"廃線の駅で待ち続けた父" 第12話
は面に膝をついたまま、源吉の元から滑り落ちた枚の便箋から、どうしても線をすことができずにいた。
『帰ったら、父の畑を緒に耕しましょう。しい米の種を、たくさん持って帰ります。修』
表側に記されたその言葉は、確かに戦から故郷へ帰ろうとした青の、汚れなき祈りそのものだった。 だが、が息を呑んだのは、に煽られて裏返った、そのの片隅だった。
い藁半の繊維の奥くに、茶褐に変した古い染みが点々と散っている。それは紛れもなく、の血液が固まった痕跡だった。 そしてその血痕を避けるようにして、鉛の先を押し潰すような異様な圧で、震える文字がだけ、殴りきされていた。
『ぼくが、しゅういちさんを、ころした。だから、けいさつに、わたしてください』
の全を、底れぬ悪寒が突き抜けた。
「……ぼくが、殺した……?」
わずから漏れた呟きを、のでうずくまっていた田健のが捉えた。 歳の男の肩が、まるでを浴びせられたかのように激しく痙攣した。
「健さん……これは体、どういうことですか」
はちがり、便箋を両で挟むようにして健のに差しした。 「あなたは先ほど、修さんは川原の岩にを打してくなったと言いましたね。
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事故で、抗力で命を落としたのだと。……それなら、なぜこの裏に、あなたが修さんを『殺した』といてあるんです!?」
健は顔を覆っていた両を力なくろした。 と涙にまみれたその顔は、もはや歳のの男のものではなかった。、飢えと恐怖の極限に晒され、すべてを奪われた歳の孤児の顔そのものだった。
「……本当のことだ」
健の唇の端から、乾いた笑いが漏れた。
「俺が殺したんだよ。……川原に落ちて、修さんがから血を流して倒れていた、あそこにはもういたんだ」
「もう……?」
「ああ。……列から緒にびりた、あの黒崎のの軍医だよ」
健の告に、梨駅と柴田が目を見張った。 昭、あの嵐の曜。 に葬られた脱劇の現には、修と健のだけではなかったのだ。
「その軍医が、軍刀を抜いて俺に襲いかかってきた。塊の隠し所の暗号を吐かせようと、俺の首元を切りつけながら……! 俺は必で抵抗した。落ちていたを掴んで、無で振り回したんだ。……だけど、そのが当たったのは……」
健の喉が、引き裂かれるような音をてた。
「俺を庇おうとして、最の力でび込んできた……修さんのだったんだよ!!」
のに、健の絶叫が突き刺さった。
歳ののので、たく濡れた川原のが、鈍い音をてて肉と骨を砕いた。
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その々しい触を、健のの掌は、片も忘れることができなかったのだ。
「俺は……軍医のを殴ったつもりだった。暗ので、豪ので、誰が誰かも分からなくなっていて……! だけど、倒れ込んできたのは、俺を抱きしめようとした修さんだったんだ」
軍医はその隙に怯え、増した本流の濁流のへとを踏みして押し流されていった。 残されたのは、濁流が渦巻く岩で、から真っ赤な血を吹きしながら倒れ伏す、歳の本修と、血塗れのを握りしめたままち尽くす歳のだけだった。
「俺は泣き叫びながら、修さんの名を呼んだ。修さんは……息も絶え絶えになりながら、血まみれので俺の頬を触って……笑ったんだよ」
健の瞳から、濁った涙がボロボロと零れ落ちる。
「『良かった……おが、無事で……良かった』って……! 俺が殺したのに! 俺のせいでを割られたのに、あのは俺を許したんだ! そして、あの黒革の鞄を指差して、『親父のところへけ……おは、親父の息子になれ』って言ったんだよ……!」
修はその言葉を最に、度と目をけることはなかった。 は震えるで、修のポケットからメモ帳と鉛を取りし、鞄のにあった便箋の裏に、自らの罪を告する言葉をき殴った。 警察に突きしてもらおうとった。
刑になってもいい、首を吊られてもいい。 そういながら、鞄を抱えて、本を逃げ回ったのだ。
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