"廃線駅に殘された最後の切符" 第15話
沢駅が廃止されてから、本の鉄は驚異なスピードでその姿を変えていった。
昭、本万国博覧会。 幹線は「ひかり」の増発をね、全国で化と複線化がめられた。蒸気関は「る公害」「非効率の象徴」として次々とを落とし、ディーゼルカーや性能へと置き換えられていった。
そして、国鉄の経営悪化に伴い、昭から代にかけて、方のいわゆる「特定方交通線」が、全国で次々と廃止の対象となっていった。 沢線のように、代の役目を終えたとされた何百もの赤字線が、バス転換され、レールを剥がされていった。
修は、盛岡、仙台、そして京の運転指令所へと転勤をねながら、その激の代を最線で駆け抜けた。 理化、民営化、国鉄の分割。 昭()、国鉄はそのい歴史に幕をろし、「JR」というたな民企業グループへとまれ変わった。
その、修は幾度となく健と顔をわせた。 幹線の夜事現で、保線課となった修が巡に訪れると、そこにはいつも、ヘルメットを被り、にまみれてレールを睨みつける健の姿があった。 が言葉を交わすことはなかった。ただ、すれ違いざまに軽く会釈を交わし、互いの胸ポケットにある「見えない券」
広告
のみを確かめうだけで分だった。
ある夜、野駅のホームで、幹線の軌最終点検を終えた健が、缶コーヒーを差ししながら修に言ったことがある。
『田君。俺たちのやってることは、本当に正しいのかな』
『どういうですか、田さん』
『幹線ができて、京とはで結ばれた。……だがな、便利になればなるほど、は故郷を捨てるのが簡単になっちまったような気がするんだ。あんなに苦労して、あんなに涙を流して汽に乗った代の方が……は自分の元を、しっかり見つめていたんじゃないのかな』
修はその問いに、答えることができなかった。 効率とスピードを追い求めた結果、本から失われていった無数の「さな駅」と、そこに息づいていた温もり。 源吉が守ろうとしたものは、単なる本の赤字ローカル線ではなく、がとしてち止まり、振り返ることのできる「の結節点」だったのかもしれない。
そして代は、激の「昭」から、静かな「平成」へと移り変わっていった。
平成()、。 昭のあののから、ちょうどの歳が流れていた。
歳になった修は、JR本の方支社を期退職し、ある目のために、ぶりに沢の町を訪れていた。
駅の景は、すっかり様変わりしていた。
広告
かつての丸万商は板をろし、商の引き戸のほとんどには「貸舗」の札が貼られていた。裾にはバイパスがり、型のダンプカーが猛スピードで砂煙をげて通り過ぎていく。
だが、町のれの切り通しを抜けた、修のが止まった。
そこには、奇跡のように、あのの造駅舎がそのままの姿で残されていたのだ。 根のトタンは赤く錆び、板壁のペンキは完全に剥げ落ちていたが、元の々が保運を続け、公民館の分館として解体を免れていた。
に覆われた改札をくぐり、ホームへる。 レールはすっかり撤され、だった所には、の歳が育てた芒(すすき)の穂が、にの波を打っていた。
「……やっぱり、ここに来ていたんですね」
修が声をかけると、ホームの端、かつて源吉が倒れたあの所のベンチに座っていた初老の男が、ゆっくりと振り返った。
田健だった。 歳。先、幹線の軌技術顧問を完全に勇退した男の髪は、すっかり純に染まっていた。 その膝のには、黒革の使い古した財布が置かれていた。
「田君……いや、もう田さんだな」 健は目尻を細めて笑った。その笑顔は、かつての朝に見せたの面そのものだった。
「お疲れ様でした、田さん。無事故記録の達成、聞で拝見しましたよ」
修が隣に腰をろすと、健は財布から、枚のさな片を取りした。
に発券され、に改札鋏を入れられた、あの券だった。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
昭和五十一年、消えた父の声を十八年後に聞いた
昭和51年、深夜番組の途中で言葉を止めたアナウンサー・孝一が、そのまま姿を消した。局から消えた200万円を持ち逃げしたと疑われ、家族には盗人という噂だけが残る。18年後、娘の奈津美は放送局の壁から、当夜の未放送音声を記録したテープを発見する。 調査の末、孝一はダム建設に伴う戸籍偽装と土地補償の不正を知り、死亡したことにされた女性の娘を守ろうとして町を離れたと判明する。200万円の受領書も局幹部による偽装だった。しかし危険が去った後も、孝一は家族に拒絶されることを恐れ、自ら帰らない年月を重ねていた。 奈津美たちは父と再会するが、すぐに昔の家族へ戻ろうとはしない。父の潔白だけでなく、その後の沈黙も記録に残し、それぞれの距離で関係を築き直す。資料館では途切れた放送と地域の声が保存され、孝一は新たな記録に《今度は、返事がなくても、自分から確かめる》と書き残した。昭和|ミステリー|真相|行方不明2.7万字5 0 -
完結第19話
廃線の駅で待ち続けた父
昭和37年、源吉は毎週金曜日、15年前に列車が来なくなった青谷駅のベンチで誰かを待っていた。駅員の中村が古い記録を調べると、源吉の息子・修一は終戦後の列車事故で消息を絶っていた。 しかし修一は、事故の直前に戦災孤児の健一を助けるため列車を降りていた。源吉が本当に待っていたのは息子ではなく、「修一さんに助けられた。いつか会いに行く」と手紙を送った健一だった。 中村は30歳になった健一を探し出す。修一の家族を苦しめることを恐れ、15年間会いに行けなかった健一は、最後の金曜日に青谷駅を訪れる。源吉はその顔へ震える手を伸ばし、「修一に似ている」と静かに告げた。歴史|昭和|ミステリー2.9万字5 0 -
完結第11話
帰国した父が「家族を忘れた」と言った日
5年間の海外赴任を終え、昭和47年に帰国した隆夫。しかし家族の思い出を避け、海外での仕事ばかり語る父に、息子の修一は「家族を忘れてしまった」と感じ、親子の距離は広がっていく。 ある日、修一は父の鞄から、家族へ送られなかった大量の手紙を見つける。隆夫は家族を忘れたのではなく、自分が父親として忘れられることを恐れていた。帰国後も、5年間不在だった自分と向き合えず、海外で成功した会社員として振る舞い続けていたのだ。 再び海外赴任と昇進を提示された隆夫は、初めて会社ではなく家族を選ぶ。数年後、社会人になる修一へ「仕事は大事だ。でも、帰る場所をなくすな」と伝える。本当の意味で家族のもとへ帰るまでの、父と子の再生の物語。時代|歴史|昭和1.7万字5 0 -
完結第12話
消えた姉と18年後の手紙
昭和39年、19歳の佐和子は東京の洋裁店へ働きに出るため、柳行李を上野駅へ送った。しかし本人は店に現れず、上野に届いた荷物からは財布、印鑑、戸籍関係の書類だけが消えていた。家族は、佐和子の帰りを待ち続ける。 18年後、弟の浩二は父の遺品から、姉が乗るはずだった夜行列車とは別方向の列車に印を付けた時刻表と、失踪から2か月後に届いた姉の手紙を見つける。父は、佐和子が生きていることも、自ら家を離れたことも知りながら、家族へ隠していた。 横浜で姉を見つけた浩二は、佐和子が家族のために決められた人生から逃れ、自分の道を選んだと知る。やがて佐和子は弟と列車に乗り、母の墓がある故郷へ向かう。今度は誰かに決められた旅ではなく、自分の意思で選んだ帰郷だった。時代|歴史|昭和|ミステリー1.7万字5 0