"「お前には継がせない」と言った父が、最後まで守り続けたもの" 第6話
「……バカ野郎」 郎はノートをバチンと閉じた。
「親父のいやりは分かった。……だがな、健。親父のやり方は、致命に違ってる」
「え……? 兄さん……?」 健が涙で濡れた顔をげた。
郎は煙をもみ消し、の空っぽの棚を鋭いで指差した。 「親父は、代を読んだ気になっていただけだ。『型が来るから、さなは潰れるしかない』『だから息子を逃がす』……見、美しい親に見えるがな、商としては完全な敗主義だ!」
郎の声が、暗い内に響き渡る。 「客が減ったから仕入れを減らす。仕入れを減らすから棚がスカスカになる。棚がスカスカだから客が来なくなる! ……親父がやってきたのは、『を守る』ことじゃない。ただ、緩なを座して待っていただけだ!」
「兄さん、そんな言い方……! 父さんだって、必で――」
「必に何をした!?」郎は歩踏みした。 「しい客を呼ぶ努力をしたか? 『まるよし』にない商品を仕入れる夫をしたか? 昔ながらの帳面にツケを溜め込んで、問にをげて……それが商の仕事かよ! 変えることを諦めて、代に怯えて縮こまっていただけじゃないか!!」
そのだった。
カサリ……と、奥の襖がく音がした。
が息を呑んで振り返ると、そこには、布団から抜けし、壁にをついて辛うじてちがった父・源の姿があった。 やつれ果てた顔、青い唇。
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しかし、その瞳には、と同じ頑固で鋭いが、幽鬼のように宿っていた。
「……何が、変えることだ」
源の掠れた、息のからの声がに落ちた。 「京で……っぺらな横文字を覚えて、背広を着て……偉くなったつもりか、郎」
「親父……」
源は壁を伝い、を引きずりながら、帳格子まで歩み寄ってきた。 そして、震える指先で、埃をかぶった噌樽を叩いた。
「この噌はな……町れのの婆さんが、毎朝『佐々さんのとこの噌じゃないと、噌汁のが決まらん』と言って買いに来るんだ。あそこの棚のちりは、裏のの田さんが、赤ん坊のオムツがりなくなったに、夜でも駆け込んできて買っていくんだ」
源は肩で息をしながら、郎を睨みつけた。 「きなができて、いもんが並べば、はそっちへくだろう。……だがな、のない寄りにツケで飯をわせ、台の夜に戸板を打ち付けてやり、の暮らしを支えてきたのは、誰だ? ……おの言う『あたらしいしょうばい』とやらは、の婆さんの話し相になってやれるのか? 田さんの赤ん坊の顔を覚えていられるのか!?」
源の胸から、ゼエゼエという苦しげな喘鳴が漏れる。 「売りをして、をかき集めて、を巻きげるだけが商売なら……そんなものは、この佐々商にはらん! 儂のは……儂のやり方で畳む! ……京のは、とっとと帰れ!!」
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父の激しい拒絶。 病に伏しながらも、己の築いてきた「の」を守しようとする老商の。 だが、郎もまた、歩も引かなかった。 スーツのポケットに両を突っ込み、父のを真っ向から受け止めた。
「親父。……の婆さんはな、先週から腰を悪くして、このまで歩いて来られなくなってるぞ」
源の表が、ピクリと凍りついた。
「な……何だと……?」 源の喉から、掠れた声が漏れた。
郎は徹に、駅からので見てきた現実を突きつけた。 「さっき、商を歩いてくる途で、の婆さんののを通ったよ。所の押しを押す婆さんたちが話してた。『さん、膝の関節を痛めて、もうの角の共同井戸までくのがやっとだ』ってな」
郎は歩、父へと歩み寄った。 「親父のに来たくても、来られないんだよ。……じゃあ、の婆さんは今、どうやって飯をってるとう? 駅の『まるよし』がらせてる輪トラックの移販売が、週に回、のまでパンと缶詰を運んできて、それを買ってるんだよ!」
「う……」 源が言葉を詰まらせ、胸元をく押さえた。
「親父の言う『』ってのは何だ? ので座って、客が来るのを待つことか? 来られなくなった客を、見捨てることかよ!」 郎の声が、容赦なく老父の胸を抉る。
「顔の見える商売が事だと言うなら、なぜその顔を見にかないんだ! 歩けないなら届けてやればいいだろ! 話本で『醤油本、噌持ってきてくれ』って言われたら、自転漕いでってやりゃあいいじゃないか! ……親父がやってきたのはじゃない。
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