"消えた姉と18年後の手紙" 第10話
すべてのみと呪いは、俺で墓へ持っていく。 佐子、おはのを捨てて、お自のを誇らしくきろ。 おに飯をわせてもらうはずだった、愚かな父より』
文字が、滲んで歪んでいた。
それは、頑迷で、父制の呪縛に囚われ、娘の尊厳を踏みにじった男が、涯でただ度だけ、自らの犯した罪のさに打ちのめされて絞りした、血を吐くような懺悔の告だった。
浩は便箋を握りしめ、机のに突っ伏して慟哭した。
肩を震わせ、子どものように声をげて泣き続けた。
自分の元にある信用庫の職員証も、の卒業証も、結婚してに入れた平穏な暮らしも、すべては姉がを挺して拒絶し、父が自らの魂を獄へ叩き落とすことで購った、あまりにもく、痛ましい代償のに成りっていたのだ。
佐子は何も言わず、泣き崩れる弟の丸まった背に、そっと温かい掌をねた。
18の歳を経て、のに横たわっていた見えない断絶が、父の遺した器用なの言葉によって、静かに、ゆっくりと解きほぐされていくようだった。
夕暮れ、元町の通りにはガス灯を模したのかりが灯り始め、港の方角からはたい夜が坂をいがってきた。
浩はハンカチで赤く腫らした目を拭い、ようやく顔をげた。
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アトリエの壁には、佐子がこれまでに掛けてきたのデッサンや、顧客である横浜の国マダムや財界の夫たちからの謝のが、所狭しと飾られていた。
「姉ちゃん……結婚は、しなかったのか」
浩の問いに、佐子は穏やかに微笑み、首を横に振った。
「度ね、代の初めに、求婚してくれたがいたわ。元町で輸入の商社を営んでいた誠実なだった。……でもね、私、どうしても籍を入れることができなかったの」
佐子は自分の細い薬指を見つめた。
「『誰かの妻』や『誰かのの嫁』という枠組みのに、自分のをもう度預けてしまうのが、怖くてたまらなかったのね。私は、このハサミ本、ミシン台で、自分の力だけでちがった。その自負だけが、あのので逃げした19歳の私を支え続けてくれた唯の骨組みだったから」
佐子は作業台に置かれた、な裁ちバサミをに取った。刃先が鋭く研ぎ澄まされ、の使用によって持ちの黒漆が美しく剥げ落ちていた。
「誰かをんできるのは、とてもエネルギーのいることよ。岡から逃げたばかりの頃はね、夜に目が覚めるたびに、お父さんのあの言葉が元で鳴り響いていた。『浩と分は無理だ、おは女だからしろ』……その悔しさとりだけを薪にして、私は徹夜で針をかし続けた」
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佐子はハサミを静かに布のに置いた。
「でもね、このを持って、自分の作ったを着てんでくれるたちの笑顔を見るうちに、しずつ分かってきたの。……私は、お父さんへの復讐のためにを縫っているんじゃない。私が私として、この世界に確かにきていることを証するために、を縫っているんだって」
「姉ちゃん……」
「お父さんからのを受け取った、私ので、最の氷が溶けたわ。お父さんもまた、あの代の、あの貧しいの掟ので、もがき苦しんでいたの器用なに過ぎなかったんだって。……許すとか許さないとか、そういうことじゃないのよ。私はただ、あの族の物語から、私のでへ歩みただけなの」
佐子は浩の顔をまっすぐに見つめた。
「浩。あなたが自分を責める必は、何つないのよ。あなたが真面目にへき、信用庫に勤め、庭を持って派にきてくれたこと……私はね、横浜の空ので、本当に誇らしくっていたのよ」
「俺は……俺は何もらずに……!」
「らなくてよかったの。それが、お父さんが命がけで守ろうとした、あなたへの最のだったんだから」
佐子の声音は、どこまでも澄み渡り、慈に満ちていた。
浩は再び零れそうになる涙を必に堪え、々とをげた。
「姉ちゃん……の朝、緒に潟へ帰ってくれないか。
母さんの墓に……線をあげてやってほしいんだ」
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