"「お前には継がせない」と言った父が、最後まで守り続けたもの" 第13話
ただ、を忙しなく駆け回り、客と笑いい、話を取り、配達の配を指示する男・郎の背を、静かに、じっと見つめ続けていた。
「源さん、おはよう! 顔良くなったじゃないか!」 所の鉄所の親方が、煙を買いに入ってくる。 「ああ、おかげさんでな」源は掠れた声で応じる。 「それにしても、郎君はしたもんだよ。うちの若い衆の弁当の配達まで引き受けてくれてな。通りに温かい飯が届くから、の能率ががって助かりだ!」
「……そうかい」 源はく答え、元の帳面に目を落とした。
昼がり、客が段落した帯。 で配達用の荷物を箱に詰めていた郎の元へ、輪の軋む音がづいてきた。 源が、自ら子を漕いで、郎の真ろまでやってきたのだ。
郎はを止めず、背を向けたまま言った。 「……何だよ、親父。まだ文句があるのか? 京仕込みのやり方が気に入らないなら、いつでもてってやるぞ」
がりを込めた郎の背に、沈黙が落ちた。 が、軒先の真しい緑の杉玉を優しく揺らす。
やがて、源のく、震える声が、郎のに届いた。
「……あの吹の夜」
郎のが、ピタリと止まった。
「のところへ……灯油を引いてったそうだな」 源の言葉は、訥々としていた。 「翌朝、の倅が菓子折り持って涙流して礼に来たよ。
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『郎さんが来てくださらなきゃ、お袋は凍えてんでました』ってな」
源はゴツゴツとしたを伸ばし、郎の腰に巻かれた、と油で汚れた染めの掛けの端を、そっと指先で摘んだ。
「……郎。おは……派な、商になったな」
郎の肩が、ビクッとねがった。 まれてから数、ただの度も自分を褒めたことのなかった頑固徹の父。 京へくも、を追いしたも、たい言葉しか投げつけなかった父が、今、震える声で自分を認めていた。
郎は振り返ることができなかった。 溢れそうになる涙を必に堪え、ただ箱の縁を爪がくなるほどく握りしめた。
「……当たりだろ」 郎の声が、微かにずった。 「俺は……あんたの息子なんだからな」
に、の柔らかなが差し込んでいた。 父と子のに横たわっていたの氷壁が、音もなく、完全に溶けった瞬だった。
は流れ――昭、。 京オリンピックの狂がり、本は名実ともに先国の仲入りを果たしていた。 モータリゼーションの波が方都にも押し寄せ、の景は目まぐるしい速度で変貌を遂げていた。
しかし、駅の巨スーパー『まるよし百貨・品館』の事務所には、苦しい空気がち込めていた。
「……今の売報告です」 本社の監査役が、淡に類をデスクへ叩きつけた。
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「同比、パーセント減。連続の赤字だ。……特に、鮮品と用品の落ち込みが酷い。なぜこれほど客がれているんだ?」
代半ばのは、脂汗を拭いながら項垂れた。 「……旭町商の、佐々商です」
「あのボロい万軒に、が社が負けていると言うのか!?」
「万じゃありません……!」は声を絞りした。 「あそこは今や、商舗を束ねる【旭町共同配送センター】の核になっています。主婦たちは、にいながら話本で、朝採れの野菜も、さばきたての魚も、用品も、全部まとめて配達してもらえるんです。おまけに、配達員が暮らしの寄りの否確認まで代している……。を持たない齢者層も、共働きの婚庭も、みんなあっちへ流れてしまいました」
は窓のを見つめた。 「うちのような『で乗り付けて、広い内を歩き回って自分で運ぶ』セルフサービス方式は、この町の活実態にっていなかったんです……。売りチラシを撒いても、もう誰も見向きもしません」
翌、『まるよし百貨』のに、枚の告文が貼りされた。 【諸般の事により、内をもちまして当は閉・撤退いたします】
巨なアドバルーンがろされ、赤と緑の板が取りされていくのを、商の主たちは複雑な面持ちで見つめていた。
勝ったのだ。 資本力に物を言わせて方の商をみ込もうとした巨チェーンに、さな族の恵と、の絆が、完全に打ち勝ったのだ。
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