"消えた写真屋の父が残した一本のビデオ" 第3話
由美には記憶がない。自分が覚えていないから起きていないと考える危うさを、テープは最初に教えていた。
翌朝、由美は図館で庭用ビデオの扱い方を調べた。計の表示は撮に画面へ焼き込まれる設定にも、再側でねて表示される設定にもできる。問題の暗映像には画面隅の表示がない。だから壁計だけではにちを決められず、映り込んだ瓶や借り物の乾燥を調べる必があった。現像所で写真と械に触れてきたが、初めて父の映像を読む力になった。
由美には暗を撮った記憶がなかった。運会から帰り、にいない父を待ち、千鶴が警察へ話した。そのにビデオカメラの源を入れた覚えはない。記憶が欠けているのか、似た袖の別が撮したのか、画面だけでは分からなかった。
テープにはいくつもの録画の継ぎ目があった。庭用ビデオでは、以撮った映像のから録画すると、止位置のに古い映像が数秒残ることがある。由美が現像所の同僚、材担当の野坂に頼むと、彼はテープの巻きとケースのラベルを見比べ、父が録画した運会の続きではなく、、同じテープに暗を録画した能性を示した。
「計が分でも、運会のとは限らない。暗の壁計なら、止まっていることもある」
広告
野坂の言葉を聞き、由美は気が緩むのをじた。父が消えたに撮られた映像でなければ、父は別のに瀬と論し、そのは自分の志でていったかもしれない。だが、その能性が何を救うのか、自分でも分からなかった。
翌、由美は写真館の暗を調べた。壁計は取りされていたが、釘の跡が残っている。カメラが向いていた角度につと、鏡のに置いた現像液の瓶が野に入った。映像の瓶には、赤いで《1011封》と貼ってある。運会はだった。
千鶴は、封に必ず瓶へ印を付けるのが信吾の習慣だったと話した。瓶を使い切るまでそのは貼られていたため、映像は以であることしか分からない。ただし同じ棚に、運会のあとだけ借りた型の乾燥が映っていた。写真館の械が故障し、商の別のから借りたものだった。
「お父さんがいなくなった翌、私は返したわ」
千鶴が言った。映像は失踪した当か翌朝までに撮られている。父はそのどこかで瀬と会っていた。
由美が画像を拡すると、暗の鏡にわずかに撮者の顔が映っていた。でも由美でもない。横顔とい髪、の赤い指輪。になった健太が、黙って画面を見つめた。
「これ、母さんのだ」
千鶴は赤い指輪をしていた。
広告
しかし由美の記憶では、母は運会のあとで弁当箱を洗い、父の帰りを待っていたはずだった。千鶴は画像を見て、「その指輪なら商に同じものがいくつもあった」と言い、話を終わらせた。
翌朝、写真館の郵便受けに折り畳んだが入っていた。《あのの映像を見たなら、のを信じすぎるな》。消印も差もない。由美はを捨てず、弟と緒に瀬のへ向かった。
瀬のへ向かう、由美は商の古い回覧板を探した。再発の説会の付、交通量調査を告したさな記事、主たちが集めた署名が残っている。どの文も、今となっては読みづらい謄写版の文字だった。コピーがあっても枚ごとにがかかったころ、父は同じ図を何枚も焼き増して民へ配っていた。さとのには、父のきで《数字が違えば言ってください》と添えられた枚があった。
さとは調査員の顔まで覚えていない。それでも、その、雑貨ので子どもたちにラムネを売り、空き瓶を昼に回収したことは覚えていた。帳に仕入れと返却の本数が残っている。由美はその数を交通量そのものとして使わなかった。ラムネを買わないも、本買うもいる。けれど役所の表に《でほぼ通りなし》とかれたの景を、商売の記録と写真で確かめることはできる。
図に引かれたしい線を商の端から端まで歩いてみた。瀬の計の軒先だけではなく、写真館の隣で独り暮らしをするの台所にも線はかかっていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
配給米を隠す母の秘密
昭和22年。父が戦地で消息を絶った佐藤家では、16歳の正一が働いて家計を支えていた。そんな中、母の静江が配給の米を毎月一升ずつ隠していることに気づく。弟の茶碗にだけ白米が多いのを見て、正一は「自分だってまだ子どもなのに」と傷ついた。 ある夜、米を持って出かける母を追うと、駅裏の仮設住宅にいたのは、帰らないと思っていた父・清一だった。復員後に病気と足の障害を抱えた父は、家族の食べる分が減ることを恐れ、家へ戻れずにいた。 正一は父を迎え、家族はそれぞれにできる仕事を探しながら暮らしを立て直していく。母が米袋に書き続けた「一升」の記録には、苦しい時代にも父を家族のままにしておこうとした思いが残っていた。時代|歴史|昭和2.2万字5 27 -
完結第19話
昭和54年、消えた母の集金袋
昭和54年の集金日、商店街の積立金86万4千円とともに母・澄江が姿を消した。金を持ち逃げしたという噂を残したまま17年。娘の直子は、父の遺品から「返すこと」と書かれた千円札を見つけ、古い帳簿を調べ始める。 調査で見つかった受領書は、澄江が集金した全額を会計担当の大竹へ渡していたことを示していた。大竹は会費の使い込みを隠すため、澄江が倉庫の点検槽へ落ちた夜に救助を呼ばず、失踪後も嘘を重ねていた。ただし、転落の瞬間に何が起きたかは分からない。 直子と弟の修司は母の汚名を晴らし、積立金の記録と返金先を調べ直す。帳簿に残った「集金係の未入金」という記述も訂正された。直子は母の集金袋を店の棚に戻し、修司と並んで帰り道を歩く。時代|昭和|ミステリー|真相2.8万字5 0 -
完結第11話
昭和三十九年、父の止めた記事が暴いた新聞記者親子の真実
オリンピック開幕を控えた昭和39年。新人記者の達也は、少女工員たちの過酷な労働を告発する記事を書いた。だが、記者である父・誠一は「この記事は落とせ」と命じる。達也には、父が弱い人々を見捨てたように思えた。 父には、かつて事実だけを報じ、その背後にあった家族の事情を知る前に一家の暮らしを壊してしまった悔いがあった。達也も取材を重ね、工場が倒れれば故郷へ仕送りする工員たちが職を失うこと、社長も元請けの厳しい条件に追い詰められていることを知る。 それでも少女たちの苦しみは消えない。達也は父とともに、工場だけを責める原稿を書き改める。少女たちの声と工場の実情、元請けの責任を伝えるため、締め切りまでの四時間、再びペンを走らせた。時代|歴史|昭和1.7万字5 18 -
完結第14話
「お前には継がせない」と言った父が、最後まで守り続けたもの
昭和31年、佐々木商店を継ぐため東京での就職を断った長男・一郎に、父の源三は「店は健二に渡す」と告げた。理由を聞けないまま一郎は家を出て、父と距離を置く。 数年後、客足の減った店に戻った一郎は、父が商店街の先行きを案じ、自分を家業に縛らないために送り出したと知る。しかし、父の判断を理解しても、弟だけに店の重荷を負わせたことは見過ごせなかった。 一郎は東京で学んだ工夫を持ち込み、昔からの客に向けた電話注文と配達を始める。店のやり方をめぐって父とぶつかりながらも、源三が築いた信頼を次の時代へつなごうとする。時代|歴史|昭和2.1万字5 50 -
完結第13話
毎月7000円を隠していた夫の20年の秘密
昭和48年、給料が銀行振込に変わった日、文子は夫・昭雄の給料が、毎月受け取っていた額より7000円多いことに気づく。家計簿を遡ると、その差は十年以上も続いていた。 やがて夫の上着から見つかったのは、静岡に住む「山本和子」への振込控え。昭雄は、その女性へ約20年間送金していたことを認めるが、理由を話そうとしない。 夫婦で築いてきた暮らしの裏に、何があったのか。文子は昭雄の言葉を待つのをやめ、和子に直接会いに行くことを決める。時代|歴史|昭和|金銭問題1.9万字5 45 -
完結第15話
300億円の恩返し
結婚式当日、白いタキシードを着て新婦を待っていた琢磨に告げられたのは、「結婚は最初からドッキリだった」という言葉。銀行の創業家である新婦の家族は、彼を笑い者にし、その様子まで動画に撮っていた。 駆けつけた妹の未令は、兄を見下す銀行一家の前で財務担当者に電話をかける。彼女は世界各地で事業を営む企業グループの創業者で、その銀行には約300億円を預けていた。無名だった未令の夢を信じ、借入れの保証人になったのも琢磨だった。人生逆転|兄弟姉妹|真相|修羅場2.2万字5 231 -
完結第18話
消えた交換手と鳴らなかった電話
昭和49年の雪の夜、電話交換手の澄子が姿を消した。十三歳の娘・和枝は、母が家族を捨てたという噂を聞きながら育つ。十九年後、取り壊された交換局から届いた勤務簿には、失踪の夜、澄子が自宅へかけようとして《接続不能》になった通話が記されていた。 和枝が調べ始めると、家の電話線が刃物で切られていたこと、澄子が高齢者宅への灯油配達をめぐる不正を追っていたことが分かる。母は家族を守ろうと町を離れたが、その後も帰れなかった理由には、父の沈黙と、澄子自身のためらいが重なっていた。 ようやく母と再会した和枝は、生きていてくれた喜びと、置き去りにされた寂しさの両方を抱える。十九年を一度の会話で埋めることはできない。それでも二人は、次に話す日を自分たちで決める。雪の日につながらなかった電話が、今度は確かに母へ届く。昭和|ミステリー|真相2.7万字5 1196