みかん小説
本棚

"昭和三十九年、父の止めた記事が暴いた新聞記者親子の真実" 第1話

京のはどこを切り取っても、乾いたコンクリートのとアスファルトの気に満ちていた。

のオリンピック会式を目に控え、首都架が青空を縫うように延び、幹線の試運転をらせるニュースが黒テレビからけたたましく鳴り響いていた。敗戦からが「奇跡の復興」という甘美な病に浮かされていた。

丁目、聞社京支局の編集局は、朝から話の呼びし音と文タイプライターの打鍵音、そして輪転が唸りをあげる響きに揺れていた。でありながら全国にネットワークを持つ聞において、京支局は全国の精鋭が集まる臓部だった。

「佐伯、墨田の紡績の件、どうなった」

社会部デスクの梶が、煙の煙を目に染みそうに細めながら、原稿用の束を放り投げた。

「元員の女性名から直接話を聞けました」

佐伯達也は、額の汗をぬぐいで拭いながらを乗りした。歳。稲田学の第文学部を卒業し、今入社したばかりの米記者だった。

「会社側は『の都による集団退職』と発表していますが、実態は違います。を超える労働、それに薬品による換気全で倒れる者が続しています。

広告

訴えた者を寮に禁し、退職届に無理やり判を押させていました。完全な労働基準法違反です」

達也の声には、青の正義を帯びて宿っていた。オリンピック景気の華やかなの裏で、方から集められた集団就職の若い女性たちが、埃まみれの粗末な寮で使い潰されている。その現実に、達也のペンはりで震えていた。

「よし、裏付けを急げ。版まであとある。社会面のトップでいくぞ」

皿に吸い殻を押し付け、力く頷いた。

達也が自席に戻ると、フロアの向こう、論説委員のガラス扉の奥に、の男の姿が見えた。

佐伯誠歳。達也の父であり、聞の論説特別顧問を務める男だった。

から聞記者筋で。戦の言論統制に抗い、戦の混乱期にはを牛る暴力団や腐敗した政治を相に、その鋭利な本でち向かってきた「伝説の記者」だった。

幼い頃、達也は父の背を見て育った。父の斎には、インクと古いの匂いが満ちていた。がる、父が膝ので教えてくれた言葉を、達也は今でも句違わずに覚えている。

『達也、聞記者はな、ただ見たものをそのままからへ流す仕事じゃない。の当たらない所にいる、誰も声を聞いてくれないの代わりに、声限りに叫んでやる仕事なんだ』

その教えを胸に、達也は記者になった。

広告

父と同じを歩み、いつか父を超える記事をくこと。それが達也のきる目標だった。

夕方、取材ノートを理し、百字詰め原稿用に万らせていた達也の肩に、ずしりとが置かれた。

し、いいか」

だった。仕ての古びた背広、入れのき届いた革靴。く刻まれた眉の皺の奥にある瞳は、く濁りのないをしていた。

「父さん……あ、いえ、佐伯論説委員。原稿なら、今デスクに渡す直ですが」

は何も言わず、机のに置かれた達也の原稿の束を無造作に取りげた。百字詰め原稿用枚。墨田の「絹紡」における苛烈な労働実態を、告発調の激しい致で糾弾した渾の記事だった。

ったまま、原稿を枚ずつめくっていった。編集局の喧騒が、なぜかその瞬だけのいたようにじられた。

のページをめくり終えた誠は、原稿を揃えて机にトンと置いた。

そして、く、切のを排した声で言った。

「この記事は、落とせ」

達也ので、何かが音をてて弾けた。

「……落とせ、とはどういうですか」

達也はがった。周囲の記者たちが、ただならぬ気配を察してちらりと線を向けてくる。

「掲載を見送れと言っているんだ。この記事は世にしてはならない」

の表は鉄のようにかった。

「なぜですか!」達也の声がずった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: