"消えた姉と18年後の手紙" 第4話
かつて蒸気関の煤煙との匂いが染みついていた古い造駅舎の面は、どこにも残っていなかった。
浩は駅通りにある古い通運会社の営業所や、昔から続いている駅堂を片っ端から訪ね歩いた。
「昭39の、チッキの荷物扱所におられた方を探しているんです」
何軒目かに訪れた古い運送の主が、記憶の糸を繰り寄せてくれた。当、国鉄の荷物扱いと駅配送をに引き受けていた「林運送」の元社、林徳治だった。今で76歳になる徳治は、浩が差しした佐子のの卒業写真を見つめ、く刻まれた目尻の皺を震わせた。
「ああ……いしたよ。この娘さん、あのの正さんのところの女だね」
「ごだったんですか!?」
「っているとも。忘れもしねえよ。あののは、オリンピックのの集団就職で駅はごった返していたが、この娘さんの荷物のことだけは、になって警察も何度も調べに来たからな」
徳治は縁側に腰をろし、めた茶をすすりながら、18の夜の記憶を語り始めた。
昭39410、午7過ぎ。
正がリヤカーで運んできたきな柳李は、確かに野きの荷物列に積み込まれるはずで、チッキの秤に載せられた。荷札を括り付け、預かり証の半券を受け取ったのは、正本だった。
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「正さんはな、娘にその半券を渡して、『野に着いたらこれを窓にせば、荷物がてくるからな』と言い聞かせていたよ。それから族で待へ入っていった。……だがな、浩さん。おかしなことがあったんだ」
徳治の差しが鋭くなった。
「改札が始まって、野きの夜普通列がホームに入ってきただ。正さんとお袋さんはデッキので娘を見送っていたが、列がきす直、その娘さんは……度、反対側のドアからホームへりていたんだよ」
浩の喉が鳴った。
「りた……?」
「そうだ。俺は荷物用のテルハ(テルファークレーン)のから見ていたんだが、娘さんは列がガタリときした瞬、ホームの暗がりにを潜めて、正さんたちがを振っている改札とは真逆の、貨物側線の方向へっていったんだ」
族が涙を流して見送っていた列のデッキには、佐子は乗っていなかったのだ。
彼女は族の目が改札をて駅通りへと消えるまでの約40分、たいのがる貨物置きのトタン根ので、を潜めて息を殺していた。
「そしてな、午842分発のり列——岡方面きの各駅がホームに入ってきた、あの娘さんは濡れたにスカーフを巻き直して、最尾の両にで乗り込んでいったよ。
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には、さな信玄袋をつ提げているだけだった」
佐子は、事故で消えたのではなかった。
誰かに拉致されたのでも、京でに迷ったのでもない。
最初から、野きの夜列に乗る気など毛なく、族ので完璧な「京する娘」を演じきり、荷物だけを京へらせたで、自らので反対方向のへとび込んでいたのだ。
「徳治さん、父はそのことを……っていたのでしょうか」
浩が絞りすように尋ねると、徳治はいため息をつき、静かに首を振った。
「そのの夜は、らなかったはずだ。……だがな、失踪からヶほど経った初の頃、正さんがでここへやってきたよ。顔は気で、幽霊みたいだった。俺に『あの夜、佐子がどっちの汽に乗ったか、おは見たか』と詰め寄ってきた。俺が正直に、岡きの汽に乗っていったのを見たと話したら、正さんはそのに崩れ落ちてな……『俺が殺したようなもんだ』って、声をさずに泣いていたよ」
父はっていたのだ。
娘が自らので、族を捨てて反対方向の列に乗ったことを。
そして、その事実を母にも浩にもひた隠しにし、でその暗黒の秘密を抱え込んだまま、18を過ごしていたのだ。
浩は礼を言い、夕暮れの越湯沢駅へと戻った。
信越本線のり普通列。
岡、そして潟。
姉はあの夜、なぜ反対方向の列に乗ったのか。
元に残されたさな信玄袋のにあった、戸籍謄本と印鑑。
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