"薬を忘れて戻ると、「歩けない」夫が立っていた" 第8話
成瀬と名乗る男は名刺を差しし、佐織をくの喫茶へと促した。
喫茶の奥まった席に着くと、成瀬は鞄から通のファイルを静かに取りした。
「単刀直入に申しげます。奥様、健太様が関与されているのは、単なる連帯保証の債務問題だけにとどまりません」
佐織は背筋を伸ばし、成瀬の目を凝した。
「どういうことでしょうか」
「健太様が保証となった友、実は当社の取引先の密データを持ちし、競社に正に流させた産業スパイの容疑で警察の捜査対象となっております。そして健太様が神田のファイナンシャルに入りしていたのは、その正流の仲介料の部を受け取るための窓だった能性が浮しているのです」
の奥で、激しい鐘の音が乱打された。
ただの借問題ですらなく、刑事事件に直結する背任と正競争防止法違反の疑惑。
「健太様本は、単なる個な借の返済続きだと主張されるかもしれませんが、客観な資の流れはそうは見えません。会社としては、健太様が偽装休職を用いて犯の隠蔽に協力していたと判断せざるを得ない状況です。もしこれが証されれば、懲戒解雇はもちろんのこと、刑事告訴と額の損害賠償請求がわれることになります」
成瀬の徹な言葉が、い鉄塊のように佐織の肩にのしかかった。
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「奥様にお伺いしたいのです。健太様が休職、どのようなスケジュールで、どのような物と接触されていたか、記録や記憶はおありでしょうか。これは、奥様ご自が共犯の疑いをらすためにも、極めてな証言となります」
佐織はく息を吸い込んだ。
目のにあるのは、破滅への本だった。夫を庇って沈黙を守れば、自分自も社会信用のすべてを失い、沼へと引きずり込まれる。
「……分かりました。私が把握している事実を、系列ですべてお話しします」
佐織はバッグから帳を取りし、健太の送迎記録、ガソリン代の領収、そしてあの撮した神田のビルの写真データを成瀬のに提示した。
自分の活を守るための、そして夫が犯した罪と正面から向きわせるための、佐織の覚悟の証言だった。
曜の夜、義実から再び緊急の招集がかかった。
義母の数枝だけでなく、あのうるさい伯母の吉子、さらには親族の者である叔父たちまでもが集まり、健太の処遇を巡る「親族会議」がかれることになったのだ。
佐織が義実の玄関をけると、座敷には苦しい沈黙と、線の煙がち込めていた。
座には険しい表の吉子が座り、その隣で数枝が目を腫らして縮こまっている。座敷の隅には、さくなった健太が正座させられていた。
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「佐織さん、座りなさい」
吉子が威圧な声で命じた。
佐織が静かに畳に腰をろすと、吉子は元の湯呑みを乱暴に置き、番に言い放った。
「話は全部数枝から聞いたわよ。健太がちょっとした事業の保証で失敗して、会社でが悪くなっているそうじゃないの。それなのに、あなたは何をしているの? 夫の危に貯もさず、あまつさえ会社に利な証言をしたんですって? 嫁として、妻として、体どういう見なの!」
親族たちのたい線が斉に佐織へと向けられた。
数枝もすがるような目で佐織を見つめながら、震える声でをいた。
「そうよ、佐織さん……健太が会社をクビになったら、このはどうなるの? あなたの実の親御さんにもをげて、しおを用ててもらえないかしら……」
勝極まる求に、佐織の胸の奥で、静かなりが研ぎ澄まされていった。
「お義母さん、吉子伯母様」佐織は背筋を切崩さず、凛とした声で言葉を返した。「健太さんが直面しているのは、単なる借の問題ではありません。会社の密流に関わるな背任疑惑です。すでに警察の捜査も野に入っている事案ですよ」
座敷が凍りついたように静まり返った。吉子の顔が引き攣る。
「け、警察……? 何を馬鹿なことを言っているの! 健太がそんな犯罪をするわけないじゃないの!」
「健太、本当なの?」叔父のが鋭く問いただすと、健太は顔を伏せたまま、ガタガタと震えて答えることができなかった。
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