"薬を忘れて戻ると、「歩けない」夫が立っていた" 第3話
の形科クリニックだった。
曜の午1半、クリニックの待は午の混雑が引き、閑散としていた。自ドアをくぐった佐織は、受付カウンターで診察券を提示し、窓の護師に静かにをげた。
「夫の宅でのリハビリと今の介護について、どうしても担当の理学療法士の先にお聞きしたいことがありまして。数分で構いませんので、おをいただけないでしょうか」
妻としての真摯な懇願に、護師は奥の内線話を取り次いでくれた。
分ほど待のいプラスチック子に座っていると、奥のリハビリテーションから、緑のスクラブを着た理学療法士のがカルテのバインダーをに現れた。
「健太さんの奥様ですね。どうぞ、こちらの面談ブースへ」
パーテーションで区切られたさな相談に通され、が佐織の向かい側に腰をろした。カルテのモニターをスクロールしながら、はし議そうな表を浮かべて佐織を見つめた。
「奥様、ご自宅での介護で何かな点でもございましたか? 健太さんご本からは、特にお困りの様子は伺っていなかったのですが」
「先、単刀直入にお伺いします」佐織は膝ので組んだ両指をくい込ませた。「夫の現の回復状態は、客観に見てどうなのでしょうか。
広告
のでも、まだすりや私の肩に掴まらなければ歩も歩けない状態なのでしょうか」
は目を見張り、モニターと佐織の顔を交互に見比べた。
「……健太さんから、何も聞いていらっしゃらないのですか?」
「何も、とはどういうことでしょうか」
は困惑したようにさく息を吐き、カルテの画面を指さした。
「健太さんはですね、術の経過が極めて良好で、3週の診察の段階で、すでに『内での自由歩』の許がているんですよ。むしろ、過度に静にしすぎると筋力がしてしまうので、のでは積極に自分のでくよう指導していたくらいです」
の奥で、キーンという鋭い鳴りが響いた。
「内での……自由歩……」
「ええ。階段の昇や距の移にはまだ注が必ですが、平坦なを歩く分には何の支障もありません。子についても、をする際ののための補助具としてお貸しししているだけで、常活で常用する段階はとうに過ぎています」
の淡々とした説が、鋭利な刃物となって佐織の胸を抉り取っていく。
3週。
まさにその期、健太は「まだの痺れが取れない」と言って会社を休職期いっぱいに延し、佐織に靴を履かせてもらい、トイレにくのすら肩を貸させていた。
「先、もうひとつ伺いたいことがあります」
広告
佐織は声を絞りした。「夫の診断についてです。会社に提するための休職延の診断は、どなたが作成されたのでしょうか」
の表がわずかに曇った。
「診断は主治医の部が作成されますが……先週、健太さんが『自宅で転倒して痛みがぶり返した』とく訴えられましてね。画像診断は特に悪化の所見は見られなかったのですが、ご本の自覚症状の訴えが非常にかったため、先もやむを得ず、もうヶの就労能の診断をされた経緯があります」
自覚症状の過剰な訴えによる、図な休職の延。
佐織の脳裏で、先ほど雑居ビルに消えていった健太の軽やかな取りと、融会社の板が結びついた。
傷病当を受しながら、休職期を限界まで引き延ばし、その裏で何かしらの穏なきをしている。
「……奥様? 丈夫ですか、お顔が優れませんが」
「いえ、ありがとうございます。私の勘違いだったようです。先、ひとつだけお願いがございます」
佐織はく腰を折った。
「私が今ここへ伺ったこと、そしてこのお話を聞いたことは、健太さんには伏せておいていただけますでしょうか。夫のプライドを傷つけたくありませんので」
「あ、はい……承いたしました」
病院をた佐織は、駐に止めたので、帳をいた。
健太の自然なは、腰の術のから始まっていたのかもしれない。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
義母の老人ホーム代120万円を勝手に約束した夫
医療機器メーカーで働く結衣は、結婚以来、夫の翔太と義母の幸子に頼まれるまま、家電の買い替えや旅行代を負担してきた。月7万円の仕送りも、半分出すと約束した夫は一円も払わない。それでも家庭を壊したくない一心で我慢していたが、義母はついに結衣の勤務先へ送金を催促する電話をかけてくる。さらに夫は、義母が希望する高級老人ホームの入居金120万円まで、結衣に無断で支払う約束をしていた。夫のスマホに届いた一通のLINEをきっかけに、結衣は自分の人生を取り戻す決意をする。人生逆転|嫁姑|夫婦|絶縁|介護|金銭問題2.7万字5 71 -
完結第15話
生活費を奪って消えた母、20年後の再会で私が頼んだもの
小学四年生の秋、美咲の母は家の生活費と預金を持ち去り、突然姿を消した。残された父は工場で懸命に働きながら娘を育て、給料日には食堂へ連れていってくれた。「好きなものを食べなさい」と笑う父が、自分のために頼むのはいつも水だけだった。苦しい日々を二人で乗り越え、大人になった美咲の前に、長年音信不通だった母が現れる。何事もなかったように振る舞う母を、美咲は高級レストランへ誘った。そこで彼女が選んだものには、父と過ごした忘れられない日々への思いが込められていた。夫婦|絶縁|親子関係|金銭問題1.9万字5 84 -
完結第15話
看護師を捨てた元彼、10年後に妹の名刺を踏みつけた
看護師のヒナは、起業を夢見る恋人・大志を支えるため、夜勤を増やして生活費を払い、家事も一人で引き受けていた。ところが大志は事業に成功すると、社長令嬢との婚約を決め、ヒナを一方的に捨ててしまう。それから10年。偶然再会した大志は、独身のヒナを見下し、看護師の仕事まで大声で馬鹿にし始めた。そこへ現れた妹の桃が、冷静に言い返す。しかし大志は、桃が差し出した名刺を床に落とし、靴で踏みつけてしまう。その名刺が何を意味するのか、知りもしないまま……。因果応報|兄弟姉妹|夫婦|絶縁|金銭問題|不倫1.6万字5 66 -
完結第15話
誕生日に姪を選んだ夫、3年後の再会で絶句
読書好きで控えめな陽菜子は、誠実だと信じていた夫・高尾と穏やかに暮らしていた。ところが三十歳の誕生日、夫は姪の百花を連れて現れ、妊娠を告げたうえで離婚届を突きつける。「子供ができないお前が悪い」と責められ、家まで追い出された陽菜子は、誰も自分を知らない町で新しい生活を始める。やがて高校時代の同級生との再会をきっかけに、少しずつ前を向けるようになっていく。そして数年後、偶然出会った元夫と姪の前で、思いがけない出来事が起こる。因果応報|人生逆転|夫婦|親子関係|修羅場|不倫2.1万字5 337