"死刑執行直前、1匹の犬が見つけた「8年前の嘘」" 第4話
届いた証拠、届かない返事
病院の廊で、結は首についたに気づいた。ハルのを拭いたときについたものだった。洗面台で洗い流しても、爪の際に黒い筋が残った。
須藤は命に別状はなかったが、の骨を折っていた。その夜の詳しい聴取は見送られ、警察官が病のくに残ることになった。
結は浦からそう聞くと、のへ戻った。訓練仲に頼み、ハルを見ていてもらっていた。
部座席のドアをけると、ハルが顔をげた。もみ、しべたという。結が隣に腰をろすと、膝へ顎を置いた。
「よく見つけたね」
のろを撫でながら、結は救急ので聞いた言葉をい返した。
嘘だった。
その言で、直の8が戻るわけではなかった。けれど、あの言葉をもう度、きちんと記録に残せれば、直のを変えられるかもしれなかった。
翌朝、須藤を担当する別の弁護士も病院へ来た。医師の許した内で、浦は証言を変える理由と、画の所を確かめた。結は廊で待った。
てきた浦は、ノートを閉じたまま話した。
「記録は自宅にあるそうです。娘さんが保管所をっています。取りすことについて、本の同も取りました」
「どうして、今までさなかったんですか」
浦はすぐには答えなかった。
「自分を守るために、持っていたそうです。
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会社からも受け取っていた。放せば、その両方を失うとったと」
結は病の閉じた扉を見た。
この向こうの男は、直が無実だとりながら事をし、仕事をし、へ帰っていた。そのあいだ、直は毎朝、今名を呼ばれるのではないかと待っていた。
「須藤さんが助かったことと、したことを許すかどうかは、別です」
浦が静かに言った。
「今は、直さんを助けるために使えるものを、確実に残しましょう」
結は扉から目を戻した。
昼過ぎ、須藤の娘のち会いで、自宅からさなハードディスクが回収された。類箱の底に入れ、折に触れて読みせるか確かめていたものだという。
回収の経緯を記録し、鑑定を依頼した技術者へ引き継ぐ。浦は原本を保全したうえで複製を作ってもらい、届いていた7秒の画と照するよう頼んだ。
結は娘から類箱を受け取る際、度だけ顔を見た。娘は「父が持っていたものです」と言ったきり、線をげなかった。
責める言葉は、須藤本に向けるべきだった。結は箱の受け渡しを見届け、浦と事務所へ戻った。
午のうちに、須藤が証言の虚偽を認めたことと、たな記録の発見を示す資料がそろった。浦は別の弁護士と分担して再審請求をい、検察へ刑の執止も求めた。
同じ弁護団の1が直と接見し、しい証拠を調べていると伝えた。
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戻ってきた弁護士は、直の言葉をき留めたを浦に渡した。
『2143分に入ったことにされています。でも、そのときはまだ管理棟にいません。入退の覧表だけでなく、映像のの俺がいつ来るかを見てください』
結はそのを読んだ。何度も退けられてきた説を、直はまた最初から繰り返していた。
夕方、技術者から浦へ連絡が入った。
「該当する廊の記録はあります。提された映像のとも、つながります」
「9分は?」
「残っています。ただ、刻と内容の確認がまだ終わっていません。もうしをください」
話を切ったあと、浦は検察へ補の連絡を入れた。相からは、資料を受け取ったことと、記録の保管経緯や刻について確認したいことが伝えられた。
それを聞いた結は、子からを乗りした。
「これで、もう執されないんですよね」
浦は受話器を置き、結と向きった。
「まだ、そこまでは言えません。再審の請求だけでは、自に止まりません。止の判断を得る必があります」
結の線が、机のの計へいた。
いつ執されるかを、2はらなかった。だから、今の続きが終わったと区切って帰ることもできなかった。
「私にできることはありますか」
「原案の活記録を、こちらのファイルからしてください。
消防隊の到着と建物への入が分かるページです」
結はちがった。棚からいファイルをろし、付箋をたどった。何度読んでも直を追い詰めるだけだったが、今は映像を確かめる材料になっていた。
ハルは机ので眠っていた。結がをかすたびにだけをげ、誰も部をないと分かると、また顎をへ戻した。
夜になって、浦の携帯へ確認の話がなった。回収に誰がち会ったか。須藤の説はどこまで記録されているか。結が覚えている部分は、そのつど刻と緒にきした。
午0を過ぎ、浦がコンビニで買ったおにぎりを机に置いた。結は1つ受け取ったが、半分までしかべられなかった。
「帰って、し休んでもいいですよ」
「連絡が来るまで、ここにいます」
浦はそれ以勧めず、空になった湯みにお茶を注いだ。
窓のがるくなり始めたころ、技術者から報告が届いた。
当の消防の活記録と、連続した映像のに残る隊員のきが致していた。なくとも、2の被害者が歩いている面を、須藤の証言と矛盾しない刻へずらして説することはできなかった。
浦は報告を読んでから、技術者に話をかけた。
「つまり、須藤さんが『2とも倒れていた』と言った刻よりに、2は歩いている。
それは表示だけの問題ではないんですね」
相の説を聞き、必な箇所に線を引いた。結には技術な言葉のすべては分からなかったが、浦が同じ点を曖昧にせず確かめていることは分かった。
「分かりました。その確認内容も、面にしてください。すぐ提します」
浦は受け取った報告を、すでに提していた資料へ追加した。検察にも緊急の連絡を入れ、待ってほしいと言われるたび、命に関わる止請への回答を求めた。
結はハルの赤いリードを膝に置いていた。指で縫い目をなぞっていると、以、直がその持ちにを差し込んでいた姿が浮かんだ。
「帰ってきたら、これ、渡そうね」
眠っていたハルが顔をげた。結が何も持たずにいると分かっても、そのまま見つめていた。
拘置所では、直がき終えた便箋を折っていた。
最に自分の名をこうとして、ペン先が止まった。結へ届くとき、自分はもう返事を受け取れない。そのことが、ようやく具体な形で胸に落ちた。
直は名をいた。ハルの写真を便箋に挟まず、机に伏せて置いた。
ちがると、子がさく鳴った。
浦の事務所で、話の向こうの声が言った。
「追加資料は受領しています」
浦は受話器を持ち直した。
「受領の確認ではありません。執止の判断はていますか」
「確認します。そのままお待ちください」
保留音に変わった。結は顔をげたが、浦はまだ何も答えられなかった。
直は廊の突き当たりでを止めた。職員のが、目のの扉にかかった。
「こちらへ」
き始めた扉の隙を、直は見つめた。今度こそ違う言葉を聞きたくて、すぐにはがかなかった。
職員がもう度、直の名を呼んだ。
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