"帰ってきた姉を母は拒んだ" 第4話
「普通だよ」
「普通じゃない」
「普通だよ」
文は落ち着いた声で繰り返した。
「私だって逆だったら、同じこと考えたかもしれない」
「そんなふうに言わないで」
子の目から涙が落ちた。
「ってよ」
「何で?」
「私、最なこと言ったんだよ」
文は窓のを見た。
駅を荷が通っていく。
「子。私が送ったであんたが学へったからって、今度はあんたが幸にならなきゃいけないわけじゃない」
子は黙った。
「それやったら、私が8働いたなくなる」
「姉ちゃん、お父ちゃんに無理やりかされたの?」
文はし考えた。
「半分はね」
父から言われた。
京へけばを助けられる。
子も学へける。
信夫もちゃんとべられる。
母も楽になる。
17歳の文も、最初はの役にてるとっていた。
「向こうへ着くまで、本当に料理だとってた」
京へ連れていかれた。
きな駅から何度もを乗り換え、最は見らぬ男に連れられた。
へ着いてから説された。
話が違う。
帰りたいと言った。
けれど借りと紹介料と装代と部代を並べられ、
「返せるなら帰れ」
と言われた。
文はか目、度逃げた。
朝くをた。
駅までった。
故郷きの切符を買おうとした。
その、父から転送されてきたを受け取った。
《今分がないと田畑を放す》
《信夫がをしている》
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《あとしだけしてくれ》
「それで戻ったの?」
子が聞いた。
「うん」
「に?」
「うん」
文は平然と答えた。
だが膝のに置いた指が僅かに震えていた。
「お父ちゃんのため?」
「違う」
文はすぐ否定した。
「途から、お父ちゃんには円も送りたくなかった」
「じゃあ、どうして」
「お母ちゃんと、あんたたちがいたから」
文は子を見た。
「子、勉好きだったでしょう」
子は声をげて泣いた。
文は慰めなかった。
ただ、泣き終わるまで横にいた。
しばらくして、子がをすすりながら聞いた。
「お母ちゃんが迎えに来なかったこと、んでる?」
文の表が変わった。
「んだよ」
それまでとは違う、い声だった。
「ずっと?」
「何も」
最初の頃、文はをいた。
助けて。
帰りたい。
迎えに来て。
母から返事は来なかった。
代わりに父から、
《族を困らせるな》
とだけ届いた。
そのうち、文は助けを求めるをかなくなった。
だけ送った。
「でも、途から諦めた」
「何を?」
「迎えに来ること」
文はそう言って笑った。
その笑い方が、子には何よりつらかった。
「だったら、どうして今回帰ってきたの」
「戸籍が必だから」
「それだけ?」
「それだけ」
「お母ちゃんに会いたかったんじゃないの?」
文はし黙った。
「玄関を叩くまでは、しくらい会いたかったかもね」
子は顔を伏せた。
昨、母が閉めた戸の音をいした。
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8。
17歳の娘を助けなかった。
8。
帰ってきた娘をまたへ置いた。
理由は違って見える。
けれど、母が選んだことは同じだった。
残った族を守るために、を切る。
「姉ちゃん」
子は顔をげた。
「今、緒に帰ろう」
文は首を振った。
「私は横浜へく」
「に回来てよ」
「子」
「私、聞きたいことがあるの」
「何を」
子は為替の束から、枚だけ別にしていたをした。
父の字で、額の横にき込まれている。
《返済分》
文の顔から血の気が引いた。
「これ、何?」
文はを見たまま答えなかった。
「姉ちゃんから送ったで、借返してたんじゃないの?」
それでも文は黙っている。
子はもう枚した。
父がくなるの付。
文からの額な為替。
そこにも同じ字で、
《残》
とある。
子は息を止めた。
「姉ちゃん」
文がゆっくり顔をげた。
「お父ちゃん、最まで姉ちゃんからを取ってたの?」
文の目に、初めてらかな恐怖が浮かんだ。
「その話はやめよう」
文はちがった。
子もった。
「やめない」
「子には関係ない」
「私の学費に使ったんでしょ。関係あるよ」
「ない」
「ある!」
文は窓のを向いた。
子は初めて、姉が逃げようとしているのだとった。
「お父ちゃん、最初だけじゃなかったの?」
文は答えない。
「姉ちゃんが働いてる、ずっとおを求してたの?」
い沈黙のあと、文が言った。
「最初の借は、くらいで返し終わった」
「じゃあ、そのは?」
「……」
「借がないのに、どうして帰らなかったの」
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