"「お前には継がせない」と言った父が、最後まで守り続けたもの" 第5話
チラシを配れば、所の馴染みのお客さんまで、みんな自転で駅へ買いにってしまう。……うちに来るのは、ツケの利く所の寄りか、急にちりが切れたくらいだ。の売りげが、千円いかないだってあるんだよ」
郎は煙を吐きし、帳格子のの古びた売掛帳を見つめた。 「……だから言ったんだ。俺があの、を継いでいれば、こんなことにはならなかった。親父が俺を追いして、おに押し付けたからだ」
郎の淡な言葉に、健は激しく首を横に振った。 その目から、粒の涙が零れ落ちる。
「違うんだ、兄さん! ……何も分かってないのは、兄さんの方だよ!」
「何だと?」
「父さんはね……兄さんを追いしたんじゃないんだ!」 健はちがり、帳の引きしの奥から、ボロボロになった枚の学ノートを引っ張りしてきた。
「父さんは……兄さんを、このから【逃がした】んだよ!」
「逃がした……?」 郎は眉をひそめ、弟が叩きつけるように差ししてきた学ノートを見つめた。
表には、父の悪で『昭 商業向綴』と墨でかれていた。 ページをめくると、そこには聞の切り抜きや業界誌の記事が、几帳面に貼り付けられていた。
【米国発祥・スーパーマーケットの脅威】 【セルフサービス方式、本へ陸 売業の構造変革迫る】 【売、資本力に敗の危 全国商で倒産相次ぐ】
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記事の余には、父の鉛の文字で、震えるような致のメモがびっしりとき込まれていた。 『いずれ、方のはすべて呑み込まれる』 『売りと品揃えで太刀打ちできる理なし』 『男をこの沼に巻き込むべからず』
「……これ、は……」 郎のが、微かに震え始めた。付は、昭の。自分がを卒業し、京の就職を断ってに残ると宣言した、まさにその期だった。
「父さんはね、兄さんがを継ぐって言ってくれた、本当はびがるほど嬉しかったんだ」 健は涙を拭いもせず、訴えかけた。
「でも、その頃から父さんは、京の商業聞や経済誌を取り寄せて、夜にで読み耽っていたんだよ。そして悟ったんだ……『これからの代、親父の背を見よう見まねで覚えただけの商売じゃ、絶対にえなくなる。自分の代でこのは終わるかもしれない。そんな沈みゆくに、番優秀で未来のある男のを連れにするわけにはいかない』って」
「じゃあ……なんでおなんだよ!」郎は声を荒らげた。「俺を逃がすためなら、なんで体がくて、商売に向いてないおにを継がせたんだ!? おを犠牲にしたってことじゃないか!」
「違うよ!」健が叫んだ。
「俺は……最初から体がくて、京へてで就職することなんてできなかっただろ? 父さんはね、俺に言ったんだ。
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『健、おには無理をさせん。が潰れるまでの数、細々と番をして、飯がえればそれでいい。郎はの世界で、しい代の商売を学んで、で派にきていける男だ。だから、あいつの首を掴むような鎖は、親ので断ち切らなきゃならんのだ』って……!」
郎の脳裏で、のの夜の記憶が、激しい音をてて崩壊し、再構築されていった。
『は郎には継がせない』 『おには、別のがある』
あの、を切交えず、氷のようにたく言い放った父の横顔。 あれは、息子への侮蔑でも、拒絶でもなかった。 「男だからを継ぐのが当たり」という、この国の古い呪縛から、自らので悪者になって息子を解き放つための、血を吐くような親だったのだ。
父は、郎を憎んで追いしたのではない。 息子の未来を守るために、自らの誇りも、男との絆も、すべてをドブに捨てて「追放」という名の片切符を握らせたのだ。
「兄さん……」 健が、ちゃぶ台に両をついてをげた。
「父さんはもう限界だ。俺の力じゃ、もうを守りきれない。……頼むよ、兄さん。京で成功した兄さんの恵で、このを……父さんのを、助けてやってくれないか……!」
郎はち尽くしたまま、元のノートを見つめ続けた。 ページに染み込んだ古いインクの匂いが、腔を突く。
親父ののさに、今さら気づいた。 だが――それと同に、郎の胸の奥底で、京の最線で戦い抜いてきたプロの商としての、徹なりがフツフツと湧きがっていた。
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