"消えた姉と18年後の手紙" 第11話
佐子は線を落とし、しばらくの、沈黙を守った。
作業台のの古い置計が、カチ、カチと静かにを刻み続ける。
やがて佐子は顔をげ、さく、しかし確かな力さで頷いた。
「……ええ。きましょう。お母さんに、分の『ただいま』を言いにいかなくちゃね」
翌朝、昭57126。
野発の信越本線特急「とき」の窓からは、国境のいトンネルを抜けた途端、面の世界が広がっていた。
初の越湯沢は、鉛のがく垂れ込め、牡丹が静かにり積もっていた。18、のたいので姉がびりたあのホームに、幹線の架が巨なを落としていた。
タクシーに揺られてあいの集落へと向かう、佐子は度も言葉を発しなかった。ただ、く煙るブナの原林と、除けの杉並を、窓ガラスに額を押し当てるようにして見つめ続けていた。
集落の入りにある共同墓は、すでにセンチいに覆われていた。
浩が箒でを払い、墓の文字をわにする。
『先祖代々之墓』。
その墓碑の側面には、にくなった母『タエ』の名と、先刻まれたばかりの父『正』の名が、たい崗岩のに並んで刻まれていた。
佐子はのに膝をついた。
持参したさな布袋から、自らので縫いげた真しい絹の袱紗を取りし、墓に供えた。
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線の煙が、の混じる気のへとまっすぐにちっていく。
佐子は両をわせ、額が墓に触れるほどくを垂れた。肩が刻みに震え、やがて、押し殺していた嗚咽が、いのにポタポタと落ちて丸い穴を穿っていった。
「お母さん……遅くなって、ごめんなさい。……お父さん、私、自分ので、ちゃんときてきたよ」
18の空を埋める言葉は、それだけで分だった。
母はもう、たい玄関の戸をけて待つことはない。
父ももう、仏壇の底の秘密に怯えて夜をかすことはない。
がしんしんとり積もり、佐子の黒いコートの肩をく染めていく。
浩は姉の隣に並んで膝をつき、静かにをわせた。
かつてこのの寒で、という名のい鎖に縛り付けられ、互いのを荷として背負わされていた族の魂が、今、りしきる純のので、ようやく静かな赦しと解を見していた。
墓参りを終え、集落のを駅へと歩きすと、のからの淡い陽がを突き抜けて差し込んできた。
かつて佐子が暮らしたの平は、すでにに渡り、しいトタン根に葺き替えられていたが、庭の片隅にあった柿の古だけは、昔と変わらぬ姿でを被ってっていた。
佐子はち止まり、そのを見げてさく微笑んだ。
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「浩。あの、昔は渋柿ばかりって、お父さんと緒に皮を剥いて吊るしたわね」
「ああ……紐を結ぶのがだって、俺、いつも父さんにられてたよ」
「ふふ、そうだったわね」
の笑い声が、澄んだの空気に吸い込まれていった。
そこには、もう過の怨嗟も、奪われた青への悔も残っていなかった。ただ、同じ血を分けた姉弟が、それぞれののみを背負いながら、対等なとして向きっているという、静かで温かい充だけがあった。
越湯沢駅の改札には、夕暮れのスキー客たちの賑やかな声が溢れていた。
もなく業する越幹線の記ポスターが壁面に貼られ、代は昭から、さらにしい次の代へと急速に歩みをめようとしていた。
野へ向かうり特急「とき」の改札が始まった。
ホームへ向かう階段ので、佐子はを止め、浩に向き直った。
には、きと同じさな布袋がつ。
「浩。ここまで送ってくれて、ありがとう」
「姉ちゃん……本当に、これでよかったのか。潟に、たまには帰ってきてくれるか」
佐子は柔らかな笑みを浮かべ、首を横に振った。
「私の帰る所は、横浜よ。あのアトリエで、私の針の音を待ってくれているお客さんたちがいるわ。……でもね、浩。もう、逃げ隠れはしない。お互いに、元気で暮らしていることを、でらせいましょう」
佐子はコートのポケットから、枚の名刺を取りして浩のの平に載せた。
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