"帰ってきた姉を母は拒んだ" 第5話
文は唇を噛んだ。
「帰ろうとしたよ」
昭29の。
文はの主へ、借分は終わったはずだと訴えた。
故郷へ帰ると言った。
その直、父が京へ来た。
子は息を呑んだ。
「お父ちゃんが?」
「回だけ」
文はそののことを、8経っても細かく覚えていた。
の階。
畳の部。
父は文を見ても抱きしめなかった。
「変だったな」
最初にそう言った。
文は、それだけで泣いた。
やっと迎えに来たとった。
ところが父は続けた。
「にはまだがいる」
信夫の学。
子の学。
根。
肥料。
母の薬。
「もうしだけ残れ」
文は断った。
すると父は、で文の仕事がられたら子の縁談に響くと言った。
当まだ子は16歳にもなっていない。
それでも父は、
《おが帰れば妹まで嫁にけなくなる》
と言った。
文はその言葉を信じた。
へ戻れば、妹のを壊す。
母の顔にもを塗る。
弟も学でいじめられる。
そうった。
だから残った。
「そんな……」
子は震えた。
「私のために?」
「子だけじゃないよ」
文は静かに言った。
「全部のためだよ」
「でもお父ちゃんは……」
そこで子は気づいた。
父は娘を度だけ京へ送りしたのではない。
帰ろうとした娘を、自分で京までって引き止めた。
しかも族の名を使った。
姉の罪悪を使った。
子は吐き気を覚えた。
「お母ちゃんは、それってるの?」
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文は答えなかった。
「ってる?」
「京にお父ちゃんが来たことは、分らない」
「分?」
「お父ちゃんに止めされた」
子は旅館をびした。
までった。
は庭で洗濯物を干していた。
子は息を切らしたまま聞いた。
「昭29、お父ちゃんが京へったのってる?」
の顔が変わった。
それだけで分だった。
「ってたんだ」
「何を聞いたの」
「姉ちゃんを帰らせなかったこと」
は洗濯物を掴んだままけなくなった。
「お父ちゃんが京までって、にが必だから残れって言ったんだって」
「……」
「お母ちゃん、ってたんだね」
の目から涙が落ちた。
子は鳴れなかった。
鳴るより先に、体から力が抜けた。
「何で」
が震えながら答えた。
「止めたの」
「何を」
「お父ちゃんを」
父が京へく夜、はかないでくれと頼んだ。
もう文を帰してやろう。
貧しくてもいい。
畑を半分売ってもいい。
そう言った。
父は激した。
《今さら戻ってきたら、このは終わる》
《子も信夫も連れになる》
は、それ以く言えなかった。
「だからまた黙ったの?」
は顔を覆った。
「怖かったの」
「何が!」
「全部なくなることが」
子は母を見た。
。
田畑。
子どもたちの学。
世。
夫。
はそれらを失うのが怖かった。
そのために、文を失った。
子は父の類箱をもう度ひっくり返した。
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何かまだある。
そうった。
底板のから、古い封筒がてきた。
宛名は。
差は文。
消印は昭292。
封されている。
には枚の便箋。
《お母ちゃん。今度こそ帰ります》
《借りた分は全部返したとのも言いました》
《お父ちゃんが来て、帰れば子が嫁にけなくなると言いました》
《お母ちゃんが迎えに来てくれるなら、私は帰りたいです》
そのにもう。
《来てくれないなら、もう度と助けを求めません》
子は顔をげた。
はそのに崩れ落ちた。
母は、このを読んでいた。
それでも迎えにかなかった。
しかも文は、言葉通りそれ以、助けを求めるを送っていない。
送ったのはだけだった。
子は便箋を握った。
「お母ちゃん」
声が自分のものではないように聞こえた。
「姉ちゃんが8帰れなかったの、お父ちゃんだけのせいじゃないね」
は何も言えなかった。
そしてそのの夕方、玄関にった文へ向かって、は8と同じ選択をした理由を初めてにすることになる。
今度も、守りたいのは子だった。
けれど、その言葉を聞いた文は、母へこう言った。
「お母ちゃん。8も、同じこと言ったんでしょう」
夕方、子は文をへ連れてきた。
と同じ玄関だった。
は敷居の内側にち、文はのにった。
今度は誰も戸を閉めなかった。
弟の信夫も、しれた廊にっていた。
彼には子が事を話した。
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