"「お前には継がせない」と言った父が、最後まで守り続けたもの" 第4話
かつて造のが連なっていた駅広はアスファルトで舗装され、真しいロータリーにはタクシーが列をなしていた。 そして、駅の正面、かつての広な空きに、巨な鉄筋コンクリート造りの階建てビルが、威圧にそびえっていた。
【まるよし百貨・総品スーパーマーケット 堂々!】
赤と緑の巨なアドバルーンが空に揺れ、スピーカーからは軽な流が音量で流れていた。 ガラス張りの自ドアからは、買い物を終えた勢の主婦たちが、鮮やかな袋を両に提げて次々と吐きされてくる。 輪トラックではなく、最のライトバンが何台も駐に並んでいた。
「……こんな方都にまで、もうしてきたのか」 郎は苦い唾をみ込み、旭町商へとを速めた。
駅かられるにつれ、の活気は急速にを失っていった。 商の入りに掲げられた「旭町商栄会」のアーチは、ペンキが剥げ落ち、錆びついていた。 昼だというのに、通りを歩くの姿はまばらだった。 かつて子供たちの声で溢れていた駄菓子はシャッターをろし、「貸舗」の貼りがに吹かれている。 百の先には元気がなく、魚の氷は溶けかけ、どの主も持ち無汰に煙の煙を燻らせていた。
そして――通りのほどにある「佐々商」
広告
のに辿り着いた、郎はわずを止めた。
(これが……父さんのなのか?)
瓦根は波打ち、軒先の杉玉は茶く枯れ果てて崩れかけていた。 にを踏み入れると、昼だというのに裸球すら点いておらず、暗い空にカビと古の匂いがち込めていた。 棚の段は半分以が空っぽで、埃をかぶったマッチ箱や、いつ仕入れたかも分からない古い缶詰が、まばらに置かれているだけだった。 かつて活気に満ちていた噌樽も醤油樽も、蓋のにく埃が積もっている。
「……いらっしゃい」
の奥、暗い帳格子のから、々しい声が響いた。 現れたのは、擦り切れた掛けを胸まで引きげ、猫背になった青――弟の健だった。
その顔は気に痩せこけ、目のには黒々とした隈が張り付いていた。 歳になったはずの弟は、まるで男のように疲れ果てて見えた。
「……健」 郎が声をかけると、健は目を見張り、にした箒を取り落とした。
「あ……兄さん……! 兄さん、本当に帰ってきてくれたんだ……!」
健はりに駆け寄り、にち尽くす郎のスーツの袖を、すがるように掴んだ。 そのは、と同じようにたく、激しく震えていた。
「父さんはどうした? 報に倒れたってあったが……」 郎が尋ねると、健は目を伏せ、奥の畳へと線を向けた。
広告
「昨の朝、駅の『まるよし』へ調査にくってかけたきり……ので胸を押さえて倒れたんだ。狭症の発作だって。……今は往診の先にい注射を打ってもらって、奥で眠ってるよ」
靴を脱ぎ、暗い仏の奥の寝所へ入る。 万のに横たわっていた父・源の姿を見た瞬、郎の胸が締め付けられた。
かつて、米俵を軽々と担ぎげ、のような声で問を鳴りつけていたあの屈な父の面は、どこにもなかった。 頬は削げ落ち、髪は伸び放題になり、掛け布団のからでも分かるほど、その体はさく縮んでいた。 浅く苦しげな寝息をてる父の胸元には、湿布薬のを突く匂いが漂っている。
「……母さんは?」 「所のりいのへ、おを借りにってるよ」 健が絞りすような声で言った。 「薬代と……今末の問への形を落とすが、どうしてもりなくてね」
は帳へ戻り、え切った番茶をすすった。 郎は懐から煙を取りしてをつけ、静かにをいた。
「健。……は、いつからこんな状態だったんだ?」
健は両で湯呑みを包み込み、ぽつりぽつりと語り始めた。 「兄さんがてって、目くらいからかな……。駅の向こうにしい県が通って、の流れが全部あっちへ持っていかれたんだ。そしての、『まるよし』ができてからは……もう、坂を転がり落ちるようだったよ」
健の声が震える。 「『まるよし』は、うちが問から仕入れる値段よりもい値段で、砂糖や油を売るんだ。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
配給米を隠す母の秘密
昭和22年。父が戦地で消息を絶った佐藤家では、16歳の正一が働いて家計を支えていた。そんな中、母の静江が配給の米を毎月一升ずつ隠していることに気づく。弟の茶碗にだけ白米が多いのを見て、正一は「自分だってまだ子どもなのに」と傷ついた。 ある夜、米を持って出かける母を追うと、駅裏の仮設住宅にいたのは、帰らないと思っていた父・清一だった。復員後に病気と足の障害を抱えた父は、家族の食べる分が減ることを恐れ、家へ戻れずにいた。 正一は父を迎え、家族はそれぞれにできる仕事を探しながら暮らしを立て直していく。母が米袋に書き続けた「一升」の記録には、苦しい時代にも父を家族のままにしておこうとした思いが残っていた。時代|歴史|昭和2.2万字5 4 -
完結第18話
消えた写真屋の父が残した一本のビデオ
昭和62年の運動会の日、写真館を営む信吾が姿を消した。店から商店街の預かり金200万円もなくなり、家族を捨てて逃げたと疑われる。8年後、娘の由美は運動会のビデオの続きに、失踪したはずの父が午後4時過ぎ、道路計画をめぐって時計店主と口論する姿を見つけた。 由美が調べると、道路の調査資料は書き換えられ、父はそれを示す写真を守ろうとしていたことが分かる。一方で信吾は生きており、家族に連絡できる時期になっても帰らなかった。母の千鶴も、子どもを守るつもりで映像と自分が受け取った金のことを隠していた。 真相が明らかになっても、失われた8年は戻らない。由美と千鶴は新しい写真の店を開き、信吾とは時間をかけて会い直す。由美は今の家族をそれぞれの居場所で撮り、自分の写った一枚も店の棚に置いた。昭和|ミステリー|真相2.7万字5 0 -
完結第11話
昭和三十九年、父の止めた記事が暴いた新聞記者親子の真実
オリンピック開幕を控えた昭和39年。新人記者の達也は、少女工員たちの過酷な労働を告発する記事を書いた。だが、記者である父・誠一は「この記事は落とせ」と命じる。達也には、父が弱い人々を見捨てたように思えた。 父には、かつて事実だけを報じ、その背後にあった家族の事情を知る前に一家の暮らしを壊してしまった悔いがあった。達也も取材を重ね、工場が倒れれば故郷へ仕送りする工員たちが職を失うこと、社長も元請けの厳しい条件に追い詰められていることを知る。 それでも少女たちの苦しみは消えない。達也は父とともに、工場だけを責める原稿を書き改める。少女たちの声と工場の実情、元請けの責任を伝えるため、締め切りまでの四時間、再びペンを走らせた。時代|歴史|昭和1.7万字5 4 -
完結第13話
毎月7000円を隠していた夫の20年の秘密
昭和48年、給料が銀行振込に変わった日、文子は夫・昭雄の給料が、毎月受け取っていた額より7000円多いことに気づく。家計簿を遡ると、その差は十年以上も続いていた。 やがて夫の上着から見つかったのは、静岡に住む「山本和子」への振込控え。昭雄は、その女性へ約20年間送金していたことを認めるが、理由を話そうとしない。 夫婦で築いてきた暮らしの裏に、何があったのか。文子は昭雄の言葉を待つのをやめ、和子に直接会いに行くことを決める。時代|歴史|昭和|金銭問題1.9万字5 5