みかん小説
本棚

"父の葬儀を捨てた夫へ、亡き父が遺した最後の証拠" 第1話

父の告別式の読経が厳かに響き渡る斎で、夫・健太郎のスマートフォンがく、執拗に3度震えた。

列の喪主席に座っていた美央は、背筋を伸ばしたまま、線だけを隣の夫へ向けた。祭壇には、闘病の末に71歳で息を引き取った父・正雄の遺が飾られている。まだ病魔に冒される、庭のを背にして穏やかに微笑んでいる父の姿だった。

健太郎は膝ので画面を伏せるように覗き込み、眉に険しい皺を寄せた。

「……会社で緊急のトラブルがあった。し抜けてくる」

元に落とされたその囁き声に、美央は喉までかかった問いかけを必み込んだ。喪主である自分がここで声を荒らげれば、父を見送る厳粛なが台無しになってしまう。しかし、健太郎は会館のロビーにて会社へ話をかけ直す素振りすら見せず、受付とは正反対の非常階段側の通用へとに向かっていった。

その取りには、突然の仕事に慌てるの焦燥ではなく、あらかじめ予定されていた所へ向かうかのような、滑らかで迷いのない異様な気配が漂っていた。

美央は胸の奥で疼く得体のれない違を押し殺し、正面へ向き直った。ここで夫を追いかければ、父をきりで送ることになる。それだけは絶対に避けたかった。

広告

膝のく握りしめていた指先をゆっくりとき、僧侶のく通る声にわせて静かに息をえた。

読経が終わり、参列者への礼状と挨拶が始まった。父が勤めていた属加会社の元同僚や、隣の町内会の々が次々と美央のげた。

「正雄さんには、若い頃に本当に目をかけてもらってね」

髪の男性が声を詰まらせてを差し伸べてきた。美央は両ね、く腰を折った。

「父が変お世話になりました。父も、皆様と過ごした々を最まで誇りにしておりました」

言葉をねるごとに喉の奥が引き攣りそうになったが、気丈にげ続けた。参列者の列が途切れ、式の片付けが始まる頃、母方の叔母である節子がそっと美央の肩にを添えた。

「美央ちゃん、無理しちゃ駄目よ……ところで、健太郎さんは? まだ戻らないの?」

節子の線は、入りの自ドアへと向けられていた。親族控に戻るになっても、婿である健太郎の姿はどこにもなかった。

「……会社でどうしてもせない急用が入ったみたいで」

美央は夫を庇うようにく答えた。しかし、節子は眉をひそめ、納得のいかない表で呟いた。

「今じゃなきゃいけない仕事なんて、そうそうあるものかしらね。実の父親の葬儀よ」

責める調ではなかった。

広告

だからこそ、その静かな疑問が美央の胸の奥くにたく突き刺さった。

もなくして、棺に最向けのを納めるとなった。葬儀社の担当者に促され、美央は父の枕元へ歩み寄った。氷のようにたくなった父の頬の横に、純の菊の輪添えた。

「お父さん、ありがとう……本当に、ありがとうね」

声にした瞬界が歪んだ。

本当なら、この所には健太郎も並んでっているはずだった。父は寡黙な職気質のだったが、健太郎に対して理尽に厳しく当たることなど度もなかった。の結婚の際も、「美央が選んだ相なら、俺は信じるよ」と笑って背を押してくれたのだ。

棺の蓋が音もなく閉じられ、釘打ちの儀が静かに執りわれた。

棺の直、葬儀社のスタッフが申し訳なさそうに美央の元へ歩み寄ってきた。

「喪主様、へ向かうマイクロバスの配確認でございますが……ご主様のお席はどういたしましょうか」

美央は元のスマートフォンを確認した。着信履歴にもメッセージアプリにも、健太郎からの連絡は件も届いていなかった。発信ボタンに親指をねたが、押すことはできなかった。今ここで話をかけて「どこにいるの」と問い詰めたところで、無力と屈辱が塗りされるだけだと本能が告げていた。

「……空けたままで結構です。先に発してください」

「承いたしました」

霊柩に棺が収められ、クラクションのい音がの曇り空へ吸い込まれていった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: