ夫への「お祝い」" 第7話
探さないでね。 子供の面倒は、父親であるあんたがで全部見てください。 じゃあね、負け犬さん』
「……は?」
健吾のスマートフォンがから滑り落ち、畳のでねた。
慌てて瑠奈の番号へ話をかける。 『おかけになった話番号は、お客様のご都により現使われておりません』 LINEのアカウントはすでに削除され、SNSも完全にブロックされていた。
「嘘だろ……? おい、瑠奈……! 冗談だろ!? おい!!」
アパートのい井に向かって叫んでも、返ってくるのは赤ん坊の泣き声と、真のすきまの音だけだった。
ミルクの作り方も分からない。 オムツの替え方も分からない。 も朝から仕事にかなければならないのに、預ける保育園もない。
そして何より――瑠奈が姿をくらましたため、健吾は【婚届にサインをもらうことすらできない】のだ。 法には籍が入ったまま、戸籍は夫のまま、のように逃げった女の置き産を、たったで背負わされたのだ。
「うわああああっ! 誰か……誰か助けてくれえええっ!!」
を抱えてを転げ回った健吾は、震えるでスマートフォンを拾いげた。 発信履歴の奥底から、度もかけていなかった、あの番号を呼びす。
実の母――富美子の番号だった。
プルルル……プルルル……。
夜。 数回の呼びし音の、ガチャリと受話器ががった。
広告
『……夜分に、何の用ですか』 く、徹な母親の声。
「お、お袋ォッ!! 助けてくれ! 頼むから助けてくれよぉぉっ!!」 健吾は受話器に向かって、なりふり構わず泣き叫んだ。
「瑠奈がてったんだ! 赤ん坊を置いて、男と逃げちまったんだよ! もねえ、ミルクもねえ、俺じゃどうしようもねえんだ! 頼む、に来てくれ! あんたの孫だろ!? 助けてくれよおおおっ!!」
赤ん坊の泣き声が、スピーカー越しに響き渡る。 息子の断末魔の叫びを聞きながら、受話器の向こうの富美子は、秒ものい沈黙を置いた。
そして――。 その静寂を切り裂くように、富美子が放った言は、健吾の残された最の精神を、跡形もなく叩き潰すものだった。
「……自分で撒いた種でしょう」
夜過ぎ、話の富美子の声には、息子の鳴にも似た懇願に対する揺など微もなかった。氷のようにたく、刃物のように鋭い言が、狭いアパートの湿った空気を切り裂く。
「お、お袋……! 見捨てる気かよ!? あんたの実の孫なんだぞ!?」
健吾はに転がる赤ん坊を片腕で乱暴に抱き寄せながら、受話器に向かって絶叫した。かの乳児は、父親の荒々しい腕ので呼吸を詰まらせ、顔を真っ赤にして引きつけを起こしそうになっている。
「ええ、血の繋がりだけで言えば孫でしょうね。けれどね、健吾。その子は、あなたが学の入学式を放りしてまで、カナさんと美ちゃんを裏切って選んだ女とのに作った子よ。
広告
違うかしら?」
「そ、それは……!」
「『俺のなんだから俺の自由だ』って、あの夜、私ので見得を切ったのはどこの誰だったかしらね。自分の欲望のままに族を捨てて、若い女と浮かれておきながら、都が悪くなったら老い先い母親に乳み子を押し付ける気? そんな浅ましい図々しさが、この世で通用するとっているの?」
「もねえんだよ! ミルクの買い方だって分からねえ! 俺じゃどうしようもねえんだって言ってるだろ!!」
「なら、児童相談所にでも警察にでも駆け込みなさい。父親としての責任を放棄して、自分の無能さをに晒してきなさいよ。……私はね、カナさんと美ちゃんを守ることで杯なの。あなたのような来損ないの世話を焼く暇なんて、秒たりとも持ちわせていないわ」
「待て! 頼むから切らないでくれ、お袋ォッ!」
ガチャリ。
容赦なく叩きつけられた終話のツーツー音。 健吾が震える指でリダイヤルを繰り返しても、械なアナウンスが流れるだけだった。母親にまで、完全に着信拒否されたのだ。
「クソッ! クソッ! どいつもこいつも俺をコケにしやがって!!」
健吾はスマートフォンを畳に投げつけた。 泣き叫び続ける赤ん坊の顔を見ろす。オムツはパンパンに膨らみ、異臭を放っていた。ドラッグストアへこうにも、持ちの銭はわずか数百円。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
車椅子の姑を1年間介護したのに、遺産は1円もいらない嫁が家を出た日
教師の仕事を辞め、右半身に麻痺が残った姑・芳子を365日介護してきた田中綾。芳子の70歳の誕生日会で、36人の親族を前に「家も預金も長男へ。嫁には1円も渡さない」と宣言される。熱い汁で右手を火傷しても、夫が心配したのは200万円の着物だけだった。綾は介護引継書を置き、「遺産はいりません」と家を出る。ところが無償の嫁が消えた翌朝、家族の前には月43万8000円、年525万6000円の介護見積書が突きつけられた。3人の実子は誰が母を支えるのか。そして綾は、失った教師の人生を取り戻せるのか――。嫁姑|親子関係2.0万字5 1372 -
完結第12話
継母が私に遺した「価値ゼロ」の古民家
継母・良子の死後、養女の明日香に遺されたのは、山奥に建つ資産価値ゼロの古びた一軒家だけだった。一方、実子である高志と絵美子は、都内の高級住宅6軒を相続し、介護を続けてきた明日香を「他人」と嘲笑う。 母に愛されていなかったのか――。傷つきながらも家を片づけに向かった明日香は、不自然に敷き直された畳と、その床下に封印された巨大な金庫を発見する。母が最期に託した銀色のペンダントは、その扉を開くための鍵だった。 金庫の中に残されていたのは、莫大な財産と「愛する娘へ」と記された一通の手紙。そこには、明日香を強欲な実子たちから守るため、良子が密かに進めていた計画が明かされていた。 高級住宅を手に入れ、裕福な暮らしに浮かれる兄姉。しかし、彼らが「財産」だと信じた6軒には、決して逃れられない秘密が隠されていた――。 血のつながりを盾にする家族と、行動によって愛を遺した母。傷ついた養女が母の本心を知り、自分の人生を取り戻していく、遺産と家族をめぐる逆転の物語。人生逆転|真相|親子関係|金銭問題1.8万字5 653 -
完結第14話
夫の通帳を奪った義母が銀行で凍りついた日
「息子の通帳は、こっちで管理するわ」 夫の四十九日の翌朝、義母は仏壇の引き出しから通帳を奪った。 「三宅の金を、子供も産めなかった嫁には渡さない」 私は取り返そうともせず、静かに答えた。 「どうぞ、ご自由に」 一週間後、記帳した義母が怒鳴り込んできた。 「残高が12万3,000円しかない! 残りをどこへ隠した!」 さらに義母と義弟は、家を売って財産を分けると言い出した。 私は反論せず、銀行の応接室へ二人を呼んだ。 ところが義母は約束より早く窓口へ行き、通帳を突きつけた。 「私は母親よ。全額払い戻して!」 銀行員は戸籍を確認し、義母へ静かに尋ねた。 「お客様は、亡くなられた和幸様と養子縁組をされていますか?」嫁姑|相続|親子関係|金銭問題2.0万字5 485 -
完結第12話
夜勤明け、鍵を替えられた私の静かな反撃
30時間の夜勤を終えて帰宅した看護師・南を待っていたのは、義母によって交換された玄関の鍵だった。「反省したら土下座しに来なさい」という連絡に、南は「そうですか。では、さようなら」とだけ返信する。 だが、義母と無職の夫は知らなかった。その高級マンションは、南の勤務先が契約する借り上げ社宅であり、家賃も生活費もすべて南の収入で支えられていたのだ。 南は騒がず、締め出しを自白したSNS投稿を保存。社宅の退去手続き、電気・水道・ガスの解約、弁護士への離婚依頼を淡々と進める。月曜日の午後5時、部屋の明かりが消え、管理会社と警察が玄関に現れた。 自分を家政婦のように扱った家族との関係を断ち切り、誇りある仕事と人生を取り戻す女性の、静かで痛快な逆転物語。因果応報|人生逆転|嫁姑|親子関係1.9万字5 693 -
完結第11話
元警察官の父が娘に渡した一枚の封筒
久しぶりに会った娘・香織の頬に痣を見つけた元警察官の父・誠一。夫の話になると目をそらす娘に、父は勤務先の住所だけを尋ね、それ以上追及しなかった。 一か月後、再び夫に突き飛ばされた香織へ、父は一通の封筒を渡す。中にあったのは夫の秘密ではなく、香織が「大したことではない」と消してきた異変を、日付順に記した一枚の紙だった。 繰り返される暴力と謝罪の連鎖を認めた香織は、初めて「今日は帰らない」と自分で決断する。父は夫を裁くことも、離婚を命じることもせず、娘が自ら選べる安全な場所だけを守り続けた。 これは、父の静かな愛に支えられた女性が、自分の恐怖を否定するのをやめ、失っていた人生と平穏を取り戻していく再生の物語。夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 210 -
完結第15話
「貧乏男」の通帳に5億円
姉に「貧乏男」と笑われた蓮と結婚した、経理担当の真帆。新婚の翌朝、生活費10万円を差し出すと、夫は代わりに1冊の通帳を渡してきた。残高は5億円を超え、3年間、出金の形跡がない。それなのに、夫は古い上着を繕い、わずかな報酬で働いていた。隠されていたのは、資産だけではなかった。夫の仕事を知った真帆が共に暮らす条件を伝える一方、新聞で彼の立場を知った姉は態度を変え、500万円の出資を求めてくる。夫婦が断った翌日、姉は客に「出資は決まった」と案内していた。真帆は拒否の返信と案内の時刻を並べ、夫と店へ向かう。そして、夫が手放さない上着の襟には、別の男の名字が縫いつけられていた。夫婦|金銭問題2.1万字5 2338 -
完結第12話
20年の仕送りを止めたら、義母の嘘が暴けた
20年間、毎月10万円の仕送りを一度も欠かさなかった私。 総額は2,400万円にもなるのに、義母は法事の席で親族を前に笑った。 「たった10万円よこして、偉そうにしないでよ」 その言葉を聞いた私は、翌月から仕送りをやめることを決めた。 義母は「その程度のお金、なくても困らない」と強がっていたが、わずか3か月後、その暮らしは急速に行き詰まっていく。 やがて夫は、実家で銀行と証券会社から届いた複数の封筒を発見する。 そこに記されていたのは、義母が隠し続けてきた資産の動きと、私たちの仕送りが使われていた本当の目的だった。 なぜ義母は2,400万円もの援助を「大した額ではない」と笑ったのか。 そして、仕送りを止めた途端に崩れ始めたものとは――。 20年間の善意を当然のものとして踏みにじられた妻が、家族に隠された金銭の秘密と向き合い、自分の人生を取り戻していく物語。嫁姑|相続|親不孝|親子関係|金銭問題1.8万字5 750 -
完結第13話
母の保険金3,000万円、夫は「もう諦めろ」と言った
「1か月だけ、3,000万円を貸して」 亡き母の保険金が振り込まれた直後、夫の姉が突然頼みに来た。 夫も「家族を助けると思って」と私を説得した。 私は返済期限を定め、夫を連帯保証人にして公正証書を作った。 姉は笑顔で実印を押し、翌日、3,000万円を受け取った。 しかし1か月後、入金はなかった。 やがて電話は着信拒否され、3か月が過ぎた。 夫へ相談すると、苛立った声が返ってきた。 「もう諦めろ!」 そして次の瞬間、夫は口を滑らせた。 「あいつに、そんな金あるわけないだろ!」 私は何も言わず、弁護士宛てのメールを開いた。夫婦|相続|金銭問題1.9万字5 698 -
完結第11話
3か月寝たきりの娘を、婿に黙って連れ出した日
3か月寝たきりの娘・さやかを、婿の健二は「海外の専門医に相談している」と自宅で看病していた。感染対策を理由に、面会まで禁じられた母・恵子。最後に娘の顔を見てから10日。婿が出張に出た朝、閉ざされた寝室から異臭が漂う。恵子は119に通報し、娘を病院へ連れ出した。体重は34kg。最後に診察を受けた日さえ、母は答えられなかった。娘は「あそこには戻さないで」と訴える。治療を進める病院へ、今度は健二が妻を取り戻しに現れる。一方、娘が指先を伸ばしたベッドの隙間からは、2錠の薬が見つかる。献身的な夫は、何を隠していたのか。娘が口にできなかった言葉をたどり、母は3か月の「看病」の真実に迫っていく。親子関係|介護1.8万字5 1341