みかん小説
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"配給米を隠す母の秘密" 第1話

、晩。 太平戦争の銃声が止んでからが過ぎていたが、方の炭鉱町にほどいこのさな町には、平の温もりなどまだ欠片も届いていなかった。

空腹は、たいのように町のというい回っていた。 毎回、役の広に設けられる配所のには、夜の凍てつく暗から、ボロボロの綿入れや防空巾を被った々が、い列を作っていた。 配されるのは、わずかな玄米と、ころや籾殻の混ざった黒っぽい米、それにかさ増しのための麦が々。 が数週を啜るようにして命を繋ぐための、あまりにもい命綱だった。

佐藤も、その飢えの底に沈んでいた。 母・静(しずえ、歳)。 男である私、正(しょういち、歳)。 の次男・達也(たつや、歳)。 そして、まだ歳の幼い妹・キヨ。 の暮らしを支えていたのは、父親のではなかった。

父・清(せいいち)は、昭に召集令状枚で方へ送られ、終戦の翌に役から届いた切れには、ただ『戦ニテ消息』とだけ印刷されていた。 戦を証する遺骨も、の箱も届かない。 けれど町の々は皆、を揃えて「消息は戦と同じだ」「諦めて遺族扶助料の続きを待て」と囁きっていた。

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父はもう、この世のどこにもいない――それが、族の誰もがせない共通の諦だった。

「正、今もご苦労さまだったね」 の油煙で煤けた顔で帰宅した私に、母はげた。 私は旧制学を退し、町の製鉄請けで、に混ざって旋盤の切りを掃き、い鉄板を運ぶ雇い同然の労働に就いていた。 歳。本当なら、教科いてしい代の学問を学びたかった。 しかし、父のいないこので、誰が母と幼い弟妹をわせるのか。 毎週末に受け取るわずかな当の袋を、私は誇らしげに、そしてどこか傲な気持ちを込めて母の掌へ渡していた。

(俺がこの黒柱なんだ。俺が働いているから、このきているんだ)

その自負が、あるの夕暮れ、無残にも音をてて砕け散った。

その度の主だった。 からいつもより半く戻った私は、の引き戸を音もなくけた。 台所の奥で、母が、板のに背を向けて屈み込んでいた。

袋からで米を量り、古びた桐の米びつへと移す作業。 しかし、母のきはどこか異様だった。 周囲を盗み見るように何度も首を巡らせ、息を潜めている。 そして、米びつに半分ほど米を移したところで、母は元にあったさな麻袋を取りした。

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ですくいげた米――きっちり分。 母はその米を、米びつではなく、その麻袋のへと静かに滑り込ませた。 こぼれ落ちる米粒のサラサラという微かな音が、暗い台所にに響いた。

母は麻袋のを麻紐で固く縛ると、音を忍ばせて奥のへと向かった。 押し入れの襖をそっとけ、の段、古い李(こうり)のさらに奥、破れた障子へと、その袋を隠したのだ。

私はち尽くしたまま、声をすことすらできなかった。 の米。 それは、成盛りの私たちが数、飢えを凌ぐことができる命のみだった。 なぜ、母がそれを隠すのか。 に流してに換えているのか。それとも――。

疑惑の炎が、私の胸の奥底で、ドス黒い煙をげ始めた。

の夕餉の膳。 ちゃぶ台のに並んだのは、湯気をてるすいとんの汁と、平皿に盛られた飯だった。

だが、その飯を見た瞬、私のがピタリと止まった。

弟・達也の茶碗に盛られていたのは、見事なまでに透き通った、混じり気のない【純の米】だった。 方、私と母の茶碗に盛られていたのは、麦が割以を占め、黒く固い麦の筋が浮きた、パサパサの麦飯だった。

「うわあ! 兄ちゃん、見て! 今の飯、真っだよ!」 達也が無邪気に歓声をげ、箸を突きてていっぱいに米を頬張った。

歳のキヨも、母の膝ので、さじ杯のい粥を嬉しそうに啜っている。

私は自分の茶碗を見つめた。 麦の独特の青臭い匂い。

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