"廃線の駅で待ち続けた父" 第9話
「源吉さん、お願いですからに帰ってください!」 柴田が駆け寄り、老の腕を掴んだ。 「昨夜、京から物騒な男たちが町に入り込んでいるという噂があるんです! あなたを探しているらしいんだ! 今だけは、ここにいちゃいけない!」
しかし、源吉は頑としてかなかった。 老いた骨張ったで、の積もり始めたプラットホームをしっかりと踏みしめ、柴田のを静かに振り払った。
「柴田さん。……わしはな、っとるんじゃよ」
源吉の静かな言葉に、柴田と梨は息を呑んだ。
「この鞄のに、何が入っとるか。……そして、あの列で何が起きたのか。わしが何もらんで、もここに座っとるとうておったのか」
源吉は胸の黒革鞄をおしそうに撫でた。
「昭の、あの子が……健が、この駅のゴミ箱の裏にこの鞄を置いて逃げていくのを、わしは向かいの松ののから見とったんじゃ。追っがすぐそこまで迫っとった。あの子は、わしを巻き込むまいとして、名乗りもせずにで逃げていったんじゃよ」
「な……っていたんですか!?」梨が絶句した。
「ああ。わしは夜にその鞄を掘りし、に隠した。をけようとはわんかった。……あの子が、自分ので返しに来るまではな。あの子が背負わされた荷を、わしが半分引き受けてやらねばならん。
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修の親として、それがあの子への供養じゃとうたんじゃ」
源吉はの積もる跨線を渡り、あの廃ホームへと向かって歩き始めた。
「待つんじゃ。今、あの子は必ず来る。……どんな姿になっておろうと、わしはあの子のを握ってやらねばならんのじゃ」
老の背はさく、曲がっていた。しかし、その取りには、の苦難を耐え抜いた者だけが持つ、巌のような威厳が満ちていた。
同じ頃。 本線の臨急列が、激しい煙を巻きげながら、へと疾していた。 その等客の通側シートに、と血にまみれたの姿があった。
昨夜、鉄所の窓を割り、ガラス片で腕を切り裂きながら脱したは、夜通し歩いて国鉄の幹線駅へと辿り着き、始発の急にび乗ったのだ。 体が軋むように痛む。肋骨にヒビが入っているらしく、息をするたびに激痛がる。
だが、はだけを見つめていた。 数両の等には、黒崎とそのたち、そして錠をかけられコートで隠された田健が乗っている。 彼らは午に青駅のつの主駅でり、そこからで青へと先回りする計画のはずだ。
(にってくれ……!)
は祈るように、窓のを流れる景を見つめた。 汽が青駅に滑り込むのは、午分。
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約束の「曜の」まで、わずか分だった。
昭、曜。午分。 汽笛の鋭い咆哮とともに、黒い煙を吹きげながら、本線り普通列が青駅の現役ホームへと滑り込んだ。
客のドアがくよりもく、はの積もるホームへとびりた。 着の衝撃で脇腹に激痛がり、わず膝をついたが、を掴んで無理やりちがる。
「君!」
改札からびしてきた梨駅が、と血にまみれたの姿を見て目を見張った。
「怪をしているじゃないか! 体何があったんだ!」
「駅……源吉さんは……!? 源吉さんはどこです!?」
は息を切らし、梨の肩を掴んで詰め寄った。
「……あそこだ。昼からずっと、旧線のベンチに座っている。何を言っても梃子でもかんのだ」
梨が指差した先――跨線を渡った向こうの廃ホーム。 激しさを増すの、本の傘も差さず、源吉はあの製ベンチに座り続けていた。 すでに鳥打のにも、肩のにも、いがうっすらと積もっている。胸に抱かれた黒革鞄だけが、体温を守るように両腕の奥くに抱え込まれていた。
「黒崎たちが来ます……! で裏から回って、もうそこまで来ているはずだ! 健さんも緒です!」
その言葉が終わるか終わらないかの瞬だった。
駅舎の裏、旧線の線跡に続く荷物用引き込み線のゲートを蹴破り、型のクラウンがタイヤを空転させながら乱暴に乗り込んできた。
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