"昭和54年、消えた母の集金袋" 第4話
反対に、話をしようとした形跡がなくても全だったとは言えない。直子はの刻をにき、通話の無と目撃談を別々に並べた。
久代の古い旅館では、終に乗り遅れたを泊めることもあった。駅の主たちが澄の名を聞いて宿帳を確かめた記録があり、当夜からには該当者がいない。しかし久代は「泊まらなかったとしか言えません」とを押した。の捜索に協力したはいのに、誰もがらない部分まで町の噂が埋めていた。直子は宿帳の確認結果を受け取り、憶測を消した。
警察へ再び訪ねると、当の聞き取りで「終に乗ったらしい」とだけ記された欄に、久代の訂正が加えられた。担当の刑事は図へ駅から精肉までの経を引き、がり始めた刻を気象台の記録で確かめた。ホームで文代を見送った澄が、傘を持たず歩いていれば、を過ぎて套が濡れる。乾物の主が見た女性とのはう。顔を見ていないという欠落も、同じ線のに残した。
受領を見た修司は、すぐに商会へ持ち込もうと言った。直子はまず原本を複写して印の形を調べ、当の積を数えたを確かめたかった。母が渡したことは証できても、そのあとのがどこへったかは別だ。
広告
には受領を否認する理由がある。同に、母が駅へ向かった理由をっている能性もある。直子は会話を録音するための型を買い、を帳に記した。母が疑われた経緯のように、曖昧な「そう聞いた」が次の事実になるのを避けたかった。
終で澄を見たという証言は、商会の古い広報にだけ載っていた。証言者は旅館の女将、坂久代。しかし当の旅館はすでに閉じ、駅の跡には体駐ができている。図館の古い話帳をき、旅館の親族を探すと、久代は姪と梨県にんでいた。直子が事を話すと、久代は話で「私もあの証言を訂正したい」と言った。
久代が見たのは、紺の套を着た女性の背だった。駅のホームで澄らしいと若い女性が並び、発際にどちらかが乗った。久代は買い物を終えたあとで鏡をかけていなかった。翌、警察に聞かれたときは「澄さんに似ていた」と答えたという。商会の広報では、いつのにか《澄が宿きに乗った》になっていた。
「よく覚えているのは靴です。澄さんはその週、うちで紺の靴を忘れて帰って、翌朝取りに来た。駅の女性は同じの靴だった。でも、同じ靴かは分からない」
久代は、もうの若い女性についても話した。い髪でいトートバッグを持っていたが、正面の顔は見えない。
広告
澄がのではなく駅へ向かったとして、会う相がいた能性が浮かぶ。久代は「女が男のところへ逃げた、と町で言われたとき、私の曖昧な話が使われた」と唇を噛んだ。直子は久代の言葉を字ずつき取り、本に読み返してもらった。
帰りの列で、直子はの母の套をいした。の押し入れには似た紺が残っていたが、母が当着たものとは確かめられない。修司へ話すると、彼は父のアルバムから枚の写真を見つけたと言う。の商の祭りで、澄と夫妻が並んでいる。母の靴は黒い。久代の見た紺の靴とは違うが、祭りから失踪まで週ある。靴のだけで駅のを母ではないと決めるのもい。
のを訪ねると、昼の客が引いたあとだった。直子は受領の複写を枚だけ見せた。「このに母からおを受け取りましたか」。は欠けた印を見て、子を引いた。「妻が作ったんだ。あいつはあのころ、何でも澄さんの言うとおりにした」。直子は答えを録音し、伝票の印と比較する予定だと告げた。はさな声で「おの父親がっていたなら、黙った理由を聞け」と言った。
「父はもうくなりました。あなたに聞いています」
直子は席をった。帰り際、恵がレジのから線をげた。
夫婦のでたな争いが始まる。直子は恵を頼ったことが彼女を危険にさらさないか配になり、翌朝の連絡先として仕ての固定話を教えた。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
配給米を隠す母の秘密
昭和22年。父が戦地で消息を絶った佐藤家では、16歳の正一が働いて家計を支えていた。そんな中、母の静江が配給の米を毎月一升ずつ隠していることに気づく。弟の茶碗にだけ白米が多いのを見て、正一は「自分だってまだ子どもなのに」と傷ついた。 ある夜、米を持って出かける母を追うと、駅裏の仮設住宅にいたのは、帰らないと思っていた父・清一だった。復員後に病気と足の障害を抱えた父は、家族の食べる分が減ることを恐れ、家へ戻れずにいた。 正一は父を迎え、家族はそれぞれにできる仕事を探しながら暮らしを立て直していく。母が米袋に書き続けた「一升」の記録には、苦しい時代にも父を家族のままにしておこうとした思いが残っていた。時代|歴史|昭和2.2万字5 42 -
完結第18話
消えた写真屋の父が残した一本のビデオ
昭和62年の運動会の日、写真館を営む信吾が姿を消した。店から商店街の預かり金200万円もなくなり、家族を捨てて逃げたと疑われる。8年後、娘の由美は運動会のビデオの続きに、失踪したはずの父が午後4時過ぎ、道路計画をめぐって時計店主と口論する姿を見つけた。 由美が調べると、道路の調査資料は書き換えられ、父はそれを示す写真を守ろうとしていたことが分かる。一方で信吾は生きており、家族に連絡できる時期になっても帰らなかった。母の千鶴も、子どもを守るつもりで映像と自分が受け取った金のことを隠していた。 真相が明らかになっても、失われた8年は戻らない。由美と千鶴は新しい写真の店を開き、信吾とは時間をかけて会い直す。由美は今の家族をそれぞれの居場所で撮り、自分の写った一枚も店の棚に置いた。昭和|ミステリー|真相2.7万字5 11 -
完結第11話
昭和三十九年、父の止めた記事が暴いた新聞記者親子の真実
オリンピック開幕を控えた昭和39年。新人記者の達也は、少女工員たちの過酷な労働を告発する記事を書いた。だが、記者である父・誠一は「この記事は落とせ」と命じる。達也には、父が弱い人々を見捨てたように思えた。 父には、かつて事実だけを報じ、その背後にあった家族の事情を知る前に一家の暮らしを壊してしまった悔いがあった。達也も取材を重ね、工場が倒れれば故郷へ仕送りする工員たちが職を失うこと、社長も元請けの厳しい条件に追い詰められていることを知る。 それでも少女たちの苦しみは消えない。達也は父とともに、工場だけを責める原稿を書き改める。少女たちの声と工場の実情、元請けの責任を伝えるため、締め切りまでの四時間、再びペンを走らせた。時代|歴史|昭和1.7万字5 44 -
完結第14話
「お前には継がせない」と言った父が、最後まで守り続けたもの
昭和31年、佐々木商店を継ぐため東京での就職を断った長男・一郎に、父の源三は「店は健二に渡す」と告げた。理由を聞けないまま一郎は家を出て、父と距離を置く。 数年後、客足の減った店に戻った一郎は、父が商店街の先行きを案じ、自分を家業に縛らないために送り出したと知る。しかし、父の判断を理解しても、弟だけに店の重荷を負わせたことは見過ごせなかった。 一郎は東京で学んだ工夫を持ち込み、昔からの客に向けた電話注文と配達を始める。店のやり方をめぐって父とぶつかりながらも、源三が築いた信頼を次の時代へつなごうとする。時代|歴史|昭和2.1万字5 69 -
完結第13話
毎月7000円を隠していた夫の20年の秘密
昭和48年、給料が銀行振込に変わった日、文子は夫・昭雄の給料が、毎月受け取っていた額より7000円多いことに気づく。家計簿を遡ると、その差は十年以上も続いていた。 やがて夫の上着から見つかったのは、静岡に住む「山本和子」への振込控え。昭雄は、その女性へ約20年間送金していたことを認めるが、理由を話そうとしない。 夫婦で築いてきた暮らしの裏に、何があったのか。文子は昭雄の言葉を待つのをやめ、和子に直接会いに行くことを決める。時代|歴史|昭和|金銭問題1.9万字5 68