"廃線駅に殘された最後の切符" 第4話
なダイヤルを回し、鍵を差し込んでレバーをろす。
ギギギ……と錆びた蝶番が軋み、庫のい扉がいた。
には、運記録の原本、歴代の通達、そして駅の公印が然と収められていた。 修が番の段の類を引き抜こうとした、その奥の暗がりに、黒い漆塗りの箱が隠されているのを見つけた。
箱の蓋には、いペンキでさく番号が振られていた。 【昭―昭】
修は息を殺し、箱の留めをした。 蓋をけた瞬、修の喉からさな息が漏れた。
に入っていたのは――券の束だった。 輪ゴムで束ずつ、丁寧にごとにまとめられた、まったく同じ区の切符。
修は番の束をに取り、刻印を確認した。 【昭 沢から京都区内ゆき】 裏面を見る。そこには、源吉の細い万の文字で、こう記されていた。 『今も待つ』
次の束。 【昭 沢から京都区内ゆき】 裏面――『今も待つ』。
昭、、……。 毎、。 あのと同じ付で、枚ずつ正規に発券され、自腹で売が補填されていた券が、分、枚、狂気のような几帳面さで並んでいたのだ。
そして、番底にあった昭――昨の切符の裏には、こうき添えられていた。
『沢線、来廃止と決まる。
広告
おが帰る線が、もうすぐなくなる』
修の目から、いものがこぼれ落ちそうになった。 。 町の々が忘れり、母親がくなり、誰としてにしなくなった「消えた」のために、この老駅は毎、自分の料から銭を切って京きの切符を買い続け、庫の底で待ち続けていたのだ。
だが、なぜ「京き」なのか。 帰ってくるのを待つのであれば、「京から沢ゆき」でなければ辻褄がわない。 なぜ源吉は、沢から京へ向かう片切符を、も残し続けたのか?
「田君、お待たせした」
背で声がした。 振り返ると、仙台鉄管理局の腕章を巻いた名の査定官が、ややかな線でっていた。
「本駅が倒れられたと聞いた。引き渡し続きは君が代したまえ。すべての券、帳簿、印鑑をこちらへ提するように」
修は無言でちがった。 そして、査定官の目が届かない背の角で、箱のから枚の切符を素く抜き取り、自分の制の内ポケットへと滑り込ませた。
「……はい。引き渡し目録はこちらです」
修の胸の内で、何かが決定に音をてて弾けんでいた。 この切符を、国鉄の廃棄類として焼却炉で燃やさせるわけにはいかない。 病の駅が命を削って守り続けたの沈黙の答えを、自分が暴きさなければならない。
広告
町のれにある県病院の粒子病棟。 夕暮れのが差し込む病で、源吉は酸素吸入器をつけられ、々しい図の音を響かせていた。
修が病に入ると、源吉の瞼がかすかに震え、ゆっくりといた。 その目は、修の胸ポケットのわずかな膨らみを、正確に捉えていた。
「……持って、きたな」
「ええ。持ってきましたよ、駅」 修はパイプ子を引き寄せ、ポケットから枚の券を取りして、シーツのに扇状に広げた。
「査定官には渡しませんでした。紛失扱いで私の始末枚で処理しました。……駅、もう隠さないでください。あなたは何を待っていたんですか。田健君のに、あの、体何が起きたんですか!」
源吉は井を見つめた。 乾いた唇が、微かにわなないた。 い、痛切な沈黙の、老駅は閉ざし続けてきたのを、静かにけた。
「……健はな。あの朝、確かに駅に来たんだ」
源吉の声は、い昔のの音のようにかすれていた。
「父親をくして、学をたばかりの細い体でな。母親のサダさんが夜なべして縫った、ツギハギだらけの国民を着て、ボストンバッグをつ抱えて改札へ入ってきた。……俺はあの子のを撫でて、改札鋏を入れてやった。『京へっても体を壊すなよ、おは母ちゃんの誇りだ』ってな」
「じゃあ……健君は、列に乗ったんじゃないですか」
「乗ったよ。番線にまっていた、午分発のり準急だ」
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
「柿の木だけは切るな」――庭から出た四人の遺骨
2024年、東京・品川の古い屋敷で、樹齢70年の柿の木が引き抜かれた。その根元から見つかったのは、大人一人と子ども三人の遺骨。20年前、この屋敷では住み込みの家政婦と三人の娘が姿を消し、家主である元校長は「金を盗んで夜逃げした」と説明していた。なぜ彼は、柿の木だけは絶対に切るなと家族に言い残していたのか。捜査を進める刑事・渡辺は、町の人々から尊敬されてきた元校長の過去と、20年間隠されてきた母娘の失踪の真相を追い始める。ミステリー|真実|真相1.7万字5 199 -
完結第12話
昭和35年、上野駅に現れた二人の「ハルコ」
昭和35年春。集団就職列車を迎えに上野駅へ来た食堂の主人は、「山本春子」と呼ばれた少女が二人同時に手を挙げたことに戸惑う。一人は店で働くために上京した春子。もう一人の晴子は、三年前に東京へ出た姉を捜していた。姉は故郷へ帰ったことになっているのに、家族は誰も会っていない。不審に思った主人が古い雇用通知書を調べると、晴子の帰郷を証明する書類に、自分の署名が残されていた。誰が少女たちの名前を使い、何を隠していたのか。集団就職の時代を背景に、書類一枚に翻弄された若者たちの人生を描く物語。時代|歴史|昭和|真相2.3万字5 73 -
完結第12話
卒業写真の空いた席
昭和40年、秋田県の山あいにある中学校。成績優秀な佐伯澄江は、家計を支えるため、高校進学を諦めて東京の縫製工場へ就職することになった。ところが卒業写真を撮る日、澄江は突然学校へ来なくなる。担任の女性教師が見つけたのは、少女が残した一枚の紙だった。そこには、紹介状に書かれた就職先と、母親が指定した送金先の住所が違うと記されていた。さらに、東京で結婚したはずの姉にも不可解な事情があるらしい。卒業証書を手に上京した教師は、少女たちの知られざる働き方と、家族の間に隠された事情を知っていく。時代|歴史|昭和2.3万字5 520 -
完結第12話
最後の伝書鳩
昭和19年、南方の山地。撤退を命じられた部隊は、谷に残された九人の兵士と連絡が取れなくなっていた。 通信兵の関谷清一伍長は、彼らが「未帰還」の一言で片づけられることに納得できない。しかし、無線は故障し、残された伝書鳩は最後の一羽だけ。報告書が敵の手に渡れば、百人以上の仲間まで危険にさらされる。 命令を守るか、九人の居場所を知らせるか。関谷は報告書の裏に、九人の名前と谷の場所を書き込んだ。 戦場で一枚の報告書と一羽の鳩に、九人の命を託した通信兵の物語。時代|歴史|昭和|真実2.3万字5 124 -
完結第15話
母ちゃんへの三千円
昭和39年春。十五歳の坂本吉雄は、母と幼いきょうだいたちの暮らしを支えるため、青森から集団就職列車に乗って東京へ向かった。大田区の小さな町工場で待っていたのは、厳しい親方と油まみれの仕事、六畳一間の共同生活。それでも先輩やおかみさんに励まされ、少しずつ仕事を覚えていく。やがて初めての給料を受け取った吉雄は、その大半を故郷の母へ送った。ところがその夜、青森から一通の電報が届く。東京オリンピックに沸く昭和の街で、十五歳の少年を待ち受けていた思いがけない知らせとは。時代|歴史|昭和2.2万字5 100 -
完結第12話
雪道を走る父の約束
昭和46年12月。東京の運送会社で働く健造は、青森まで荷物を届ける長距離便に出発する。小学二年生の息子・誠に「明後日の晩には帰る」と約束し、手作りのお守りを胸ポケットに入れて、国道4号を北へ向かった。高速道路がなく、休む間も惜しんで走る運転手が多かった時代。雪の峠道、重いハンドル、厳しい納期に追われる健造は、深夜、激しい眠気に襲われる。早く荷物を届けたい。でも、家では息子が待っている。時代|歴史|昭和|親子関係1.1万字5 91