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"廃線駅に殘された最後の切符" 第10話

は研究所をし、央線の駅へとった。 目指すは、奥――昨本の鉄線図からその名を永に消しられた、あの「沢駅」。

に途切れたレールを、己ので繋ぎ直すための、最の旅が始まろうとしていた。

しかし――そのはまだらなかった。 沢の町で、命の灯が消えかけていた源吉が、病院のベッドを抜けし、点滴の針を引き抜いて、あのたい無のプラットホームへと向かっていたことを。

老駅は、最の力を振り絞り、ある「仕掛け」をホームに残そうとしていたのだ。

野発、青森きの夜号」。 が吐き炭の煤煙が、窓の隙から内へと忍び込み、暗い灯の笠をかすかに揺らしていた。ボックスシートの向かいわせの席で、田田健は、黒く塗り潰された夜の窓を見つめていた。

内の乗客の半は、座席にを沈めて浅い眠りに落ちていた。折響く連結器の軋み音と、規則正しいジョイント音だけが、の沈黙を埋めていた。

が、胸ポケットから煙を取りし、マッチを擦った。さな炎が、彼のく刻まれた眉を浮かびがらせる。

「……信吉のやつな」 煙の向こうで、健がぽつりと言った。

京で会ったんですか?」 修が尋ねると、健は静かに首を縦に振った。

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「昭、俺が炭鉱の怪から回復して、線の軌改良事の飯に入っただ。宿のがりのドヤで、残飯漁りのような雇いをやっていたあいつを、偶然見かけたんだよ」

の記憶のの佐藤信吉は、歳の面を完全に失っていた。 沢の町をた信吉は、京の繊維に「田健」として潜り込んだものの、と持たずに逃げしていた。偽名が見する恐怖と、過酷な労働に耐えかねたのだ。そのは盛りの皿洗いや屑拾いを転々とし、ヤクザの博打宿の使いりまでを落としていたという。

「あいつ、俺の顔を見るなり、だらけのを擦りつけて泣いたよ。『健、すまねえ、俺のせいで、おまでを棒に振らせちまった』ってな」

い声が、夜へと染み込んでいく。

「信吉はっていたんだ。自分がを逃げしたせいで、沢の町で『田健が蒸発した』と騒ぎになり、サダさんがどれほど追い詰められたかを。の便りで母親がんだと聞いた、信吉は隅田川にび込もうとしたらしい。……俺はあいつを殴れなかったよ。殴ったところで、んだ母ちゃんがき返るわけでも、失われたが戻るわけでもねえからな」

は自らの焼けしたきなのひらを広げ、じっと見つめた。

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「俺は信吉に言った。『もう田健を名乗るのはやめろ。俺も佐藤信吉を捨てる。とも、自分の名を取り戻して、をすすってでも線き直そう』ってな。……あいつはその、常磐線の貨物ヤードの連結になって、真面目に働き始めたよ。に、操の事故でを挟まれて、今は松戸のさな鉄所で静かに暮らしてる」

とも、代の激流に翻弄された犠牲者だった。 戦の混乱期、族を守るために名を偽り、互いのをすり替えてしまった。 どちらが加害者で、どちらが被害者なのか。そんな元論では到底割り切れない傷痕が、昭という代のくに埋もれていたのだ。

きく揺れ、減速を始めた。 内アナウンスが、眠たげな乗客たちを起こすように告げる。

『まもなく、ノ関、ノ関です。沢線方面、接続列はございません。当線は廃止となっておりますので、ご注ください……』

なアナウンスの言葉に、健の指先がピクリとねた。 「……接続列は、もうないんだな」

「ええ」 修がり、網棚からの荷物をろした。 「ここからは、線を歩くしかありません」

ノ関駅の構内れ、錆びついた鉄条網で封鎖された「旧沢線起点」の分岐点に、修と健っていた。

本線のレールはり輝いていたが、分岐してへと向かう沢線のレールは、わずか数で赤茶の錆に覆われ始めていた。

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