"廃線駅に殘された最後の切符" 第7話
「沢の軌? ああ……それなら、神田にある『鉄業』の現監督を当たってみな。あそこは昔からの稼ぎ連を束ねて、夜の幹線敷設や線の軌改良を請け負ってる荒くれ部隊だ」
神田川沿いの雑居ビルにある鉄業の事務所へ向かった修を迎えたのは、作業を着て図面を睨んでいた、代の事部・佐々だった。
修が「昭に沢からてきた、田健という男を探している」と告げると、佐々はくわえ煙を止め、じろりと修を見据えた。
「田健……? おいあんちゃん、そいつの本名は何て言ったんだ」
「えっ……本名ですか? 田健が本名ですが」
「うちの現にいたのはな、ヤマさんって呼ばれてた男だ。、夕張の炭鉱から流れてきて、保線の現に入った。線の歪みを直す技術じゃあ、京探してもあいつのにる奴はいなかったよ。ミリ単位のレールのズレを、目とのひらの覚だけでピタリと言い当てやがるんだ」
佐々は引きしから、古い作業員名簿を引っ張りした。
「だがな、あいつは最初は『佐藤信吉』って名乗って現に入ってきたんだよ」
修の臓がねがった。 「佐藤信吉……!?」
「そうだ。飯の親父に聞いたらな、戸籍謄本を持ってきた、名の欄を何度も指で擦りながら泣いてたそうだ。
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『俺は本当は、この名じゃないんです』ってな。……数経って、京オリンピックの突貫事が始まった頃、正式に戸籍の訂正続きを取って、『田健』に戻したよ。親父の借も効を迎えて、もう偽名を名乗る必がなくなったからな」
本物の健が、京で、親友の捨てたはずの「佐藤信吉」の名をに名乗り、やがて自分の本名を取り戻していた。 のの数奇な運命が、京の脈で再び交差していたのだ。
「その田さんは……今、どこにいるんですか!?」
佐々は煙の煙を井へ吐きし、窓のをる央線の架を見つめた。
「……あいつはもう、現のじゃねえよ。数、その卓越した軌技術を買われて、国鉄の特殊技術嘱託として引き抜かれた。……今、あいつがどこで何をしているかったら、あんちゃん、腰を抜かすかもしれんぞ」
佐々から教えられた所は、京都国分寺にある『国鉄鉄技術研究所』の実験線敷だった。 幹線の発や、全国の線の代化を支える本の鉄技術の総本。
造の沢駅とはとほども違う、代な鉄筋コンクリートの研究所の敷内には、実験用のレールが幾にも敷き詰められ、防音壁や自計測器が並んでいた。
「田主任技師ですか? 今、第実験線でレールの破断テストをっていますよ」
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を着た研究員に案内され、修は敷の奥へと歩いた。 砂利のに敷かれた本のレールので、青い作業を着て、屈み込んで測定器を当てているの男の姿があった。
齢は、歳。 に焼けた浅黒い肌。太い腕には、炭鉱代に負ったとわれる黒い炭の刺青のような傷跡が幾筋も残っていた。 しかし、その指先がレールに触れる仕は、まるで壊れやすいガラス細を扱うかのように、極めて繊細で優しげだった。
「……田健さん、ですね」
修が背から声をかけると、男の肩が微かに揺れた。 ちがり、振り返った男の顔を見た瞬、修は息を呑んだ。 その目元と頑丈な顎のラインは、沢駅の待に飾られていた、あの昭代の集写真のの面を、濃く残していた。
「……どなたですか。国鉄の方のようですが」 健の声は、く、落ち着いていた。
修は無言のまま、制の内ポケットから、あの枚の券を取りした。 そして、番にある、昭の付が入った切符を、両で差しした。
【沢から 京都区内ゆき】
健の線が、そのさなに落ちた。 秒、秒……。 健の呼吸が、音をてて止まった。
その指先が、目に見えて激しく震え始めた。 恐る恐る伸ばされた、油とタコで固くなった指が、券の表面を撫でる。
「これ……沢の……」
「駅から預かってきました」 修は喉の奥を詰まらせながら言った。
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