"毎月7000円を隠していた夫の20年の秘密" 第4話
通帳の横に、その片を扇形に広げて並べた。枚、枚、枚、枚。どれも同じ付、同じ千円、同じ受取。
。
毎千円。
あの真面目方に見えた男が、自分を欺き、子どもたちを欺き、見らぬ静岡の女へ送り届けていた々しい記録。
脱所の引き戸がき、湿った気とともに昭雄が戻ってきた。首にぬぐいを掛け、を拭きながら居の敷居を跨いだ昭雄のが、凍りついたように止まった。
ちゃぶ台のに広げられた、朱の判が押されたの束。
昭雄の濡れた髪から、滴が筋、畳のに音もなく落ちた。
居を包み込んだのは、初の虫の音すら吸い込まれてしまうような、息の詰まる沈黙だった。
昭雄はぬぐいを握りしめたまま、ちゃぶ台のの受領証を見つめていた。その瞳はきく見かれ、唇は血の気を失ってに変していた。
「……見たのか」
絞りすような、掠れた言だった。
文子は畳のに正座したまま、微だにしなかった。両は膝ので固く握りしめられ、爪がの平にい込んでくなっていた。
「見たわ。見てしまったわよ」
文子の声は、自分でも驚くほど震えていなかった。あまりの絶望とりが、の波を通り越して、絶対零度の静寂へと彼女を突き落としていた。
「これ、誰なの」
昭雄は答えなかった。首筋の血管が浮きがり、い呼吸のたびに胸板がしている。
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「誰なのって聞いてるのよ! 本子って、どこの誰なの!?」
文子の声が、ついに張り詰めた糸を切って居に響き渡った。
「静岡の町って、どこなのよ! あなた、潟からてきて、ずっと京ので働いてたんじゃないの!? なんで静岡の女に、毎毎おを送ってるのよ!?」
「文子……」
「通帳を見たわよ! 今から万円入ってた! あなた、、毎千円抜いてたのね!? 昭のから、度も欠かさずに!」
昭雄の顔が、目に見えて歪んだ。昭28という号を文子のから聞いた瞬、男の全を激しい戦慄が駆け抜けたのが見て取れた。
「計簿を全部見直したわ。郎が産まれるからよ! あの子が肺炎で入院して、入院費が払えなくて私が実の兄にをげにったも、美がへきたいって言ったも、あなたは毎千円をこの女に送ってたのね!?」
文子の瞳から、粒の涙がぼろぼろと溢れ落ちた。
「言ってよ! なんとか言いなさいよ! 浮気相なの!? それとも、あっちに子どもでもいるの!? 私たちとの活は、その女にを送るための隠れ蓑だったの!?」
「違う!」
昭雄が激昂して叫んだ。それは、の結婚活ので、文子が度も聞いたことのない夫の声だった。
しかし、ちがりかけた昭雄の膝は力なく折れ、男はそのに崩れ落ちるように正座し直した。
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両を畳につき、額が畳に擦れるほどくを垂れた。
「違うんだ……文子。女じゃない。浮気でも、隠し子でもない。神に誓って、そんなやましい関係じゃないんだ」
「やましい関係じゃないなら、なぜ言えないのよ! なぜも隠し続けたの!」
「言えなかった……」
昭雄の背が、刻みに震えていた。
「おには、言えるはずがなかったんだ。……これは、俺が背負わなきゃならん字架なんだ。俺ひとりの問題なんだ」
「ひとりの問題?」
文子はたい笑いを漏らした。涙が頬を濡らし、顎からポタポタと受領証のに落ちて朱のインクを滲ませた。
「よ。郎が歳になって、美が歳よ。、族の飯を削って送り続けたおが、どうしてあなたひとりの問題なのよ! 私はあなたの何だったの!? ただの飯炊き女!? 政婦だったの!?」
昭雄は畳に額を擦り付けたまま、何も言い返さなかった。ただ、荒い息のに、くぐもった嗚咽のような音が漏れていた。
文子はちがった。の痺れすらじなかった。
「話してくれないなら、いいわ」
文子はハンドバッグを掴み、ちゃぶ台のの受領証を掴みにしてポケットへねじ込んだ。
「自分で確かめにくわ。、静岡へって、この本子というに直接会ってくる」
昭雄が弾かれたように顔をげた。その顔は涙とでぐしゃぐしゃに汚れ、恐怖に怯える子どものように蒼だった。
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