"時給951円と捨てられた妻の正体" 第11話
男はに唾を吐き捨て、透の腹を革靴の先で突いた。 「彩ちゃんはなあ、俺のダチの女なんだよ。テメエみたいな落ちぶれた横領犯のオッサンが、目使って貢いでただけの都のいい財布だったんだよ! 勘違いすんなカスが!」
「つ……都のいい……財布……?」 透の頬を、血と涙が混ざりって汚していく。
彩には、最初から透へのなど欠片もなかったのだ。 背にいた本命の男たちとグルになり、回りの良さそうな企業の課をカモにして、級バッグや貴属を限界まで巻きげ、破滅した瞬に本命の元へと逃げ帰っただけ。
「彩ちゃんがテメエのせいでノイローゼになってんだよ。慰謝料として百万、今すぐここで揃えて払えや。払えねえなら、その体満な体から臓器でも何でも引っこ抜いて清算してもらうぞ?」
男たちが歩、いを詰めた。 周囲の警備員たちが直ちに警棒を抜き、ロビーは触即発の修羅と化した。
「や、やめてくれ! なんてない! 円もないんだよ!」 透はをい回り、今度は私ではなく、警備員の元へとすがりついた。
「警察を呼んでくれ! 頼むから警察を呼んでくれえええっ!!」 昨まで「っ端」と罵っていた警備員に向かって、涙とを垂れ流しながら助けを乞う元夫。 そのあまりに無残で、あまりに自業自得な醜態に、私はただたい差しを向けることしかできなかった。
広告
ウー――ウー――ッ!!
数分、通報を受けた台のパトカーが、けたたましいサイレンを鳴らしながらビルのロータリーへ滑り込んできた。 自ドアが勢いよくき、防刃ベストを着た輪署の警察官名がロビーへと崩れ込んでくる。
「警察だ! 全員くな!」
乱入してきた男は、警察の姿を見るなり舌打ちをし、両をゆっくりとげた。 「おいおい、お巡りさん、乱暴な真似はしてねえよ。こいつが俺の連れの女にしつこくストーカー為をしてるから、注しに来ただけだ」
「詳しい話は署で聞く! 君たちも任同だ!」
そして、にへたり込んでいた透のにも、体格のいい巡査部がちはだかった。 巡査部は元の無線で本部と照会を取り、透の顔と照した瞬、目つきを鋭く変えた。
「……園田透さんですね?」 「は、はい! 助かりました! こいつらに殺されそうになって――」
「あなたに、警庁より【ストーカー規制法に基づく警告】、ならびに【接禁止命令の執通】がています」
「……は?」 透の堵の表が、瞬で凍りついた。
「佐伯彩氏の代理弁護士、ならびに神崎グローバルサービス側の弁護士より、先週付けであなたに対する接禁止命令の申てが裁判所に受理されています。さらに、アークシステムズ社より、千百万円の業務横領に関する被害届が正式に提されました」
広告
巡査部はポケットから錠を取りし、カチャリとたい属音を響かせた。
「園田透。業務横領の容疑で、輪警察署まで任同を求めます。……署で正式に逮捕令状を執します」
「た……逮捕……!? 俺が……俺が逮捕されるのか!?」 透の絶叫が、ロビーの吹き抜けに霊した。
「葉! 頼む、被害届を取りげさせてくれ! おならできるだろ!? 株主なんだろ!? 俺を刑務所に入れないでくれえええっ!!」
警察官に両腕を固められ、を引きずられながらパトカーへと連されていく透。 通り過ぎる際、男は必に私へ線を投げかけてきた。
だが、私は度としてその目を直することはなかった。 ただ、静かに背筋を伸ばし、秘に向かって告げた。
「ロビーのをモップで清掃してちょうだい。……と嘘で、ずいぶん汚れてしまったから」
自ドアのへ連れされた透が、パトカーの部座席へ押し込まれる。 赤灯の赤いが、の暗い並みを気に照らしし、サイレンの音と共にざかっていく。
彼が自らので選び取り、自らの傲さで作りげた破滅のレール。 その終着駅へと、男はついに運ばれていったのだ。
そのの夜。 騒の報告を終えた私は、再びの園田本を訪れていた。
居の硝子戸の向こうには、美しく入れされた坪庭が広がり、の夜に濡れたモミジの葉が静かに揺れていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
継母が私に遺した「価値ゼロ」の古民家
継母・良子の死後、養女の明日香に遺されたのは、山奥に建つ資産価値ゼロの古びた一軒家だけだった。一方、実子である高志と絵美子は、都内の高級住宅6軒を相続し、介護を続けてきた明日香を「他人」と嘲笑う。 母に愛されていなかったのか――。傷つきながらも家を片づけに向かった明日香は、不自然に敷き直された畳と、その床下に封印された巨大な金庫を発見する。母が最期に託した銀色のペンダントは、その扉を開くための鍵だった。 金庫の中に残されていたのは、莫大な財産と「愛する娘へ」と記された一通の手紙。そこには、明日香を強欲な実子たちから守るため、良子が密かに進めていた計画が明かされていた。 高級住宅を手に入れ、裕福な暮らしに浮かれる兄姉。しかし、彼らが「財産」だと信じた6軒には、決して逃れられない秘密が隠されていた――。 血のつながりを盾にする家族と、行動によって愛を遺した母。傷ついた養女が母の本心を知り、自分の人生を取り戻していく、遺産と家族をめぐる逆転の物語。人生逆転|真相|親子関係|金銭問題1.8万字5 800 -
完結第14話
夫の通帳を奪った義母が銀行で凍りついた日
「息子の通帳は、こっちで管理するわ」 夫の四十九日の翌朝、義母は仏壇の引き出しから通帳を奪った。 「三宅の金を、子供も産めなかった嫁には渡さない」 私は取り返そうともせず、静かに答えた。 「どうぞ、ご自由に」 一週間後、記帳した義母が怒鳴り込んできた。 「残高が12万3,000円しかない! 残りをどこへ隠した!」 さらに義母と義弟は、家を売って財産を分けると言い出した。 私は反論せず、銀行の応接室へ二人を呼んだ。 ところが義母は約束より早く窓口へ行き、通帳を突きつけた。 「私は母親よ。全額払い戻して!」 銀行員は戸籍を確認し、義母へ静かに尋ねた。 「お客様は、亡くなられた和幸様と養子縁組をされていますか?」嫁姑|相続|親子関係|金銭問題2.0万字5 582 -
完結第15話
正月、娘に熱汁を浴びせた義兄へ110番
娘がグラスを1つ割っただけで、義兄は笑いながら熱い汁物を8歳の娘へ浴びせた。 しかも泣き叫ぶ娘を前に、義母も親族も止めるどころか「正月から大げさ」と笑っていた。 夫まで兄を庇い、「今日は丸く収めよう」と私に黙るよう求めてきた。 私は娘の腕を流水で冷やしながら、警察署長を務める実兄へ電話した。 「お兄ちゃん、今度はもう手加減しないで」 だが兄が私に命じたのは、身内の力を使うことではなく、「今すぐ110番して、証拠を全部残せ」ということだった。 その言葉で私は、義実家の天井に防犯カメラがあることを思い出した。 警察が映像を確認した直後、それまで「手が滑っただけ」と笑っていた義兄の顔色が一変する。 そして夫まで知らなかった“決定的な場面”が映っていたことで、あの正月に笑っていた全員の立場がひっくり返り始めた。怒り|嫁姑|親子関係|修羅場2.2万字5 164 -
完結第12話
入学式の日、愛人を選んだ夫への「お祝い」
娘・美香の入学式当日、夫・健吾は姿を見せなかった。電話をかけると、「愛人と離婚届を出しに来ている」と笑いながら告げ、妻子を捨てて新生活を始めると宣言する。 泣きそうになるカナからスマートフォンを受け取った義母・富美子は、取り乱すどころか静かに微笑んだ。「本当におめでたい日ね。盛大にお祝いしなくちゃ」。その夜、帰宅した健吾を待っていたのは、白いリボンが掛けられた巨大なケーキだった。 しかしケーキの中には、健吾が大切にしていた高級時計や愛人との品々が隠されていた。自らそれらを切り刻んだ健吾へ、富美子は不倫と会社経費の私的流用を示す証拠を突きつけ、カナは離婚条件を記した書類を差し出す。 娘の晴れの日に家族を裏切った男がすべてを失う一方、血のつながらない嫁と孫を守り抜いた義母。三世代の女性が本当の家族として、新しい幸福を築いていく痛快な逆転物語。夫婦|親子関係1.8万字5 182 -
完結第11話
元警察官の父が娘に渡した一枚の封筒
久しぶりに会った娘・香織の頬に痣を見つけた元警察官の父・誠一。夫の話になると目をそらす娘に、父は勤務先の住所だけを尋ね、それ以上追及しなかった。 一か月後、再び夫に突き飛ばされた香織へ、父は一通の封筒を渡す。中にあったのは夫の秘密ではなく、香織が「大したことではない」と消してきた異変を、日付順に記した一枚の紙だった。 繰り返される暴力と謝罪の連鎖を認めた香織は、初めて「今日は帰らない」と自分で決断する。父は夫を裁くことも、離婚を命じることもせず、娘が自ら選べる安全な場所だけを守り続けた。 これは、父の静かな愛に支えられた女性が、自分の恐怖を否定するのをやめ、失っていた人生と平穏を取り戻していく再生の物語。夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 536 -
完結第15話
「貧乏男」の通帳に5億円
姉に「貧乏男」と笑われた蓮と結婚した、経理担当の真帆。新婚の翌朝、生活費10万円を差し出すと、夫は代わりに1冊の通帳を渡してきた。残高は5億円を超え、3年間、出金の形跡がない。それなのに、夫は古い上着を繕い、わずかな報酬で働いていた。隠されていたのは、資産だけではなかった。夫の仕事を知った真帆が共に暮らす条件を伝える一方、新聞で彼の立場を知った姉は態度を変え、500万円の出資を求めてくる。夫婦が断った翌日、姉は客に「出資は決まった」と案内していた。真帆は拒否の返信と案内の時刻を並べ、夫と店へ向かう。そして、夫が手放さない上着の襟には、別の男の名字が縫いつけられていた。夫婦|金銭問題2.1万字5 3054 -
完結第12話
20年の仕送りを止めたら、義母の嘘が暴けた
20年間、毎月10万円の仕送りを一度も欠かさなかった私。 総額は2,400万円にもなるのに、義母は法事の席で親族を前に笑った。 「たった10万円よこして、偉そうにしないでよ」 その言葉を聞いた私は、翌月から仕送りをやめることを決めた。 義母は「その程度のお金、なくても困らない」と強がっていたが、わずか3か月後、その暮らしは急速に行き詰まっていく。 やがて夫は、実家で銀行と証券会社から届いた複数の封筒を発見する。 そこに記されていたのは、義母が隠し続けてきた資産の動きと、私たちの仕送りが使われていた本当の目的だった。 なぜ義母は2,400万円もの援助を「大した額ではない」と笑ったのか。 そして、仕送りを止めた途端に崩れ始めたものとは――。 20年間の善意を当然のものとして踏みにじられた妻が、家族に隠された金銭の秘密と向き合い、自分の人生を取り戻していく物語。嫁姑|相続|親不孝|親子関係|金銭問題1.8万字5 910 -
完結第13話
母の保険金3,000万円、夫は「もう諦めろ」と言った
「1か月だけ、3,000万円を貸して」 亡き母の保険金が振り込まれた直後、夫の姉が突然頼みに来た。 夫も「家族を助けると思って」と私を説得した。 私は返済期限を定め、夫を連帯保証人にして公正証書を作った。 姉は笑顔で実印を押し、翌日、3,000万円を受け取った。 しかし1か月後、入金はなかった。 やがて電話は着信拒否され、3か月が過ぎた。 夫へ相談すると、苛立った声が返ってきた。 「もう諦めろ!」 そして次の瞬間、夫は口を滑らせた。 「あいつに、そんな金あるわけないだろ!」 私は何も言わず、弁護士宛てのメールを開いた。夫婦|相続|金銭問題1.9万字5 826