"正月、娘に熱汁を浴びせた義兄へ110番" 第2話
『はい、救急相談センターです』 「歳の子供です。先ほど、湯にい汁物を腕から肩にかけて浴びせられました。現、流で却ですが、皮膚が広範囲に赤く腫れがっています。が部癒着しているように見えます」 『お母さん、落ち着いてください。却はそのまま続けてください。決して無理にを脱がせてはいけません。膨れが破れると染症の危険があります。すぐに休当番の皮膚科、もしくは救急来を受診してください。最寄りの病院の所をお伝えします』
オペレーターの静な指示を、メモ帳に正確にき留める。 その話のやり取りの最、背からスリッパの音がづいてきた。
「おい、美奈……」 夫の健太が、困り果てたような、けない顔で台所の引き戸に寄りかかっていた。 「まず落ち着けよ。救急相談なんてげさなことするなよ。親父やお袋が嫌を損ねてるだろ」
受話器をに当てたまま、私は夫を横目で睨み据えた。 「……落ち着くべきなのは、誰?」 「いや、だから……兄貴もが滑っただけだって言ってるし、正々、警察や救急汰になったら、親戚に示しがつかないだろ? 俺が兄貴にげて、でちゃんと謝らせるからさ。今はこれで丸く収めようぜ」
『兄貴に謝らせるから、今はこれで』。 娘の腕が焼け爛れている横で、この父親が真っ先ににしたのは、実の平穏と、加害者である兄のを守るための「打ち」
広告
の提案だった。
受話器の向こうのオペレーターに礼を言って通話を切った瞬、私は健太に向き直った。 「棚から、清潔な乾いたタオルを枚して」 「え……あ、ああ」
健太が慌てて戸棚をける。 この男が、自分の実の娘のために今初めて自発に取ったが、妻に指示されてタオルを枚取りすことだった。 そのけない背を見つめながら、私の胸ので、にわたって溜まり続けていたヘドロのようなの限界が、静かに、完全に音をてて決壊した。
私はスマートフォンの発信履歴をき、ある物の番号を迷わずタップした。
画面に表示された名は――【政治】。 私の歳の実兄であり、隣接する県警本部の管轄で、現役の警察署を務める男だった。
プルルル……プルルル……。 回目のコールで、く引き締まった声が鼓膜に届いた。
『――美奈か。珍しいな、元の昼に』 「お兄ちゃん……」
声を絞りした瞬、喉の奥が引きつった。 結が私の太ももにしがみつき、痛みに耐えながら目遣いで私を見つめている。 受話器の向こうで、兄の気配がスッと鋭利に研ぎ澄まされるのが分かった。
『……どうした。何があった』 「結が……い汁物を浴びせられたの。腕と肩が真っ赤に爛れてる」 『誰にだ』 「夫の実。義兄の幸夫さん」
拍の沈黙。 その静寂のに、居の方から義兄の品な笑い声と、「嫁が戻ってこねえぞ」
広告
と愚痴る義母の声が微かに漏れ聞こえてきた。 兄は警察官特の、を切排した徹なトーンで事実確認を始めた。
『怪の処置は』 「今、流でやしてる。救急相談に話して、休当番医を確保した。これから連れていく」 『は無理に剥がすなよ』 「触ってない。布のからやしてる」 『よし』
兄はく息を吐いた。 私は震える唇を噛み締め、台所の入りにつ健太を正面から見据えながら、スマートフォンに向かって言った。
「お兄ちゃん。……今度はもう、絶対に加減しないで」
台所の健太の肩が、ビクッとねがった。 健太は私の兄が警察署であることをっている。普段は温で、滅に実の権力を振りかざさない兄が、この事態をったことのを、ようやく理解し始めたようだった。
しかし、話の向こうの兄から返ってきたのは、私の激を宥めるような、予の厳しい言葉だった。
『美奈。俺が加減するかどうかという話じゃない』 「……え?」
『俺はおの実の兄だ。警察官である以に、内だ。だからこそ、俺がこの件の捜査や判断に直接介入することはできない。内の事件に署が利きをしたと取られれば、法な正当性が揺らぎ、結ちゃんの被害そのものが「親族の論」に矮化される』
兄の声は、氷のようにたく、けれど面を真っ直ぐに踏みしめさせる力さに満ちていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
介護で表彰される嫁――私は認知症に仕立てられた
手首を骨折し、息子夫婦の家へ身を寄せた68歳の文江。嫁・沙耶香は、物忘れが進んだ姑を献身的に介護しているように見せ、日常を動画で配信していた。 だが文江は認知症ではなかった。砂糖と塩を入れ替え、スマートフォンを隠し、同じ質問を繰り返すよう指示する――すべては再生数と広告収入を得るための演出だった。しかも息子も、その事実を知りながら黙認していた。 沙耶香が「献身的な嫁」として表彰される当日、巨大スクリーンに流れたのは感動映像ではなく、撮影前に姑へ演技を命じる未編集動画だった。そして文江は車椅子を使わず、自分の足で壇上へ向かう。 家族に病気も財産も人生も利用された女性が、自らの声と尊厳、そして「撮られない権利」を取り戻していく逆転と再生の物語。因果応報|嫁姑|認知症2.2万字5 253 -
完結第16話
妊娠8か月の私に28人分のおせちを作らせた義母
妊娠8か月の優奈は、義母から「家族6人分」と聞かされていたおせち作りを引き受ける。だが台所に用意されていたのは、販売用の28人分。さらに義妹の店名が入った重箱には、優奈の名前が製造責任者として無断で使われていた。 体調を崩して病院へ向かった優奈は、録音や注文表を証拠として残す。予定より早く帰宅した夫・康平は、母から合鍵を取り上げ、親戚を帰らせるが、やがて妻の署名や免許証、退職金まで利用した500万円の融資計画が発覚する。 康平は家族へ怒るだけでなく、母の越境を長年黙認してきた自分の責任とも向き合う。一方の優奈も、誰かに救われるのを待たず、自分の名前、仕事、暮らしを自ら守り始める。 28人分のおせちから始まった騒動を通して、「家族のため」という言葉に奪われていた選択権を取り戻す夫婦の再生と、境界線の大切さを描いた物語。嫁姑|第二の人生|修羅場2.4万字5 1078 -
完結第15話
車椅子の姑を1年間介護したのに、遺産は1円もいらない嫁が家を出た日
教師の仕事を辞め、右半身に麻痺が残った姑・芳子を365日介護してきた田中綾。芳子の70歳の誕生日会で、36人の親族を前に「家も預金も長男へ。嫁には1円も渡さない」と宣言される。熱い汁で右手を火傷しても、夫が心配したのは200万円の着物だけだった。綾は介護引継書を置き、「遺産はいりません」と家を出る。ところが無償の嫁が消えた翌朝、家族の前には月43万8000円、年525万6000円の介護見積書が突きつけられた。3人の実子は誰が母を支えるのか。そして綾は、失った教師の人生を取り戻せるのか――。嫁姑|親子関係2.0万字5 2374 -
完結第15話
時給951円と捨てられた妻の正体
「時給951円の役立たずが、年収2000万円の俺に寄生するな」――夫は私の荷物をゴミ袋に詰め、玄関の外へ放り出した。 しかも愛人との写真を見せつけ、「離婚だ。俺がいなきゃ明日の飯にも困るだろ」と笑った。 私は渡された離婚届を受け取り、「ありがとう。今すぐ出ていくね」とだけ答えた。 夫は最後まで、私が負け惜しみを言っていると思っていた。 翌朝、私はそのまま離婚届を提出し、一本の電話をかけた。 その数時間後、夫は会社の懲罰委員会へ呼び出され、自分を守っていた“ある人物”の正体を初めて知らされる。 さらに愛人は消え、マンションまで退去を求められ、昨日まで自慢していた年収2000万円も一日で消えた。 それから1か月後、300件を超える着信の末、夫は私の会社まで押しかけて大理石の床に額をつけた。 「頼む、もう一度俺を養ってくれ」――私がその男の前に最後の書類を落とした瞬間、本当の反撃が完成した。(続)怒り|夫婦|退職金|金銭問題2.2万字5 134 -
完結第12話
入学式の日、愛人を選んだ夫への「お祝い」
娘・美香の入学式当日、夫・健吾は姿を見せなかった。電話をかけると、「愛人と離婚届を出しに来ている」と笑いながら告げ、妻子を捨てて新生活を始めると宣言する。 泣きそうになるカナからスマートフォンを受け取った義母・富美子は、取り乱すどころか静かに微笑んだ。「本当におめでたい日ね。盛大にお祝いしなくちゃ」。その夜、帰宅した健吾を待っていたのは、白いリボンが掛けられた巨大なケーキだった。 しかしケーキの中には、健吾が大切にしていた高級時計や愛人との品々が隠されていた。自らそれらを切り刻んだ健吾へ、富美子は不倫と会社経費の私的流用を示す証拠を突きつけ、カナは離婚条件を記した書類を差し出す。 娘の晴れの日に家族を裏切った男がすべてを失う一方、血のつながらない嫁と孫を守り抜いた義母。三世代の女性が本当の家族として、新しい幸福を築いていく痛快な逆転物語。夫婦|親子関係1.8万字5 189 -
完結第12話
夜勤明け、鍵を替えられた私の静かな反撃
30時間の夜勤を終えて帰宅した看護師・南を待っていたのは、義母によって交換された玄関の鍵だった。「反省したら土下座しに来なさい」という連絡に、南は「そうですか。では、さようなら」とだけ返信する。 だが、義母と無職の夫は知らなかった。その高級マンションは、南の勤務先が契約する借り上げ社宅であり、家賃も生活費もすべて南の収入で支えられていたのだ。 南は騒がず、締め出しを自白したSNS投稿を保存。社宅の退去手続き、電気・水道・ガスの解約、弁護士への離婚依頼を淡々と進める。月曜日の午後5時、部屋の明かりが消え、管理会社と警察が玄関に現れた。 自分を家政婦のように扱った家族との関係を断ち切り、誇りある仕事と人生を取り戻す女性の、静かで痛快な逆転物語。因果応報|人生逆転|嫁姑|親子関係1.9万字5 3316 -
完結第11話
元警察官の父が娘に渡した一枚の封筒
久しぶりに会った娘・香織の頬に痣を見つけた元警察官の父・誠一。夫の話になると目をそらす娘に、父は勤務先の住所だけを尋ね、それ以上追及しなかった。 一か月後、再び夫に突き飛ばされた香織へ、父は一通の封筒を渡す。中にあったのは夫の秘密ではなく、香織が「大したことではない」と消してきた異変を、日付順に記した一枚の紙だった。 繰り返される暴力と謝罪の連鎖を認めた香織は、初めて「今日は帰らない」と自分で決断する。父は夫を裁くことも、離婚を命じることもせず、娘が自ら選べる安全な場所だけを守り続けた。 これは、父の静かな愛に支えられた女性が、自分の恐怖を否定するのをやめ、失っていた人生と平穏を取り戻していく再生の物語。夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 537