"廃線の駅で待ち続けた父" 第3話
【青支線・第904列 脱線転覆事故調査報告(昭2010)】
は息を殺し、結び目を解いた。 黄ばんだ藁半のページをめくると、謄写版刷りの鮮な文字と、事故現のきの見取り図が現れた。
昭、曜。 方および満州からの引き揚げ兵を満載した臨復員列(蒸気関C56牽引、客両編成)が、豪のを、青駅の第隧(トンネル)をた直に規模な砂崩れに遭遇。関と両が脱線し、増した青川の濁流へと転落した。
者、名。軽傷者、百名。 戦の混乱期、備良と過密ダイヤが引き起こした典型な鉄事故――公式の聞報では、そう片付けられていた。
しかし、がページをめくっていくと、次第に穏な記述が目ち始めた。 事故現から収容された遺体の元確認。そのの枚に、目指す名があった。
『陸軍等兵 本修(当21歳)』
だが、その欄には、の戦者や事故者にあるはずの印がなかった。 「遺体受領印」の欄が空欄のままなのだ。 そして、欄には青インクの細い文字で、こう殴りきされていた。
『遺体検分ノ際、該当ナル兵曹ノ遺骸ナシ。川ヘノ流失ト推定サレルモ、現ヨリ流数キロニワタリ捜索セルモ発見ニ至ラズ。ノママ公務トシテ処理済』
修の遺体は、見つかっていなかったのだ。
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流されたと推定されただけで、どこにも遺骨はなかった。
さらにの目を釘付けにしたのは、事故列の「編成表」の添付資料だった。 客の形式、乗定員、所属部隊名が並ぶ、最尾の号――脱線を免れ、トンネル内に取り残された両の備考欄に、奇妙な鉛きが残されていた。
『特種隔トシテ運用。般復員兵ノ入ヲ禁ズ。乗員:軍医官2名、護兵3名、被護送者……』
被護送者。そのの文字は、何者かのによって図に黒インクで塗り潰されていた。 は懐灯のをの裏側から当てて透かしてみた。 塗り潰された文字の輪郭が、微かに浮かびがる。
『……伝染病隔患者、並ビニ……児童名?』
(児童……? 軍用列に、なぜ子供が乗っているんだ?)
戦からの引き揚げ兵を運ぶ軍用列に、隔された子供が乗っていた。 そして、その事故の直、目撃された記録があった。
報告の末尾に綴じ込まれた、当の青駅信号所の信号による聴取。 そこには、公の記録から抹消された、戦慄すべき証言が残されていた。
『列ガトンネルニ入ル直、最尾ノ両カラ、兵隊トシキ男ガ、サナ荷物ヲ抱エタ子供ノヲ引イテ線脇ノ藪ヘビリタノヲ見タ。ソノ直、鳴リト共ニガ崩レ、列ハ川ヘ落チタ』
の背筋をたい汗が伝った。
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本修は、列事故に巻き込まれてんだのではない。 事故が起きる直、子供を連れて、自らので列から脱していたのだ。
だとすれば、なぜ修は方のままなのか。 なぜ、今まで実に戻ってこなかったのか。 そして、源吉が持っていた「昭」の切符は、この脱劇とどう結びついているのか。
バサリ、と暗ので音がした。 が驚いて振り返ると、倉庫の扉がわずかにき、夜の気の向こうに、がっていた。
「……夜いみたいな真似はせんな、君」
懐灯のが照らししたのは、青駅の駅・梨(歳)の、能面のようにたい顔だった。
駅の梨は、普段の温な貌をかなぐり捨て、え切った差しでの元にあるファイルを見つめていた。 には、真鍮のな鍵束が握られている。
「梨駅……これは、体どういうことなんですか」
はファイルを胸に抱え込み、退りしながら問いかけた。
「本修さんは、事故でんだんじゃない。事故の直に、子供を助けるために列からびりていた。それなのに、なぜ公務として片付けられているんです? それに、この『隔両』に乗っていた子供とは誰なんですか!」
梨はくいため息を吐きすと、倉庫の引き戸を内側から静かに閉め、閂(かんぬき)をろした。
カチリと属音が暗に響く。
「君。君はまだ代半だ。
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