"帰ってきた姉を母は拒んだ" 第9話
「たぶん『馬鹿』って言う」
信夫もし笑った。
その翌、信夫は初任から千円を封筒へ入れた。
文宛てに送ろうとした。
子が止めなかったので、本当に送った。
数、千円はそのまま戻ってきた。
いつきだった。
《信夫へ》
《料は自分のために使いなさい》
《ただし、初任でお母ちゃんに甘いものくらい買ってやってください》
《私がした病院代は、姉ちゃんらしいことを回しただけです》
信夫は読み終えて泣いた。
そのの帰り、町で羊羹を本買った。
は受け取った、
「文が言ったの?」
と聞いた。
信夫が頷くと、母は羊羹を切りながら泣いた。
族は戻り始めていた。
しかし、元の形には戻らなかった。
父のいた頃のへ戻ることは、もう誰も望んでいなかった。
。
子は初めて横浜へ文を訪ねた。
汽を乗り継ぎ、港の匂いがするへ着いた。縫製はきな建物ではなく、宅のれにある階建てで、階に何台ものミシンが並んでいた。
文は紺の作業着を着ていた。
髪をろでまとめ、布の切れ端を肩につけている。
「似わないね」
子が言うと、
「そっちこそ田舎の格好丸し」
文が笑った。
その笑顔は、以よりし自然だった。
寮はから歩いて分ほど。
畳と畳をわせたような部に、分の布団とさな箪笥が並んでいた。
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全員が似た事を抱えているわけではない。
農からてきた娘。
夫をくした女性。
婚した。
仕事を失った。
文と同じように、制度の変化での仕事をれた女性もいた。
の女性が子へ言った。
「文ちゃん、ミシン速くなったんですよ」
「まだ曲がるけどね」
「最初なんか袖本ともにつけたんだから」
部が笑いに包まれた。
子も笑った。
姉が誰かと笑って暮らしている。
それだけで胸がくなった。
夜、でくの堂へった。
子は聞いた。
「ここ、好き?」
文はし考えた。
「好きかどうかはまだ分からない。でも、自分で選んで来たからね」
「とは違う?」
「全然違う」
料はくない。
仕事はきつい。
寮も狭い。
それでも、辞めたければ辞められる。
休みのにへられる。
料を自分で持てる。
それだけで違う。
「私、普通ってもっと派なものだとってた」
文が笑った。
「毎朝起きて、働いて、疲れて帰って、料にちょっと甘いもの買うだけで分だった」
子は黙って聞いた。
「子」
「うん」
「破談、悔してる?」
子はすぐ答えられなかった。
文は笑った。
「してもいいんだよ」
「え?」
「悔したからって、決めたことが全部違いになるわけじゃないでしょう」
子は初めて、その考え方をった。
では、選んだを悔するのはさだとわれていた。
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結婚したら耐える。
奉公へったらする。
をたら戻らない。
度選んだ以、違いだったと言わない。
けれど文は違う。
帰りたかった。
逃げたかった。
悔した。
それでもきている。
「私、浩さんと結婚したかったよ」
子は正直に言った。
「うん」
「今でも々、あのに嫁いでたらって考える」
「考えればいいよ」
「でも姉ちゃんを切るのは嫌だった」
「それも本当でしょう」
子は頷いた。
つの気持ちは両していい。
その夜、子は姉の寮に泊まった。
布団へ入ったあと、暗ので文が言った。
「子」
「何?」
「来てくれてありがとう」
子は返事をしなかった。
代わりに、昔姉妹で寝ていた頃のように、布団ので姉のを探した。
文は拒まなかった。
が横浜へったのは、そののだった。
子が勧めたわけではない。
文も呼んでいない。
ある朝、が呂敷包みを抱えて、
「文の所、教えて」
と言った。
子は母を見た。
「何しにくの」
「分からない」
それが正直な答えだった。
許してもらいたい。
帰ってきてほしい。
謝りたい。
何をしたいのか自分でも分からない。
ただ度、自分から娘のいる所へかなければならない。
はそうったらしい。
子は所をいたを渡した。
「姉ちゃん、会ってくれるか分からないよ」
「うん」
「追い返されてもらないでね」
「うん」
母はで汽に乗った。
文からで聞いた話では、のでを見つけた、最初は帰ってもらおうとったという。
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