みかん小説
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"帰国した父が「家族を忘れた」と言った日" 第8話

座敷にいた数の男たちが、卑屈な嘲笑を浮かべて振り返った。かつて父の同期だった男たち、あるいは父の失脚によって世の階段を駆けがった本社のエリートたちだった。

「聞いたぜ、野の倉庫で昔のゴミ伝票の理をしてるんだってな。ドイツ帰りの幹部が、今じゃ埃まみれの類番かよ。英語でカッコつけてたあの頃の面はどこへっちまったんだ?」

酒の匂いを撒き散らしながら絡みつく男に対し、父はるでもなく、言い返すでもなく、たださくげた。

「……内か。久しぶりだな。おが営業本部の部になったと聞いたよ。おめでとう」

「へっ、皮肉かよ! おがドイツで穴をけて逃げ帰ってきたおかげで、残された俺たちがどれだけケツ拭きで奔したとってんだ! 会社のを億単位でドブに捨てた男が、よくも抜け抜けと京で飯がえるもんだぜ!」

内は父ののコップ酒を指先で突き、黄い酒をカウンターのに零した。

健次は息を呑み、拳を握りしめての引き戸にをかけた。び込んで、父を侮辱するこの男を鳴りつけてやりたかった。

だが、父の次のが、健次のを釘付けにした。

父はがらなかった。

こぼれた酒を、持っていた自のハンカチで静かに拭き取り、零れずに残ったコップの酒を、両で持ちげて喉へと流し込んだ。

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そして、内の目をまっすぐに見据えて、く、げた。

内、おの言う通りだ。俺の無能のせいで、会社にも、おたちにも、取り返しのつかない迷惑をかけた。本当にすまなかった」

切の誤魔化しも、虚勢もない、完全な謝罪だった。

内は拍子抜けしたようにを噤み、振りげた拳のを失ったように線を泳がせた。周囲の男たちも、居悪そうにグラスを見つめている。

父は千円札を枚カウンターに置き、脇に抱えていた包み――所の本で買ったとわれる参考の包みをに取ると、静かに会釈をしてった。

吹きすさぶ夜へ踏みしてきた父の息はく、その取りは決して逃する者のそれではなく、をかぶりながらも己のを引き受けて歩む、誇り取りだった。

健次は柱のから駆けし、し先を歩く父の背に向かって、声を張りげた。

「お父さん!」

父がを止め、驚いたように振り返った。

暗がりので、息を切らして駆け寄ってくる息子の姿を認めた瞬、父の厳しい顔が、柔らかなに包まれた。

「……健次。どうしたんだ、こんなところで」

「ううん……今、塾の帰り」

健次は嘘をつき、父の隣に並んだ。父のコートからは、わずかな本酒の匂いと、の夜たさが漂っていた。

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「そうか。寒かっただろう」

父は自分のポケットから温かい缶コーヒーを取りし、健次のえ切った掌に握らせてくれた。

「帰ろう。今夜は母さんが、根の呂吹きを作ってくれているはずだ」

が、灯の黄く伸び、並んで夜を歩きした。健次は、父のポケットので握りしめられているが、もう度と震えていないことをっていた。

48215、都の入学願受付の最終

京は、夜からの記録に見われていた。世田面の世界に閉ざされ、始発のはポイント故障で幅に乱れていた。

のちゃぶ台のには、墨で清された都の入学願が置かれていた。

健次は制のボタンをまで留め、緊張で青ざめた顔で玄関の靴を履こうとしていた。母の節子は、の運状況を伝えるラジオの臨ニュースにを澄ませながら、おろおろとを擦りわせていた。

「どうしましょう、井の線も央線も止まっているそうだわ。正午の締め切りまでに、阿佐ヶまでたどり着けるかしら……」

の提は、郵送ではなく、本が学の窓へ直接持参することが厳格に定められていた。正午を1分でも過ぎれば、いかなる理由があろうと願は受理されず、受験資格そのものを失うことになる。

その、奥の部から防寒着を着込んだ父が現れた。

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