"時給951円と捨てられた妻の正体" 第12話
テーブルのには、義母の静が朝から仕込んでくれたという、彩り豊かな料理が並んでいる。 目鯛の煮付け、栗ご飯、茄子の揚げ浸し、そして澄んだお吸い物。
「葉さん、本当に変だったわね……」 静は私のに温かいほうじ茶を置き、痛ましそうに眉を寄せた。
「警察から連絡があったわ。あの子……横領の容疑を全面に認めて、留置に入ったそうね。会社のだけでなく、消費者融からの借もだるま式に膨れがっていて……もう、私たちのには負えないわ」
向かいの席に座る修造は、く、いため息をついた。 その元には、弁護士を通じて届いたという、透からの親族宛ての嘆願が置かれていた。 『保釈を払ってくれ』『実を担保に入れてを面してくれ』と、最まで親の資産にすがろうとする浅ましい文字の羅列。
修造はそのをに取ると、迷うことなく真っつに引きちぎり、ゴミ箱へと放り捨てた。
「あいつには、刑務所ので何でもをやしてもらう。てきたも、この敷居を跨ぐことは度と許さん。親子の縁は、本をもって完全に切った」
修造は鏡をし、私に向かって々とをげた。
「葉さん。愚息があなたに負わせた数々の非礼と傷……父親として、どれほど謝罪してもりない。本当に、すまなかった」
広告
「お父様、顔をげてください」 私は慌てて修造のを握った。
「私はもう、透さんに対するみもりもありません。あの方のおかげで、私は自分のでち、自分のを取り戻すことができましたから。……何より、お父様とお母様に会えたことが、私のの最の財産です」
私の言葉に、静が目を押さえて涙ぐんだ。
その、修造が居の箪笥の引きしから、通の類を取りしてきた。 それは、庭裁判所の印が押された、公な申請だった。
「葉さん。勝な老いぼれのが儘かもしれんが……これを見てくれないか」
類の表題には、こう記されていた。 【養子縁組届】
「……養子縁組、ですか?」
「そうだ」 修造は穏やかな、だが確固たる決を込めた声で語り始めた。
「私たちは、あの愚息を息子とうことは度とない。だが、あなたという素らしい女性を、このままのまま終わらせたくないのだ。……葉さん、もしあなたが許してくれるなら、私の『女』として、正式に園田の籍に入ってくれないだろうか」
静も私のをぎゅっと握りしめた。 「もちろん、あなたの神崎のお仕事やキャリアを邪魔するつもりは切ないわ。ただ……私たちがぬ、私たちの娘として、を握っていてほしいの。あんなバカ息子ではなく、あなたに私たちのすべてを受け継いでほしいのよ」
広告
胸の奥底から、いものが込みげてきた。 血の繋がりなど何つない。かつては「嫁」というに過ぎなかった私を、これほどまでにく、尊いとして受け入れてくれるの老。
「……はい」 私は溢れる涙を拭い、笑顔で頷いた。
「んで、おの娘になります。お父様、お母様」
の夜の静けさの、で囲む卓には、これまでの嵐が嘘のような、本物の族の温もりだけが満ち溢れていた。
季節は巡り、が訪れた。
都にある府刑務所の未決拘置エリア。 え切ったコンクリートの壁に囲まれた畳の雑居で、透はいペラペラの毛布にくるまり、寒さに震えていた。
初公判を控えた透の元に、私選弁護を雇うなどあるはずもなく、ついたのは国選の若い弁護士だけだった。 横領額が千万円を超え、被害弁償の目処がまったくっていないことから、実刑判決は確実と見られていた。
「おい、園田。面会だ」 守の無質な声に、透は弾かれたようにび起きた。
(お袋だ……! お袋が助けに来てくれたんだ! 実を売って示談を作ってくれたんだ!)
透はいつくばるようにして面会のアクリル板のに座った。 しかし――現れたのは、母親でも父親でもなかった。
スーツを着た、見らぬ若い男性だった。 「園田透さんですね。私は、神崎葉専務の代理弁護士の部の者です」
「……は? 葉の……? お袋はどうした!? 親父は!?」
弁護士は無表のまま、アクリル板の向こうから枚の戸籍謄本のコピーを提示した。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
戸籍の中のもう一人の妻
海外赴任中の夫・健太に頼まれ、横浜の区役所を訪れた結衣。ところが戸籍の配偶者欄には、見知らぬ女性の名前があった。しかも婚姻日は、結衣が入院した母の看病に追われていた去年の夏。七年間信じてきた夫は、イギリスで別の女性と暮らしながら、日本では何食わぬ顔で優しい夫を演じ続けていた。さらに、二人で貯めたお金まで使われていたことが分かる。結衣は夫を問い詰めず、静かに証拠を集め始めた。夫が積み重ねてきた嘘を、彼女はどう暴いていくのか。人生逆転|裏切られた|夫婦|絶縁|不倫1.3万字5 290 -
完結第12話
義妹の荷物40箱を拒否したら、夫の勝手な約束が発覚
五十六歳のかず子の家に、義妹が経営するネットショップの商品が突然四十箱も届いた。預かると聞いていたのは小さな荷物だけ。受け取りを断ると夫は激怒し、かず子が大切にしている二階の六畳間を倉庫にすればいいと言い放つ。そこは、三十年以上家族を優先してきたかず子が、ようやく手に入れた自分だけの場所だった。さらに翌朝、配送会社から渡された書類には、身に覚えのない集荷予定と自分の名前が。夫と義妹は、かず子に何をさせるつもりだったのか。裏切られた|兄弟姉妹|夫婦1.8万字5 180 -
完結第12話
同窓会で「席はない」と笑われた私に、若女将が一礼
七十歳になった水野春江は、亡き夫との約束を胸に、地元の老舗旅館で開かれる古希の同窓会に出席する。ところが受付で、幹事の麗子から「会費未納だから席はない」と告げられ、皆の前で仲居扱いされてしまう。確かに春江は、この旅館で掃除も布団運びもしている。だが、その理由を麗子は知らなかった。高校時代から続く嫉妬、勝手に消された名簿、そして欠席するはずだった恩師のために用意された席。五十一年ぶりの再会をきっかけに、春江が長年大切にしてきたものが明らかになっていく。人生逆転|第二の人生|金銭問題1.9万字5 395 -
完結第12話
150万円を払わせたママ友、次は寿司300万円
夫の昇進祝いで家族とレストランを訪れたひまり。楽しい食事の最後に告げられた会計は、なんと150万円。原因は、顔見知り程度のママ友・ぽて子一家が大量の料理を注文し、勝手にひまりへ支払いを押しつけたことだった。仕方なく立て替えたものの、返金を求めると渡されたのは、まさかのポテトチップスの空袋。しかも数日後、ぽて子は高級寿司店で新たな計画を立て始める。「ママ友なんだから払って当然」と言い張る一家に、ひまりが取った行動とは?因果応報|夫婦|真相|親子関係|金銭問題|修羅場1.2万字5 490 -
完結第10話
離婚して10年、元夫が鍵を替えなかった理由
二十二年間連れ添った夫・正彦の無口さに耐えきれず、四十八歳で離婚したみつ恵。それから十年後、正彦が脳梗塞で倒れたと娘から連絡が入る。入院に必要な荷物を取りに、かつての自宅を訪ねたみつ恵は、返しそびれた合鍵で玄関が開くことに驚く。なぜ十年も鍵を替えなかったのか。部屋には、昔と変わらない食器や、みつ恵が置いていったスリッパが残されていた。やがて見つけた一通の手紙には、二十二年間聞けなかった夫の想いが綴られていた。別れた二人は、もう一度向き合えるのだろうか。夫婦|第二の人生|介護|退職金|熟年離婚1.3万字5 196 -
完結第12話
毎朝「出ていけ」と怒鳴る隣人、測量の日に顔色が変わった
「引っ越しなさい!」毎朝七時、向かいの家の奥さんに怒鳴られる六十八歳のしず子。生まれ育った家を手放す気はないが、理由のない嫌がらせは日に日にひどくなり、相手の夫まで引っ越しを勧めてくる。しず子は言い返す代わりに、毎日の出来事をノートに書き留めていた。そんなある日、隣人の土地売却をきっかけに境界の測量が行われる。測量士が示した一本の線と、亡き祖父が残した古い封筒。そこには、長年の隣人関係を覆す意外な約束が隠されていた。怒り|真実|修羅場1.3万字5 282 -
完結第10話
父の葬儀中「飯を作れ」と怒鳴った夫に、参列者が…
父の葬儀で喪主を務める美穂のもとに、夫・健一から何度も電話がかかってきた。用件は「今すぐ帰って飯を作れ」という身勝手な要求だった。二十年間、夫の暴言と厳しい金銭管理に耐えてきた美穂。父との最後の別れさえ邪魔され、ついに参列者の前で夫の怒声が響き渡る。すると、最後列に座っていた一人の男性が立ち上がった。その人物は亡き父の教え子で、健一とも思いがけないつながりがあった。因果応報|怒り|夫婦|親子関係|修羅場1.6万字5 1389