みかん小説
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"私の退職金を奪った家族に、私は何も言わず家を出た" 第1話

331、午4を回った経理部のフロアには、期末特の乾いたキーボードの打鍵音と、型複の排気ち込めていた。

、35歳。卒で品メーカー「協フーズ」に入社し、業務用調料と凍総菜の数字を相に伝票をめくり続けて13が経つ。営業が必で獲得してきたの注文も、夜までラインを回した作業員たちの労力も、最終にはすべて売伝票や原価計算という名の数字となって彼女の机へと集まってくる。その数値を帳簿の然と並べ替え、会社というが今どこにっているのかを正確な1枚の試算表に仕げる作業を、麻度たりとも退屈だとったことはなかった。

さん、本当にお疲れ様でした。落ち着いたら、絶対に顔を見せてくださいね」

そう言って胸元に抱えきれないほどの束を差ししてくれたのは、3直属の輩として指導してきた藤代千だった。千は26歳特の瑞々しい瞳を真っ赤に腫らし、必に唇を噛みしめていた。麻は腹部にそっとを添えながら、柔らかく目を細めた。ふっくらと膨らみ始めたお腹のには、結婚7目にしてようやく授かったしい命が宿っている。

「千さん、ありがとう。決算の締め作業、無理をしないで課に頼るのよ」

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「はい……でも、さんがいなくなると、フロアの空気が引き締まらなくて本当に寂しいです」

フロアのへ向かう廊で、経理部の富永健が待っていた。56歳の厳格な仕事で、普段は滅に私を表にさない司が、無言で差ししてきたのは通の茶い角形2号の封筒だった。封筒のからは、いパンフレットのような冊子の端が覗いていた。

「うちの会社には、産や育児で自己都退職した社員を対象にした『再雇用登録制度』がある。5以内なら、原則として同等の職級で復帰が能だ。使うかどうかはおが決めることだが、制度のだけはの片隅に留めておきなさい」

「富永部……お遣い、謝いたします」

「体に障る。挨拶はいいから、く帰りなさい」

富永はそれだけく吐き捨てると、いつものように背を丸めて執務へと消えていった。

夕暮れに揺られ、郊の賃貸マンションに帰り着いたのは午6半を過ぎた頃だった。夫の竜太はまだ戻っていなかった。宅設備メーカーの営業職として働く3つの夫とは、学代からの付きいを経て28歳で籍を入れた。妊娠5ヶに入り、つわりがく体調を崩しがちだった麻に対し、「度仕事を辞めて、産と育児に専してくれ。これからは俺が養うから気楽にやれよ」

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と背を押してくれたのは竜太だった。

束からいガーベラを輪だけ抜き取り、瓶の代わりにさな空き瓶に挿してキッチンのカウンターに置いた。残りの束を丁寧に切りした、ダイニングテーブルに座って用の革帳をいた。

13、数字と証憑だけを信じてきてきた麻にとって、の計画をき落とす為は呼吸と同じだった。会議の議事録も、での取り決めも、記録に残さなければしないことと同じになる。総務部から交付された退職見込額の通を横に置き、帳の見きページに鉛で静かにき込んだ。

『420万円の使い

410に指定座へ括で振り込まれる予定の退職。控除枠の範囲内であるため、所得税や民税は引かれず、そのままの額が着する。そのに、麻は迷いのない致で4の項目をき連ねた。

1目:竜太さん奨学の残債括返済 60万円 2目:産準備および入院分娩費用 50万円 3目:収入減を補填する活防費(20万×12ヶ) 240万円 4目:緊急予備資 70万円

計、420万円。検算を3度繰り返し、狂いがないことを確かめてから鉛を置いた。

1目に記した60万円は、夫にはまだ打ちけていない計画だった。竜太は方の私学を卒業する際、8万円の利子奨学を4にわたって借り入れていた。

も毎2万円ずつ座から引き落とされ続けており、残りはちょうど30回分。

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