"廃線の駅で待ち続けた父" 第18話
代わりに置かれていたのは、の皮に包まれた、さなつの握り飯だった。
「……源吉さん」
が声をかけると、老はゆっくりと振り返った。 その顔には、かつてのような張りも、くを見つめる切のもなかった。 夕陽を浴びた瞳は、穏やかに澄み渡っていた。
「さんか。今もえるのう」
「ええ、しがてきましたね。……もう、線はありませんよ」
が微笑みながら言うと、源吉は更となった面を見つめ、さく頷いた。
「ああ。分かっとる。……線はのうなった。汽も、もう度とここへはってこん」
「じゃあ、どうして今もここへ?」
源吉は懐にを入れた。 そして、取りしたのは――あの昭の、付の入った枚の券切符だった。 が最初に見た、あのの切符だ。
「これを受取って欲しくてな」
源吉は両で、その切符をへと差しした。
「さん。おさんは、わしと健の恩じゃ。おさんがあの事故の記録を掘り起こしてくれなんだら、わしらは、互いをみ、呪いながらんでいくところじゃった」
「そんな……僕は何の役にもっていません。ただ、真実がりたかっただけで……」
「ええんじゃ」 源吉はのを取り、その掌に券切符をぎゅっと押し込んだ。 「この切符はな、修が健にくれた『未来の切符』じゃった。……健は、遅れて、ちゃんとわしのへ辿り着いてくれた。
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だから、この切符の役目は、もう終わったんじゃよ」
切符のの触が、のの平に伝わってきた。 そこには、という途方もない歳のみと、の男がき抜いた苦難の歴史が、確かに刻み込まれていた。
「……切に、保管させていただきます」 が々とをげると、源吉は満そうに微笑んだ。
その、改札の方から、軽やかな音がづいてきた。 「お父さん!」
作業着の袖をまくった健が、息を切らせてホームへと駆け込んできた。 には、農協で買ってきたばかりの野菜の種袋が抱えられている。
「待たせてすまない! の終礼がし引いちまってさ」
「ええんじゃよ、健」 源吉はゆっくりとちがった。 「汽はな、たまには遅れるもんじゃ。……さあ、帰ろうか。今夜は、母さんの残した噌で、温かい根汁を作ろう」
「ああ、いいね。俺、腕によりをかけて薪を割るよ」
は並んで歩きした。 更となったホームをり、改札を通り抜け、夕焼けに染まる本を歩いていく。 源吉のし曲がった背と、健の逞しいきな背。 つの法師が、初の面に寄り添うようにく伸びていった。
はのの切符を固く握りしめ、その背が見えなくなるまで、ずっと見送り続けた。 もう、誰も来ない列を待つ必はない。 彼らのは、確かに、しい未来へと向かってきしていたのだ。
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それから、の歳が流れた。
元号は昭から平成へと移り変わり、本はバブル経済の絶頂とその崩壊を経験し、々の暮らしは劇に代化していった。 蒸気関はとうに博物館の展示物となり、国鉄は分割民営化され、青駅もまた、最の自券売とエアコンの効いた代な駅舎へと建て替えられていた。
平成、。 青駅の駅で、歳になった透は、退職のを迎えていた。 髪交じりになったは、駅としての最の事務を終え、机の引きしの奥から、さな桐の箱を取りした。
蓋をけると、には枚の茶く変した券切符が入っていた。 【昭231015 青支線・第14列 青】
余、あのの廃ホームで、本源吉から託された切符だった。 源吉は、昭、歳で寿を全うした。 最期は、健と、健が迎えた優しい妻、そしての幼い孫たちに囲まれ、自宅の畳ので、眠るように息を引き取ったという。
息子の修が見ていた「青の畑」は、健のによって見事に守り継がれ、今では町でも数の広な果園へと姿を変えていた。 健もまた、国鉄の両を定まで勤めげ、今では派な髪の老となっていた。
トントン、と駅のドアがノックされた。
「駅、お客様がお見えです」
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