"死刑執行直前、1匹の犬が見つけた「8年前の嘘」" 第1話
名を呼ばれた朝
「相沢直。本、刑を執します」
告げられた瞬、直は膝のに置いていたを握った。廊から入ってくる空気がたい。目のの職員は、聞き違いだったと言ってはくれなかった。
37歳だった。逮捕されたのは29歳のときだ。
「弁護士が、しい証拠を調べています」
ようやくた声は、自分でも驚くほどさかった。
職員は黙って直を見ていた。その沈黙を、直は毎のように像してきた。けれど実際に向けられると、次に何を言えばいいのか分からなくなった。
を殺していない。もつけていない。
繰り返してきた言葉が、喉の奥に引っかかったままかなかった。
直は机のの便箋を見た。昨夜、森結に返事をきかけていた。その脇には、結から届いた犬の写真があった。
茶のとい胸。赤いリードをで踏み、カメラの向こうを見げている。
ハルのの周りには、いつのにかい毛が増えていた。
「これを、預かってもらえますか」
便箋を指すと、職員がうなずいた。直は子に戻り、途だった文章のにペンを置いた。
ハルはもう10歳です。
そこまでいてが止まった。っているに決まっている。8、事を用し、病院へ連れていき、朝晩の散歩をしてくれたのは結なのだから。
直はその1を消さず、続きをいた。
広告
玄関で待っていたら、先に散歩へ連れていってください。
の端を押さえたが震えていた。もう度会いたい、とけば、結はまた叶えられなかった約束を背負うことになる。
写真ののハルは、をしけていた。名を呼べば、今にもこちらへ歩いてきそうだった。
その2の朝、ハルは結の元で同じ顔をしていた。
摩区の訓練広には、夜のがまだ残っていた。結がハーネスの留め具を確かめているあいだ、ハルはい植え込みのほうへを向けている。
「急がなくていいよ。元、滑るからね」
図をすと、ハルはらずに歩きだした。植え込みを回り込み、資材置きの板塀のでち止まる。をげて度息を吸うと、そので吠えた。
板塀のから、練習相の女性が顔をした。
「見つかった。今はかったね」
結はハルの胸を撫で、褒美を与えた。若い犬たちがいコースに向かう、ハルの練習はここで終わりにした。見つける力は衰えていなくても、疲れから回復するまでにはがかかる。
「直さんが見たら、ぶでしょうね」
女性が言った。
結は「写真、送ります」と答えて、スマートフォンを取りした。
ハルに最初の捜索遊びを教えたのは直だった。休になると、結が公園ののに隠れ、直がハルと緒に探しにきた。
広告
見つけるたびに直がげさにぶので、ハルはその遊びが好きになった。
やがて2で民の訓練会に通うようになった。直がいなくなってからも、結はできる範囲で続けていた。
画面を構えると、ハルは結の側を見た。
「今は私だけだよ」
結が声をかけると、ようやくこちらを向いた。
撮った写真を確かめていたとき、浦真紀から話が入った。
「森さん。今、事務所に来られますか」
再審を担当している弁護士だった。いつもなら結の仕事が終わるを先に尋ねるが、そのは続けて言った。
「須藤修司という名を覚えていますね」
結の指が画面の端で止まった。
忘れられるはずがなかった。
8、ホテルの管理棟で総支配の橘健と経理責任者の野寺清が殺され、建物にがつけられた。設備の保守をしていた直は、現から逃げてきた犯として逮捕された。
直は、呼びされてったらがていたのだと訴えた。助けようとしてへ入ったことも説した。
警備責任者だった須藤は、法廷で違う話をした。
血のついたで部からてくる直を見た。直がちったあと、内で倒れている2を確認した。
須藤は結のほうを度も見ず、落ち着いた声でそう証言した。
「そのが、どうしたんですか」
「会って話したいと連絡がありました。事件のことで」
午の訓練は同僚に代わってもらった。結はハルを連れたままに乗り、浦の事務所へ向かった。
さな相談で、浦はノートパソコンをいて待っていた。机には、何度も読み返した証言調とホテルの見取り図が並んでいる。
「謝りたいという話ですか」
結は座るに聞いた。
「それだけなら、直に直接言ってほしいです。今さら私に泣かれても」
「私もそう伝えるつもりでした。これを見るまでは」
浦が画面を結に向けた。届いたメールに、7秒の画が添付されていた。
見覚えのある廊だった。結は裁判のたびに、この角度の写真を見せられてきた。
「ただし、まだ本物だとは確認できていません。連絡をくれた物の素性も、資料の所も調べる必があります」
浦の説を聞きながら、結は画のの文章を読んだ。
『相沢さんが消したことになっている9分を、私は持っています』
結は子に座った。膝のへ入ってきたハルの背に、を置いたままかせなかった。
『今度は、法廷で本当のことを話します。私が消されるに会ってください』
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
腎臓をあげた私に離婚届――夫の隣には若い女
三歳の娘を育てる裕子は、重い腎臓病になった夫・英司を救うため、自分の腎臓を一つ提供した。ところが手術後、体調を崩した裕子を待っていたのは、夫からの暴言と冷たい仕打ちだった。やがて英司は、若い女との新生活を理由に離婚届を突きつけ、娘まで奪おうとする。そんな裕子の味方になったのは、意外にも義母だった。命を救ってくれた妻を平然と捨てようとする夫。すべてを失いかけた裕子は、娘と自分の人生を守るため、反撃を決意する。夫婦|真実|裏の顔|真相|第二の人生1.4万字5 1098 -
完結第15話
「柿の木だけは切るな」――庭から出た四人の遺骨
2024年、東京・品川の古い屋敷で、樹齢70年の柿の木が引き抜かれた。その根元から見つかったのは、大人一人と子ども三人の遺骨。20年前、この屋敷では住み込みの家政婦と三人の娘が姿を消し、家主である元校長は「金を盗んで夜逃げした」と説明していた。なぜ彼は、柿の木だけは絶対に切るなと家族に言い残していたのか。捜査を進める刑事・渡辺は、町の人々から尊敬されてきた元校長の過去と、20年間隠されてきた母娘の失踪の真相を追い始める。ミステリー|真実|真相1.7万字5 139 -
完結第12話
昭和35年、上野駅に現れた二人の「ハルコ」
昭和35年春。集団就職列車を迎えに上野駅へ来た食堂の主人は、「山本春子」と呼ばれた少女が二人同時に手を挙げたことに戸惑う。一人は店で働くために上京した春子。もう一人の晴子は、三年前に東京へ出た姉を捜していた。姉は故郷へ帰ったことになっているのに、家族は誰も会っていない。不審に思った主人が古い雇用通知書を調べると、晴子の帰郷を証明する書類に、自分の署名が残されていた。誰が少女たちの名前を使い、何を隠していたのか。集団就職の時代を背景に、書類一枚に翻弄された若者たちの人生を描く物語。時代|歴史|昭和|真相2.3万字5 3 -
完結第15話
「このおばあちゃん、危ない」六歳の孫が見たもの
六十八歳の静子は、夫を亡くしてから一人暮らしをしている。近所の蛇田さんは、毎日のようにお菓子を配って歩く親切なおばあさん。ところが、六歳の孫・小春だけは、なぜか彼女を避けていた。 ある日、三人でスーパーへ出かけると、小春が突然、静子の手を引いて言った。 「ばあば、このおばあちゃん、あぶない」 その直後、店員に呼び止められた蛇田さん。小春はいったい何に気づいたのか。お菓子に隠された秘密と、一人暮らしの老人たちが抱える寂しさを描く物語。人生逆転|祖父母と孫|真実|真相1.6万字5 204 -
完結第12話
150万円を払わせたママ友、次は寿司300万円
夫の昇進祝いで家族とレストランを訪れたひまり。楽しい食事の最後に告げられた会計は、なんと150万円。原因は、顔見知り程度のママ友・ぽて子一家が大量の料理を注文し、勝手にひまりへ支払いを押しつけたことだった。仕方なく立て替えたものの、返金を求めると渡されたのは、まさかのポテトチップスの空袋。しかも数日後、ぽて子は高級寿司店で新たな計画を立て始める。「ママ友なんだから払って当然」と言い張る一家に、ひまりが取った行動とは?因果応報|夫婦|真相|親子関係|金銭問題|修羅場1.2万字5 1033 -
完結第12話
新幹線で母娘の席を奪った女、現れた女性を見て絶句
五歳の娘パニミと夏休みの帰省を楽しみにしていた、弁当店を営むシングルマザーのパニコ。新幹線の自由席でようやく親子並んで座れたものの、見知らぬ女性に突然コーヒーをこぼされてしまう。服を拭くため席を外したわずかな間に、その女性は荷物を床へ放り出し、二人の席を奪っていた。娘を守るため、悔しさをこらえてデッキへ向かったパニコ。そこで偶然、日頃から世話になっている立花会長と再会する。事情を聞いた会長が一緒に席へ戻ると、先ほどまで威張っていた女性の顔色が一変して……。怒り|真相|親子関係|修羅場1.2万字5 1135 -
完結第10話
消えた卵の秘密
茜の家では、父の再婚相手・美津江が届けてくれる卵が、なぜか毎回なくなっていた。夜中につまみ食いをする夫の陽斗を疑っていた茜だったが、ある日、卵をこっそり持ち出す小学一年生の娘・凛を目撃する。「急に卵が嫌いになった」と泣く娘。しかし、いつもは素直な凛の様子はどこかおかしかった。そんな中、美津江から再び大量の卵が届く。茜は娘のために手作りプリンを用意するが、それを食べた美津江は、材料を聞いた途端に顔色を変えてしまう。娘が必死に隠していた秘密とは、いったい何だったのか。祖父母と孫|真実|真相|第二の人生1.4万字5 783 -
完結第12話
竹林の向こうの白衣
八歳のティアラは、重い喘息を理由に山奥の療養施設へ預けられた。だが本当の理由は、両親が天才と呼ばれる兄の教育に専念するためだった。家族に忘れられた少女を支えたのは、施設の人々と小児科医の竹之内先生。やがて彼女は自分の名前を変え、医師になる道を選ぶ。努力の末に脳神経外科医となった洋子は、ある冬の深夜、救急搬送された患者と向き合うことに。かつて自分を置き去りにした家族との思いがけない再会が、彼女の人生を大きく揺さぶり始める。兄弟姉妹|真相|絶縁|親子関係1.7万字5 588 -
完結第12話
五歳の母ちゃん
両親を事故で亡くしたシンジは、五歳の妹・楓を育てながら、昼も夜も働いていた。そんなある日、楓が「母ちゃんが来た」と言って連れてきたのは、同じ保育園に通う五歳の少女・リサだった。ところが彼女は、家族しか知らない昔の出来事を次々に話し、シンジを息子のように気遣う。信じられない再会に戸惑いながらも、兄妹は少しずつ彼女に心を開いていく。しかし、リサ自身の記憶が薄れていくという異変が起こり始める。もう一度母に会いたかった兄妹が、大切なものを守るために選ぶ道とは。兄弟姉妹|真実|真相|第二の人生1.2万字5 269 -
完結第10話
出産3日目、1億円の入金直後に夫が離婚届
娘を出産してわずか三日。病室で体を休めていた立花玲奈の口座に、父から譲り受けた株式の特別配当金、一億円が振り込まれた。その直後、見舞いに来た夫・直樹が突然離婚届を差し出す。しかも、財産分与として五千万円を要求し、自分の会社への融資継続まで求めてきた。夫の本性を知った玲奈は、追加融資と家族カードを止め、離婚に向けた準備を始める。ところが、カードの利用明細を調べると、身に覚えのない高級ホテルや宝飾店への支払いが次々と見つかり……。夫婦|真相|親子関係1.8万字5 524