みかん小説
本棚

"「親呼んでみろ」新人の父を見た部長" 第16話

引き受けてくれるか」

私は父の真っ直ぐな瞳を見つめ返した。 迷いは、欠片もなかった。

「はい。んでお引き受けいたします」

私はげた。 権力を振りかざすためではない。 理尽な悪に怯える々を守り、誰もが誇りを持って働ける社会を作るために。 父から受け継いだ魂のバトンが、私の掌ので、確かにく脈打っていた。

の午マテリアル本社ビルの最階オフィス。 定を過ぎたフロアでは、社員たちが笑顔でデスクを片付け、軽やかな取りでエレベーターへと向かっていた。

「お疲れ様でした、由美常務!」 「お疲れ様、気をつけて帰ってね!」

由美常務が笑顔でを振り返す。 かつて佐藤の号が響き渡り、息を殺して怯えていたあのオフィスには、今、自由と尊よく吹き抜けていた。

フロアの照を落とし、私と由美常務は、非常階段をがって放されたテラスへとた。 夜よく頬を撫でる。 見渡す限りの京の夜景が、まるで無数の宝を散りばめたように、どこまでも美しく瞬いていた。

「はい、健君。これ」 由美常務が、自販で買った温かい缶コーヒーを私に差ししてくれた。 百円の、何の変哲もない缶コーヒー。

「ありがとうございます」 プルタブをけ、で軽く缶をわせた。

広告

カチン――。

澄んだ属音が、夜空にさく響く。 、居酒の個から浴びせられたたいビールの触が、ふと脳裏をかすめた。 あの屈辱の夜、由美先輩がテーブルのでそっと差ししてくれた、枚のいハンカチの温もり。

「健君……いえ、神崎副社」 由美常務がいたずらっぽく笑った。 「来週から、本社へ戻られるんですってね。……寂しくなるわ」

「由美常務、副社なんて呼ばないでくださいよ。私はいつまでも、あなたの輩の健です」 私が苦笑すると、由美常務は嬉しそうに目を細めた。

「ふふっ、そうね。……でも、してください。あなたが命がけで耕してくれたこの会社は、私と現の仲たちで、絶対に世界温かい所に育ててみせますから」

「ええ。由美常務なら、絶対に丈夫です」

私たちは並んで、すりから夜のを見つめた。 見ろすき交うのヘッドライト、ビルので灯る無数のかり。 そのつひとつのに、今も懸命に働き、族を支え、自らのきる々がいる。

の真の価値は、位や収で決まるのではない。 き者に寄り添い、誠実に汗を流し、誇りを持ってき抜くことのにこそ、本物の輝きがあるのだ。

「さあ、きましょうか」 由美常務が微笑んだ。 「今夜は、第部の設よ。みんなが待ってる居酒へ、乾杯しにかなくちゃ!」

「はい、きましょう!」

私たちは空になった缶をゴミ箱へと収め、に満ちたオフィスへとを踏みした。 背に広がる夜空の向こうから、希望に満ちたしいが、どこまでも、どこまでも果てしなく昇り始めていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: