"消えた写真屋の父が残した一本のビデオ" 第16話
瀬は最に、記憶違いだったと述べた。由美には謝罪に聞こえなかったが、記録のは変わった。
斉藤は数字の訂正と司へ渡した資料について、改めて説した。古川の帳簿と信吾のネガ、藤崎の証言も提された。役所が当の調査過程を再点検することになり、瀬を含む関係者への聞き取りがんだ。由美は結果の通を待ちながら、父と駅まで歩いた。、父が町からたを、緒に歩いたのは初めてだった。
信吾はで歳になった。駅の階段をりてきた顔には皺が増え、仕事具の鞄を肩に掛けていた。由美は父を見て、待ちわびていたはずの再会に何もじられないことが怖かった。父もづきすぎず、「遅くなった」と言った。
写真館で、信吾は消えた当のことを話した。資材置きで斉藤に数字の改竄を認めさせたが、瀬と論になり、押された拍子に棚へ額をぶつけた。きな怪ではなかった。それでもの契約に族の名を見せられ、自分だけが反対していたのだとい込んだ。
夜、千鶴が警察にこうと言ったのを拒んだのは、瀬を恐れただけではない。妻が署名したと信じ、先に説を求めるのが怖かった。川崎へったあと、の資料は斉藤へ送り、町の計画が見直されたこともった。
広告
そこから先は脅迫ではなく、自分の臆病さだった。
「妻がを守っていたなら、署名は偽物だと考えられたはずだ。子どもに会いたいなら、話をかけることもできた。それをしなかったのは、自分が捨てられた父親だとっているほうが、楽だったからだ」
千鶴は、子どもを守るつもりで映像を隠したと話した。信吾は責めず、自分も同じことをしたと言った。族のためとにしながら、族の声を確かめなかった。互いに相が選んだと決めつけ、子どもたちから父と話すを奪った。
健太は父にづき、「俺、運会のあとずっとカメラが嫌いだった」と言った。父が来なくなった、に残った械が父の代わりみたいで腹がった。学で族写真が必になるたび、姉か母が撮ってくれたが、カメラを持つ父がいないことのほうが目に付いた。
「今さら写真を撮らなくていい。俺が嫌だったって聞いて」
信吾は「うん」と言い、息子が続けるまで待った。健太はまだっている、でも父がきていてよかったともうと言った。つの気持ちをつにまとめず話せる相が、ようやくそこにいた。
翌、信吾は警察へき、瀬の偽証と自分が任に町をれた経緯を説した。瀬と斉藤の関わった調査の正は、資料を基に公に検証された。
広告
という歳のため、すべてが処罰へつながったわけではない。それでも預かりの方、偽署名、失踪の実が記録に残った。
信吾は写真館へ戻るよう求めなかった。千鶴も、それを望むか決められなかった。父は青森の仕事を続け、に度、の子どもに会いに来ることになった。約束を守れるかどうかは、これからのでしか示せない。
父が青森へ戻る、由美は運会の映像を緒に見せた。信吾は健太がゴールする、カメラをほんのしげている。ちょうど元の砂に躓き、父が笑った瞬だった。「肝なところを撮り損ねた」と父が言うと、健太は「ちゃんと見てたんだろ」と返した。のにそれ以の言葉はなかった。由美は録画を止めず、庭のに揺れる旗まで再した。あのに楽しかったがあったことを、消えた午のせいで放す必はないとった。
閉が決まると、古い写真を受け取りに来る客が増えた。ある夫婦は結婚式のネガを、さとは祭りの集写真を探した。写真館の戸棚には持ち主へ渡したはずの予備の焼き増しもある。由美は名と撮を読みげ、千鶴とで箱を分けた。写真館をしくする仕事は、父が残した物を捨てる作業ばかりではない。誰のを預かってきたかを確認し、返せる物を返す仕事でもあった。
飯田は度返された調査費を、別の用途に使いたいと申した。計画の記録を商会の棚にまとめ、当の写真と説会の資料を誰でも見られるようにする。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
「柿の木だけは切るな」――庭から出た四人の遺骨
2024年、東京・品川の古い屋敷で、樹齢70年の柿の木が引き抜かれた。その根元から見つかったのは、大人一人と子ども三人の遺骨。20年前、この屋敷では住み込みの家政婦と三人の娘が姿を消し、家主である元校長は「金を盗んで夜逃げした」と説明していた。なぜ彼は、柿の木だけは絶対に切るなと家族に言い残していたのか。捜査を進める刑事・渡辺は、町の人々から尊敬されてきた元校長の過去と、20年間隠されてきた母娘の失踪の真相を追い始める。ミステリー|真実|真相1.7万字5 17 -
完結第12話
昭和35年、上野駅に現れた二人の「ハルコ」
昭和35年春。集団就職列車を迎えに上野駅へ来た食堂の主人は、「山本春子」と呼ばれた少女が二人同時に手を挙げたことに戸惑う。一人は店で働くために上京した春子。もう一人の晴子は、三年前に東京へ出た姉を捜していた。姉は故郷へ帰ったことになっているのに、家族は誰も会っていない。不審に思った主人が古い雇用通知書を調べると、晴子の帰郷を証明する書類に、自分の署名が残されていた。誰が少女たちの名前を使い、何を隠していたのか。集団就職の時代を背景に、書類一枚に翻弄された若者たちの人生を描く物語。時代|歴史|昭和|真相2.3万字5 0 -
完結第15話
「このおばあちゃん、危ない」六歳の孫が見たもの
六十八歳の静子は、夫を亡くしてから一人暮らしをしている。近所の蛇田さんは、毎日のようにお菓子を配って歩く親切なおばあさん。ところが、六歳の孫・小春だけは、なぜか彼女を避けていた。 ある日、三人でスーパーへ出かけると、小春が突然、静子の手を引いて言った。 「ばあば、このおばあちゃん、あぶない」 その直後、店員に呼び止められた蛇田さん。小春はいったい何に気づいたのか。お菓子に隠された秘密と、一人暮らしの老人たちが抱える寂しさを描く物語。人生逆転|祖父母と孫|真実|真相1.6万字5 65 -
完結第12話
卒業写真の空いた席
昭和40年、秋田県の山あいにある中学校。成績優秀な佐伯澄江は、家計を支えるため、高校進学を諦めて東京の縫製工場へ就職することになった。ところが卒業写真を撮る日、澄江は突然学校へ来なくなる。担任の女性教師が見つけたのは、少女が残した一枚の紙だった。そこには、紹介状に書かれた就職先と、母親が指定した送金先の住所が違うと記されていた。さらに、東京で結婚したはずの姉にも不可解な事情があるらしい。卒業証書を手に上京した教師は、少女たちの知られざる働き方と、家族の間に隠された事情を知っていく。時代|歴史|昭和2.3万字5 208 -
完結第12話
最後の伝書鳩
昭和19年、南方の山地。撤退を命じられた部隊は、谷に残された九人の兵士と連絡が取れなくなっていた。 通信兵の関谷清一伍長は、彼らが「未帰還」の一言で片づけられることに納得できない。しかし、無線は故障し、残された伝書鳩は最後の一羽だけ。報告書が敵の手に渡れば、百人以上の仲間まで危険にさらされる。 命令を守るか、九人の居場所を知らせるか。関谷は報告書の裏に、九人の名前と谷の場所を書き込んだ。 戦場で一枚の報告書と一羽の鳩に、九人の命を託した通信兵の物語。時代|歴史|昭和|真実2.3万字5 78 -
完結第15話
母ちゃんへの三千円
昭和39年春。十五歳の坂本吉雄は、母と幼いきょうだいたちの暮らしを支えるため、青森から集団就職列車に乗って東京へ向かった。大田区の小さな町工場で待っていたのは、厳しい親方と油まみれの仕事、六畳一間の共同生活。それでも先輩やおかみさんに励まされ、少しずつ仕事を覚えていく。やがて初めての給料を受け取った吉雄は、その大半を故郷の母へ送った。ところがその夜、青森から一通の電報が届く。東京オリンピックに沸く昭和の街で、十五歳の少年を待ち受けていた思いがけない知らせとは。時代|歴史|昭和2.2万字5 91 -
完結第12話
150万円を払わせたママ友、次は寿司300万円
夫の昇進祝いで家族とレストランを訪れたひまり。楽しい食事の最後に告げられた会計は、なんと150万円。原因は、顔見知り程度のママ友・ぽて子一家が大量の料理を注文し、勝手にひまりへ支払いを押しつけたことだった。仕方なく立て替えたものの、返金を求めると渡されたのは、まさかのポテトチップスの空袋。しかも数日後、ぽて子は高級寿司店で新たな計画を立て始める。「ママ友なんだから払って当然」と言い張る一家に、ひまりが取った行動とは?因果応報|夫婦|真相|親子関係|金銭問題|修羅場1.2万字5 1010 -
完結第12話
雪道を走る父の約束
昭和46年12月。東京の運送会社で働く健造は、青森まで荷物を届ける長距離便に出発する。小学二年生の息子・誠に「明後日の晩には帰る」と約束し、手作りのお守りを胸ポケットに入れて、国道4号を北へ向かった。高速道路がなく、休む間も惜しんで走る運転手が多かった時代。雪の峠道、重いハンドル、厳しい納期に追われる健造は、深夜、激しい眠気に襲われる。早く荷物を届けたい。でも、家では息子が待っている。時代|歴史|昭和|親子関係1.1万字5 90