"正月、娘に熱汁を浴びせた義兄へ110番" 第7話
メッセージのどこを探しても、結の傷の容態を案じる言葉は、ただの文字もしなかった。 あるのは、逮捕された兄の配と、倒れた母親の配、そして何よりも自分自の「世とメンツ」への執着だけだった。
「……本当に、終わってるわ」
私は健太の着信を拒否し、画面を伏せた。 タクシーを呼び、結を抱きかかえてのり始めた病院のエントランスをた。 目指すのは、本当の族が待つ所――兄・政治の自宅だった。
午過ぎ。 タクシーがしたのは、郊の静かな宅に建つ、質素な軒のだった。 玄関の灯が、暗くなった夕暮れのを柔らかく照らしている。
インターホンを押すに、玄関のドアがスッといた。 部着のにカーディガンを羽織った兄・政治が、仁王ちで迎えてくれた。
「美奈。結ちゃん」 政治は切の余計な言葉をにせず、すぐにに膝をついて、結の目のさまで線を落とした。 包帯がぐるぐるに巻かれた結の腕を瞥したが、顔つ変えなかった。警察官としての訓練された静さと、伯父としての温かい差しが、そこにはあった。
「寒かったな。よく頑張った。……さあ、入れ。呂は入れないだろうから、温かい蒸しタオルを用してある」
「おじちゃん……」 結の瞳から、堵の涙がポロポロとこぼれ落ちた。
広告
神では「痛い」と泣くことすら許されなかった娘が、このの歩を踏み入れた瞬、初めて子供らしい音を吐きすことができたのだ。
居へ通されると、堀ごたつのに温かい湯たんぽが仕込まれており、卓には湯気のつ噌汁と、黄くふんわりと焼きげられた卵焼き、そして柔らかく炊かれた粥が並んでいた。
「結ちゃん、お粥なら喉を通るだろ。卵焼き、甘くしておいたぞ」 兄が器用なつきでお椀を差しす。 「べる……」 結はでスプーンを握り、お粥を、に運んだ。 「……おいしい」 「そうか。いくらでもえ」
兄は私のに、いほうじ茶を淹れて置いてくれた。 湯呑みを両で包み込むと、凍りついていた指先から、じんわりと温もりが戻ってくるのをじた。
「お兄ちゃん、病院で……」 私が診断の内容と、警察から聞いた防犯カメラの映像の事実を告げると、政治は静かに目を閉じ、腕を組んでく息を吐いた。
「故の傷害だな。弁解の余はない。……所轄の署から、先ほど私用の携帯に報告が入った。『神幸夫の柄を確保し、取り調べに入った』と」 「お兄ちゃんが圧力をかけたわけじゃ……」
「馬鹿者」政治は微かに苦笑し、私のを軽く突いた。 「俺がそんな真似をするとうか? 所轄の署には『被害者は私の実の妹と姪だが、法と証拠に基づいて、切の忖度なく厳正に対処してくれ』と伝えただけだ。
広告
……あの映像を見れば、誰が担当したって同じ結論になる。な現犯逮捕相当事案だ」
その、居の静寂を破るように、私のスマートフォンが激しく鳴した。 画面には、義母・幸子の名。 続いて、健太からのメッセージが再び連投される。
『美奈! 兄貴の留置への面会にかせろ!』 『示談を払うから! 百万円でどうだ!? これ以警察を巻き込むな!』
政治はその画面を横目で見やり、ややかに言い放った。 「話をよこせ。俺がる」
「お兄ちゃん……」 「内としてではなく、法を執する側のとして、あいつらに引導を渡してやる」
政治は私のからスマートフォンを取り、迷うことなく通話ボタンをスワイプした。
『もしもし! 美奈さん!? あんた体どこまで恥らずなのよ!』
スピーカーから漏れたのは、ヒステリックに喚き散らす義母・幸子の切り声だった。 『幸夫が警察に勾留されたってどういうこと!? あの子は神の跡取りなのよ! 会社をクビになったらどう責任を取る気!? 今すぐ警察にって「私の勘違いでした」って被害届を取りげなさい! 親戚同みんなカンカンよ!』
幸子の声に対し、政治は眉つかさず、く、腹の底に響くような声で応じた。
「――夜分遅くに失礼いたします。美奈の兄の政治です」
受話器の向こうの切り声が、ピタリと止まった。
数秒の異様な静寂の、幸子の怯えたような掠れ声が返ってきた。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
介護で表彰される嫁――私は認知症に仕立てられた
手首を骨折し、息子夫婦の家へ身を寄せた68歳の文江。嫁・沙耶香は、物忘れが進んだ姑を献身的に介護しているように見せ、日常を動画で配信していた。 だが文江は認知症ではなかった。砂糖と塩を入れ替え、スマートフォンを隠し、同じ質問を繰り返すよう指示する――すべては再生数と広告収入を得るための演出だった。しかも息子も、その事実を知りながら黙認していた。 沙耶香が「献身的な嫁」として表彰される当日、巨大スクリーンに流れたのは感動映像ではなく、撮影前に姑へ演技を命じる未編集動画だった。そして文江は車椅子を使わず、自分の足で壇上へ向かう。 家族に病気も財産も人生も利用された女性が、自らの声と尊厳、そして「撮られない権利」を取り戻していく逆転と再生の物語。因果応報|嫁姑|認知症2.2万字5 251 -
完結第16話
妊娠8か月の私に28人分のおせちを作らせた義母
妊娠8か月の優奈は、義母から「家族6人分」と聞かされていたおせち作りを引き受ける。だが台所に用意されていたのは、販売用の28人分。さらに義妹の店名が入った重箱には、優奈の名前が製造責任者として無断で使われていた。 体調を崩して病院へ向かった優奈は、録音や注文表を証拠として残す。予定より早く帰宅した夫・康平は、母から合鍵を取り上げ、親戚を帰らせるが、やがて妻の署名や免許証、退職金まで利用した500万円の融資計画が発覚する。 康平は家族へ怒るだけでなく、母の越境を長年黙認してきた自分の責任とも向き合う。一方の優奈も、誰かに救われるのを待たず、自分の名前、仕事、暮らしを自ら守り始める。 28人分のおせちから始まった騒動を通して、「家族のため」という言葉に奪われていた選択権を取り戻す夫婦の再生と、境界線の大切さを描いた物語。嫁姑|第二の人生|修羅場2.4万字5 1076 -
完結第15話
車椅子の姑を1年間介護したのに、遺産は1円もいらない嫁が家を出た日
教師の仕事を辞め、右半身に麻痺が残った姑・芳子を365日介護してきた田中綾。芳子の70歳の誕生日会で、36人の親族を前に「家も預金も長男へ。嫁には1円も渡さない」と宣言される。熱い汁で右手を火傷しても、夫が心配したのは200万円の着物だけだった。綾は介護引継書を置き、「遺産はいりません」と家を出る。ところが無償の嫁が消えた翌朝、家族の前には月43万8000円、年525万6000円の介護見積書が突きつけられた。3人の実子は誰が母を支えるのか。そして綾は、失った教師の人生を取り戻せるのか――。嫁姑|親子関係2.0万字5 2368 -
完結第15話
時給951円と捨てられた妻の正体
「時給951円の役立たずが、年収2000万円の俺に寄生するな」――夫は私の荷物をゴミ袋に詰め、玄関の外へ放り出した。 しかも愛人との写真を見せつけ、「離婚だ。俺がいなきゃ明日の飯にも困るだろ」と笑った。 私は渡された離婚届を受け取り、「ありがとう。今すぐ出ていくね」とだけ答えた。 夫は最後まで、私が負け惜しみを言っていると思っていた。 翌朝、私はそのまま離婚届を提出し、一本の電話をかけた。 その数時間後、夫は会社の懲罰委員会へ呼び出され、自分を守っていた“ある人物”の正体を初めて知らされる。 さらに愛人は消え、マンションまで退去を求められ、昨日まで自慢していた年収2000万円も一日で消えた。 それから1か月後、300件を超える着信の末、夫は私の会社まで押しかけて大理石の床に額をつけた。 「頼む、もう一度俺を養ってくれ」――私がその男の前に最後の書類を落とした瞬間、本当の反撃が完成した。(続)怒り|夫婦|退職金|金銭問題2.2万字5 130 -
完結第12話
入学式の日、愛人を選んだ夫への「お祝い」
娘・美香の入学式当日、夫・健吾は姿を見せなかった。電話をかけると、「愛人と離婚届を出しに来ている」と笑いながら告げ、妻子を捨てて新生活を始めると宣言する。 泣きそうになるカナからスマートフォンを受け取った義母・富美子は、取り乱すどころか静かに微笑んだ。「本当におめでたい日ね。盛大にお祝いしなくちゃ」。その夜、帰宅した健吾を待っていたのは、白いリボンが掛けられた巨大なケーキだった。 しかしケーキの中には、健吾が大切にしていた高級時計や愛人との品々が隠されていた。自らそれらを切り刻んだ健吾へ、富美子は不倫と会社経費の私的流用を示す証拠を突きつけ、カナは離婚条件を記した書類を差し出す。 娘の晴れの日に家族を裏切った男がすべてを失う一方、血のつながらない嫁と孫を守り抜いた義母。三世代の女性が本当の家族として、新しい幸福を築いていく痛快な逆転物語。夫婦|親子関係1.8万字5 188 -
完結第12話
夜勤明け、鍵を替えられた私の静かな反撃
30時間の夜勤を終えて帰宅した看護師・南を待っていたのは、義母によって交換された玄関の鍵だった。「反省したら土下座しに来なさい」という連絡に、南は「そうですか。では、さようなら」とだけ返信する。 だが、義母と無職の夫は知らなかった。その高級マンションは、南の勤務先が契約する借り上げ社宅であり、家賃も生活費もすべて南の収入で支えられていたのだ。 南は騒がず、締め出しを自白したSNS投稿を保存。社宅の退去手続き、電気・水道・ガスの解約、弁護士への離婚依頼を淡々と進める。月曜日の午後5時、部屋の明かりが消え、管理会社と警察が玄関に現れた。 自分を家政婦のように扱った家族との関係を断ち切り、誇りある仕事と人生を取り戻す女性の、静かで痛快な逆転物語。因果応報|人生逆転|嫁姑|親子関係1.9万字5 3305 -
完結第11話
元警察官の父が娘に渡した一枚の封筒
久しぶりに会った娘・香織の頬に痣を見つけた元警察官の父・誠一。夫の話になると目をそらす娘に、父は勤務先の住所だけを尋ね、それ以上追及しなかった。 一か月後、再び夫に突き飛ばされた香織へ、父は一通の封筒を渡す。中にあったのは夫の秘密ではなく、香織が「大したことではない」と消してきた異変を、日付順に記した一枚の紙だった。 繰り返される暴力と謝罪の連鎖を認めた香織は、初めて「今日は帰らない」と自分で決断する。父は夫を裁くことも、離婚を命じることもせず、娘が自ら選べる安全な場所だけを守り続けた。 これは、父の静かな愛に支えられた女性が、自分の恐怖を否定するのをやめ、失っていた人生と平穏を取り戻していく再生の物語。夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 537