みかん小説
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"「お前には継がせない」と言った父が、最後まで守り続けたもの" 第8話

の夜が、古い引き戸の隙から吹き込んできた。 それは、商さなたったつの族が、昭度経済成という巨な怪物に真っ向から挑みかかる、きにわたる激闘の始まりを告げていた。

翌朝、午の空に群青のかりが差し込む、佐々戸が斉にけ放たれた。

「健、表の箒とちり取りを持ってこい。母さんはバケツに井戸を汲んでくれ。全部拭きするぞ」

郎は京から着てきた背広を脱ぎ捨て、、部の隅に脱ぎ捨てたあの染めの掛けを再び腰に固く結び直していた。 「兄さん、この噌樽はどうするの? もうが底をついてるけど……」 健が恐る恐る尋ねる。

「奥の倉庫へ運ぶ。には置かない」 郎の指示は徹で、迷いがなかった。 「暗いきな樽を並べるのは昔のやり方だ。奥が見通せないには、今の主婦は入ってこない。……の真んのスペースを全部空けろ。棚を壁際に寄せて、通本作るんだ」

に積もったの埃が、箒の先から煙のようにがった。 郎と健は、何貫もある製の棚を力任せに引きずり、配置を根本から入れ替えた。 京の最スーパーマーケットで徹底に叩き込まれた「線設計」――客が自然との奥まで歩き、両側の棚に線が誘導されるレイアウトの再現だった。

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さらに、郎は古聞の束と毛を取りした。 棚の段に、自ら墨できくいたの札をてかけていく。

【朝の友・番摘み苔 特売円】 【の極信州噌 量り売り承ります・見歓迎】 【忙しいお母さんへ 煮干しと昆布のわせダシ袋】

「兄さん、これ……何?」健が目を丸くしてきの札を見つめた。 「きの『ポップ』だ」郎はを休めずに言った。 「商品の名と値段だけいたって誰も買わない。その商品を使ってどんな飯が作れるか、どんな得があるかを、主の代わりにに喋らせるんだ。……それから、棚の段には軽い乾物、目のさには番売りたい噌や醤油、元にはい洗剤や塩を並べる。客がを伸ばしやすいさに、番良いものを置くんだ」

夕暮れを通りかかった所の主婦たちが、わずを止めた。 いつもは暗く、入るのを躊躇うほど寂れていた佐々が、るい球のに照らされ、見通しの良い清潔な空へとまれ変わっていたからだ。

「あら……佐々さん、ずいぶん綺麗にしたわねえ」 恐る恐る入ってきた隣町のおかみさんに、郎は満面の笑みでげた。 「いらっしゃいませ! 京から戻ってまいりました、男の郎です! 奥さん、今の晩御飯は何ですか? いいワカメが入ってますよ!」

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の奥の寝から、目を覚ました父・源が、障子の隙越しにその景をじっと見つめていた。 眉い皺を刻んだまま、老いた主は言も発しなかった。 だが、その瞳には、自分のる「佐々」が音をてて塗り替えられていくことへの、激しい困惑と痛痒が渦巻いていた。

の改装が段落した翌週、郎は最の壁に直面した。 「仕入れ値」の壁だった。

の巨スーパー『まるよし』は、京の親会社が括で何千ケースもの醤油や砂糖を買い付けるため、佐々元の卸問から仕入れる原価よりもい売価でに並べていた。 同じ商品を同じように売れば、で干がることはを見るよりらかだった。

「佐々君、無理だよ」 駅通りにある老舗の卸問田商』の帳で、番がすまなそうに首を横に振った。 「郎君が京から戻ってて直そうとしてるのはってる。だがね、うちだってまるよしに客を奪われて青息吐息なんだ。佐々さん軒のために、ケースやそこらの仕入れで掛け率をげるわけにはいかんよ」

田さん、うち軒じゃありません」 郎は懐から、枚の連名状を取りして畳のに広げた。

そこには、旭町商、乾物、酒、豆腐――潰れかけていた個軒の社印と主の署名が、ずらりと並んでいた。

「……これは何だい?」番が目を黒させる。

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